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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
4章 ハルカの思惑! ジオドラゴンの昇華!
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カズキの新たなパートナー

 東海大会は二回戦に突入。最初は不戦勝で進出を決めたロンドと朧との対決であった。お嬢様のアバターを使用しているのにふさわしく、炎の毛並みを誇るセントバーナード型のバーナードや、オウムモンスターのパロットを駆使してくる。相手に合わせてシンはデュラハンと朧で挑んだのだが、そのうちのデュラハンが倒される程の実力者であった。

 しかし、そんな彼女でも朧と相対するには力不足だった。

「決まった! シン選手、ロンド選手が使った障壁バリア天邪鬼パーバセネスでカウンター。防御が下がったところを真の太刀で猛攻を仕掛けたぞ」

「絶妙なタイミングでのスキルカードの使用。優勝候補の一角に恥じない戦いぶりであったな」

 朧が剣を差し向ける先で、パロットが翼を横たえていた。元はオウムであるはずなのだが、倒れ伏している存在はどう見ても少女の姿をしていた。ロンドもまたウイルス能力を保持したモンスターの使い手だったのだ。


「ほえ~。やっぱそぼろちゃん強いな」

 ライムは相変わらず単独で試合を観戦していた。徹人はハルカと共に、黒幕の元へ向かっている最中だ。ライムと合流するにはまだ時間がかかりそうである。

「調子はどうだ、ライム」

「うわ、びっくりしたな、もう」

 背後からいきなり声を掛けられ、ライムは跳ね上がる。戦闘を終えた朧が訪ねてきたのだった。


「そぼろちゃんは絶好調みたいだな」

「朧だ。まあ、この大会のためにちゃんとコンディションを整えてきたからな。そうでしょ、シン」

「ええ、準備は万端。いつでもライムを倒す準備はできている」

 淡々と宣戦布告され、ライムはたじたじになる。いつもなら言い返すところだが、どうにも調子が出ないのである。

 しきりに後方を気にしていたのが災いしたか、唐突にシンは触れてほしくないことを訊ねる。

「そういえば、徹人はどうしたの。姿が見えないけど」

「て、テト? えっとね、テトはね」

「どうした。大会が控えてるのに用事ってことはないよな」

 朧に詰め寄られてライムは目を白黒させた。


 テトの意向に則るのであれば、朧とシンに事件のことを明かすわけにはいかない。犯人の目星があいつなだけに、朧もまた助力を申し出るのに違いないからだ。確実に東都へ行く切符を手に入れるため。なにより、決勝において全力でぶつかり合うためにも、彼女には秘密裏にしておくのが得策である。

 ライムに返答がないのを不思議がり、朧は更に距離を縮めてくる。そこで手を叩くと、猫だましを受けたように朧は怯んだ。

「えっとね、トイレ。うん、トイレに行ってるの」

 綾瀬をあしらったのと同じ手であるが、適当な言い訳としてこれぐらいしか思いつかなかった。

「トイレね。緊張でも腹でも下したか」

「そうみたい。下痢がどうのこうの言ってたし」

 勝手に下痢にされている徹人であったが、作戦のためには致し方なかった。井戸をくぐって戦国時代に行くたびに難病にされる少女と比べればマシといえよう。


「シンもバトルの前はきちんとトイレ行っといたほうがいいんじゃない」

「ライム、お前失礼なことを言うんじゃない。シンはトイレ行かないんだからな」

「朧、私は昔のアイドルじゃない。だからきちんとトイレは行く。と、いうより、そんな恥ずかしいこと言わせないで」

 シンは顔を赤らめそっぽを向いてしまう。尻の辺りを触ってそわそわしていたが、決して催しているわけではない。

「とにかく。ケビンの件はあれど、あなたたちは全力で倒させてもらう。徹人には万全の調子を整えるよう伝えておいて」

「そういうこった。ライム、あんたを倒すのはあたい達だからな。つまらないところで負けるんじゃないわよ」

 宣戦布告を突きつけると、朧は控室から離脱していく。どうにか凌げたようだが、これ以上追及されたら誤魔化しきる自信はなかった。ライムは心配そうに天を仰ぐ。無味乾燥な天井が広がるが、虚ろな目でずっと見つめているのであった。


 そのうちに本会場からはひときわ大きな歓声があがった。二回戦第二試合の決着がついたようだ。ライムの出番は第三試合。いつまでも虚無感に囚われているわけにもいかず、頬を叩いて鼓舞する。そして、会場のフィールドへと赴いていくのであった。


「さあ注目の決勝トーナメント二回戦第三試合。なにせ、対戦カードはとんでもなく豪華だぞ。まずは優勝候補の筆頭! みんなのアイドルライムと使い手のテト選手だ」

 もはや使え手であるテトがおまけ扱いな紹介でライムが会場に招き入れられる。黄色い歓声を浴び、照れくさそうに片手を振った。ちなみに、朧も似たような歓声を受けたのだが、ライムの時の勢いはそれとは比べ物にならなかった。なので、陰で舌打ちしていたという。


「そして、対するはこれまた優勝候補。予選大会をぶっちぎりの成績で突破し、前回大会でもベスト四に入った実力者。カズキ選手だ」

 中世のならず者アバターを使用している源太郎に対抗しているが如く、現代のヤンキーのようなアバターを披露し、カズキが入場してきた。三白眼は初見の相手を萎縮させるほどの威圧感を秘めているが、ライムは不思議と腰が引けることはなかった。彼の本性を予め知っていることもあるだろう。


 ポケットに手を入れ、体を揺らして迫って来る。その顔には明らかな愉悦が浮かんでいた。

「やっとリベンジを果たすことができるな。テト、ライム」

「なんかそのセリフ、少し前にも聞いたことがあるよ」

 よもや、自分に因縁がある相手と二連続で戦う羽目になるとは、ライムも思っていなかったであろう。ただ、対戦相手の気迫は並外れている。少しでも気を許せば、そのまま圧倒されてしまいそうである。

「お前らを倒すために少女のモンスターとやらが流行してるようだが、俺はそんなのを使うつもりはない。ちんけな反則技なんかは通用しないって既に学習したからな。正攻法でぶち破ってやるぜ」

 ケビンの策略に乗り、反則スキルカードを使用したことへの反省であった。ライムも予選から観戦しているから分かるが、彼は今大会で一度として反則行為を起こしてはいない。少女型のモンスターが多数混じっている中で、それでも予選一位という実力を発揮しているのだ。朧から釘を刺されているとはいえ、油断したら確実にやられる。


 兜の緒を締めるつもりで、ライムは腰のあたりで両拳を握る。カモフラージュで表示させているテトのアバターも同様にファイティングポーズをとる。

 応じてカズキも片手を広げた。魔法陣が展開され、漆黒のオーラが迸る。

「俺の相棒のアークグレドランで挑もうとも思ったが、それよりもお前らにふさわしいモンスターを紹介してやるよ。来い、へドラゴン!」

 名前からするとアークグレドランと同じくドラゴン系のモンスター。その予想に違わず、魔法陣から最初に出現したのは長い鎌首であった。が、この時点で既に特異さが立ち現れていた。


 ファイトモンスターズにおいて臭いが再現されることはない。人間の嗅覚に刺激を与えるシステムが未だ確率されていないからだ。しかし、そいつが召還されるや、つい鼻をつまみそうになる。なぜなら、トカゲのような頭部は汚らしいヘドロにまみれていたからだ。

 そして、全身が顕わになり四足歩行の巨大な龍がお目見えする。首だけに留まらず、両脚やら胴体やら尻尾やらあらゆる部分にヘドロがまとわりついていた。簡単に言えば、全身をヘドロの鎧で覆ったドラゴンだったのである。

 龍系の闇属性モンスターへドラゴン。その名の通り、廃棄物より生じるヘドロを好み、ついには全身をヘドロまみれにしてしまった奇特な奴だ。ファンの間では汚物ドラゴンとも呼ばれている。

 低くどもった声で吼えかかる。一歩進むたびにライムは本能的に後退してしまう。なぜだか最近全国対戦での使用率が増えているのだが、どうしても慣れることはできなかった。

ちなみにライムは本当にトイレに行きません(排泄という概念がないから)

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