カズキの逆襲! VSへドラゴン
仕事関係でのゴタゴタが続いている都合上、更新が遅れがちになってすみません。更新速度を上げるにはもう少し時間がかかりそうです。
対面を果たしたところで、両者にステータス補正がかかる。どうやら、へドラゴンで一騎打ちを挑むようだ。
「それでは始めるぞ。テト選手対カズキ選手、バトルスタート」
ファイモンマスターの掛け声に合わせ、へドラゴンがあぎとを開く。喉の奥から臭気が漂う。反射的に鼻をつまんだライムだったが、次の瞬間軒並みならぬ気配を察知して飛びのく。
「ヘドロシュート」
へドラゴンの口からヘドロの塊が発射される。もし、ライムが鼻をつまんだまま留まっていたならヘドロまみれになっていたところだった。実際には地面に吐き捨てられることとなったが、残骸は直視するのを憚れる程おぞましい。
「よく躱したな。ヘドロシュートはへドラゴンの得意技。受けると毒状態になることもあるから注意しな」
「ご忠告ありがとう」
カズキは技の追加ダメージをも駆使して徹底的に攻める戦法を得意としている。毒ダメージを付与できるヘドロシュートは彼のスタンスと相性がいいといえた。
ライムは指先に光を灯して標的を定める。汚物モンスターが相手だと、近距離技主体でなくてよかったと心底実感させられる。朧が彼と対峙することになった場合、彼女は苦心させられること間違いなしだ。
「ライトニング」
闇属性相手ということで光属性の射撃技を放つ。まばゆい閃光を放ちながら、光線弾が炸裂する。図体がでかいこともあり、いとも簡単に命中したが、減少した体力は二割にも満たなかった。
「ぶよぶよしてるから軟かと思ったけど、意外と固いのね」
「当たり前だ。へドラゴンの素早さは最低クラスだが、その分攻撃力と防御力はピカイチだぜ」
メガゴーレムも似たようなステータスを誇っていたが、へドラゴンはそれを更に極端にしたような能力値を有している。華奢なライムが攻撃を一発でもまともに受けようものなら、即座に窮地に追い込まれてしまう。
そしてもちろん、単純に攻めるだけという戦法を取るほどカズキは甘くはなかった。ライムが間合いを図って牽制していると、一枚のスキルカードを取り出した。
「お前相手に出し惜しみをする必要はないからな。とっておきのコンボを見せてやる。スキルカード逆鱗」
「初っ端からそれ!?」
ファイモンではメジャーな最強クラスの能力値強化カード。素早さ上昇は焼け石に水だが、攻撃力と防御力を更に上げられてしまったのは痛い。心なしかヘドロの量が増幅し、一回り巨大化しているように見える。
そして、驚愕するのは時期尚早であった。
「へドラゴン、リサイクルだ」
「何だって」
命じられるや、へドラゴンは前脚を持ち上げ地面を叩いた。衝撃で身体に纏っているヘドロが跳ねる。そのしぶきが閃光へと変換され、カズキの手元に集約されていった。やがて、四枚だった手札に五枚目のカードが加わる。否、加わるという言い方は語弊がある。使用済みであったカードが復元したのだ。なにせ、新たに加わったカードの正体は「逆鱗」だからである。
トラッシャーに変身を繰り返していたので、「リサイクル」という技の効果は熟知している。体力を犠牲にすることで使用済みのスキルカードを復活させるのだ。元々厄介な技ではあるが、へドラゴンの場合は恐るべきコンボを成立させてしまっていた。
「まさか知らないわけないよな。へドラゴンの無限逆鱗。リサイクルによって逆鱗を復活させることで、いくらでも能力値を強化できるってわけだ」
説明を聞くだけでも充分に脅威だが、ライムは別の意味で恐れ慄いていた。実は、これと全く同じ戦法を過去に使ったことがあるのだ。そう、前大会で朧にトドメを刺した時の戦法。よもや、自分がそれと対峙する羽目になるとは夢にも思っていなかった。
「感謝するぜ、テトにライム。お前らが決勝戦でこのコンボを発見して以来、自前で成立させられるへドラゴンが台頭してきたからな。さあ、行くぜ。逆鱗発動」
復活させたカードを振りかざし、へドラゴンを更に強化させる。二段階も攻撃力を急速上昇させられてしまっては耐えきれる自信はない。また、反撃しようにも生半可な技では傷一つ付けられないだろう。へドラゴンは前述のステータスの他は毒を無効化するアビリティぐらいしか持ち味がなかった。だが、このコンボのお陰でメジャーモンスターへとなりあがったのである。
凶悪なコンボではあるが、突破口がないわけではなかった。まず、スキルカードを復活させるのに体力を削る必要があるので、無限には強化できないということ。加えて、勝手に自滅しているようなものなので、やりすぎると相手からの反撃で呆気なく倒されてしまう。そして、逆鱗のデメリットで自傷ダメージが発生するかもしれないということ。実際、前にカズキと戦った時はこのデメリットを利用して勝利したのだ。
もちろん、カズキは前回の対戦から学習していないわけではない。更に二枚のスキルカードを発動させた。
「スキルカード光化。へドラゴンを光属性へと変換させる。そしてスキルカード神殿。フィールドを神殿へと変更する」
ヘドロの鎧の上に更に光のオーラを纏う。そして、闘技場のフィールドが崩壊し、新たに神殿のフィールドが構築されていく。荘厳なフィールドには場違いな存在が鎮座しているのだが、そんなのは些末な問題だった。
カズキはへドラゴンにヘドロシュートを指示する。ヘドロの塊を発射しようとするのだが、痰が詰まったかのごとく咳き込んでしまう。不運にも逆鱗のデメリットが発動したのだ。これで逆に大ダメージを受けてしまうはず。
しかし、攻撃が不発に終わっただけで、へドラゴンの体力に変動はない。一連の動作をつぶさに観察していたライムは分かっているが、カズキは決して不正は働いていない。コンボにコンボを重ねてきたのだ。
「神殿には嫌な思い出しかないから分かるよ。それの効果で逆鱗の反動ダメージを打ち消したんでしょ」
「正解だ。強化とかのスキルカードで攻撃力を上乗せしてもよかったが、自滅しちゃ元も子もないからな」
相手がライム以外だったら、カズキもまた極限まで攻撃力を上げてきただろう。しかし、ライムは単純に攻撃力を上げるだけでは倒せないことを承知しているのだ。
相手が光属性に変わったことに対抗し、ライムは闇属性のダークショットで反撃に出る。しかし、体力は数ドットしか減少しない。ランダムキャノンで強化したとしても大差ないだろう。逆鱗での超絶強化を予想してか、テトはあえてランダムキャノンを渡して来なかった。もちろん、代わりに切り札になるであろうカードは託されている。
へドラゴンはヘドロシュートを連発してくる。付け焼刃でムドーの神眼の真似事をし、巧みに攻撃を躱す。だが、神眼はムドーが軌道計算、ノヴァが実動と分担しているからこそ成立できている側面がある。一人で計算しながら回避するとなると次第に無理が生じる。次の弾丸の軌道を右だと予想したのだが、足がもつれて初動が遅れてしまう。軸足を狙われ、ヘドロで足首を覆われる。半ば拘束されてしまっているところを次なるヘドロシュートが襲いかかった。
「ライムにヘドロシュートがクリーンヒット」
「逆鱗で攻撃力が二段階上昇している。耐えることのできるモンスターは皆無であろう」
解説通り、ライムのHPがあっという間に消滅していく。だが、カズキは慢心していなかった。この一撃で倒すことができるとは考えていなかったからだ。
カズキの憶測を実現するかの如く、ライムは汚物でワンピースを汚されながらもどうにか立ち上がる。残り体力は一パーセント。アビリティを使用したのは言うまでもない。
「もう、服が汚れちゃったじゃない。クリーニング代払ってよね」
冗談をかませるだけ余裕がある。そう判断したカズキはへドラゴンに更なる攻撃を命じる。
「お前がアビリティでいくらでも耐えるというなら、根を上げるまで攻め続けるまでだ。へドラゴン、ヘドロシュートを連発してやれ」
通常よりも大きく息を吸い込む。一度に何発もの弾丸を放ち、短期決戦を狙うつもりだ。矢継ぎ早に即死ダメージを喰らっては、耐えるにしても多大な体力を消費してしまう。
機は熟したと判断したライムは片手を広げる。
「スキルカード発動。革命。体力の値をひっくり返させてもらう」
へドラゴンの体力は勝手に半分程にまで減っているので、回復値は大したことはない。しかし、それよりも相手の体力を大幅に減少させられる方が重要だった。ヘドロシュートの連弾が到達するより前にダークショットを撃ちこめれば勝機はある。
だが、そう簡単に作戦を遂行させてはくれなかった。ライムがスキルカードを発動するのと同時に、カズキもまた新たなカードを取り出す。
「スキルカード対抗。革命の効果を打ち消すぜ」
定番のカウンタースキルカード。要となるカードが発動不可となってしまっては、作戦は一気に瓦解する。やけくそになったか、ライムはおもむろにダークショットを放つ。遅れてへドラゴンが実弾の発射を開始した。
先にダメージを受けるのはへドラゴンだが、なんら工夫のない射撃技など恐れるに足りない。そして、オーバーキルの連弾を受け続ければ、ライムが精魂尽き果てるのは確実。このままカズキの思惑通りに力づくでねじ伏せられてしまうのか。
勝利を確信し、カズキは余裕綽々で腕を組む。ライムは精魂尽きたのか、俯いて両手を地面につけている。そして、彼女の最後のあがきが命中しようとする。
まさにその時だった。いたずらっ子の笑みを浮かべ、ライムが一枚のスキルカードを取り出す。その瞬間、余裕があったはずのへドラゴンの体力が大幅に減少してしまったのだ。反面、ライムの体力は少しずつではあるが回復していく。
寝首を掻かれたが如く、カズキは腕を解く。慌てたところで時既に遅し。先んじてライムが放ったダークショットは僅かに残っていたへドラゴンの体力を奪い去った。その後すぐにヘドロシュート連弾が炸裂してしまう。が、既に勝負がついていたため、ライムに実害はない。
「勝負あった。最後にまさかの逆転劇を披露し、ライムそしてテト選手が準決勝に駒を進めたぞ」
トドメとばかりにファイモンマスターがライムの勝利を宣告する。頬に着いたヘドロを拭い、ライムはブイサインを決めた。
モンスター紹介
へドラゴン 闇属性
アビリティ ヘドロボディ:毒状態にならない
技 ヘドロシュート リサイクル
全身がヘドロにまみれた龍系のモンスター。
トラッシャーと同じくスキルカードを復活させることができるのだが、こいつの場合は龍系ということで恐ろしいコンボを成立させている。それは、最強のエンハンスカード逆鱗を使い回す「無限逆鱗」というもの。元はテトとライムが朧戦で使ったコンボだが、独自に使用可能ということもありこのモンスターが再評価された。
同じようなアビリティや技を持つトラッシャーの上位互換とされがちだが、トラッシャーの場合は自爆が使えたり、防御性能が上だったりと一応差別化は図られている。




