黒幕との対面
扉を開けるためのパスワード。元ネタを知っている人はいるかな?
コカトリスのトリスを撃破したムドーとライトは、彼女の案内で裏ダンジョンを迷走していた。案内役がいるにも関わらず迷走しているのは、ひとえに彼女が鳥頭だからだ。曲がり角に突き当たるたびに「どっちの方向だっけ」と悩み、結局適当な道を選んでしまう。そして、少し進んで思い出したかのように引き返す。
「あんさん、わざとやっとるわけやないやろな」
苛立ちを募らせるノヴァに対し、トリスは涼しい顔であった。黒幕に命じられて時間稼ぎをしているのであれば即座に焼き払っても構わなかった。だが、どうにも悪気があるようには思えないのである。
右往左往しながらも、ライトは現在の時刻を確認する。東海大会の決勝トーナメントはとっくの昔に開始済みだ。組み合わせ表も確認しており、今大会の棄権もまた覚悟の上であった。それでも、大舞台に立つことができなかったというのは実に口惜しい。
ライムが勝利を収めた後も滞りなく大会は進み、第一回戦の最終試合が行われようとしている。モンド・レイという謎の外人プレイヤーがグランバイパーを操って対戦相手を苦しめていた。
迷子になりかけていたムドー一行であったが、やがてトリスが目を輝かせた。彼女の歩みがどことなく速くなる。同じような意匠の柱が並ぶだけの単純な風景が続いていたが、眼前に大きな扉が立ち現れた。裏ダンジョンに踏み入れた時とは模様が異なるが強者が待ち構えているという雰囲気を醸し出している。
「いかにもボスが居そうな扉ね」
「逆に分かりやすすぎると思うがな。おい、鳥。ここで間違いないんだな」
「負けたから文句言えないけど、扱いがひどいよ。うんとね、この扉だったはず。ライムを見つけたらここまで連れて来いって命令されてたの」
扉は固く閉ざされており、試しにライトが押してみるがビクともしない。押して駄目なら引いてみなという理論も通用せず、かといって横方向にスライドするわけでもない。完全に開かずの扉であった。
「めんどくさいな。ムドーはん、この扉焼き払ってもええか」
「許可する」
業火絢爛を放とうと、ノヴァは着物の袖を広げる。その光景を前に、トリスが慌てて扉の前に立ちふさがった。
「扉を壊されたら叱られちゃう。それに、ちゃんと開ける方法があったはずだから、ちょっと待って」
「忘れたとぬかしたら、貴様ごと焼き払うぞ」
脅しをかけられ、トリスは思い出そうと必死に頭を抱えている。彼が味方についていて本当によかったとライトは心の底から実感した。
火炎弾で威圧を受けている中、トリスは苦悶し続ける。そして、手を叩くと扉に向けて指を突きたてた。
「思い出した。この扉を開けるにはちょっとしたダンスをする必要があるんだよ」
突拍子のない発言にムドーたちが首をかしげるが、トリスは得意げに扉へと向き直った。そして、前へ二回ずつ幅跳びした後、後ろに二回跳んで元の位置に戻る。左、右の順に二回反復横跳びをし、高らかに叫んだ。
「BA」
おそらく、最後の一言がキーワードだったのだろう。重々しい音を立てながら扉が横開きに開いていく。目も眩むほどの光が差し込み、ライトたちは顔を手で覆った。
開場した先にあったのは玉座であった。そこに続く大階段があり、丁寧にレッドカーペットまで敷かれている。ファイモンのストーリーモードをクリアした者ならデジャブがあるはずだ。なぜなら、ラスボスが待ち構えるフロアと酷似しているからである。
扉が開かれたことも驚きであったが、それよりもライトたちは解錠した方法について議論していた。
「身体測定みたいなダンスをさせて、黒幕はどういうつもりなのかしら」
「あれはただのダンスではないな。上上下下左右左右BAとは、なかなかマニアックなパスワードを仕込みやがる」
「なんなの、その上上下下ってのは」
「このコマンドを知らんとは、あんさんもお子ちゃまやな」
茶化されてむかっ腹に来たライトであったが、そもそも初出が半世紀ほど前のファミコンゲームであり、知らないのも無理からぬことであった。
恐る恐る扉の中に入るライトたちをよそに、トリスは勢いよくレッドカーペットを駆けて行った。魔王の根城をモチーフとしているせいか、いやおうなしに緊張してしまう。しかも、玉座で待ち構えているのはラスボスの魔王を超越した存在というのは間違いないのである。
「ようやく収穫があったか。待ちくたびれておったぞ」
甲高いながらも老獪さを感じる言葉遣い。玉座から離れると共に大きく広げられた翼。古代ギリシア人を想起させる衣装といい間違いない。
「そんなことだろうと思ってはいたが、やはり貴様が黒幕か。パムゥ」
ムドーが声を張り上げると、パムゥは一笑に付した。彼女がいるということは、近くにケビンも待ち構えているはず。しかし、どこにも彼の姿は認められなかった。
パムゥはゆっくりと階段を降り立ってくる。何でもない所作をしているだけであるのに、圧倒的な威圧感があった。やがて階段を下りきると、トリスが足元にすり寄ってきた。
「ねえねえ、きちんと連れて来たよ。偉いでしょ」
「ああ、確かに連れてきたのう。だが」
冷酷に一瞥すると、不意にトリスへと蹴りを放つ。胸へとクリーンヒットを喰らい、トリスは数メートル先に吹っ飛んだ。
体を丸めてうずくまるトリスをよそに、パムゥは腕を組んだ。
「我はライムを連れて来いと命じたはず。なのに、余計な奴を招き入れおって。もう少し教育が必要だったかの」
「だって、連れて行かないと殺されそうだったもん」
不平を訴えると、パムゥはムドーたちと対峙する。いきなりの制裁を目の当たりにし、さすがのムドーも及び腰になっていた。
「まあ、どこぞの馬の骨を連れてこられるよりはマシだがの。我が同朋であるノヴァ。そなたもまた、目的を達成するために必要な駒かもしれぬ」
「うちを手駒にするつもり? それはおこがましい相談やな。うちはムドーはん以外に従うつもりはあらへん」
そう断言するや、ノヴァは袖を広げて威嚇する。火炎弾をちらつかせており、その気になればいつでも発射できる。相手の動向を承知しながらも、パムゥは態度を軟化させようとはしない。
両者の間でにらみ合いが続くが、割って入るようにライトが前に進み出た。
「あなた、私のジオをどこへやったのよ。ムドーと喧嘩する前にさっさと返しなさい」
「そなたはライムの使い手と一緒に行動しておった小娘か。そうすると、ジオとはジオドラゴンのことかの」
逡巡するように顎をさする。焦らされ、ライトは片足で地団太を踏む。呆けているのではと疑いたくなる程返答には間があった。違和感を覚え、ライトの足の動きが止まる。そして、パムゥの口より放たれたのは意外な一言だった。
「我はそなたのモンスターなど狙った覚えはないぞ」
ライトの表情が強張る。ムドーはライトとパムゥ双方に怪訝な眼差しを送る。よもや、これまでに食べたパンの枚数程モンスターを強奪しているわけではあるまい。それに、老獪な口調とはいえ、本当に痴呆している訳でもなさそうだ。
それでは惚けているのではと勘繰り、ライトは拳を震わせる。
「嘘を言っているのなら承知しないわよ。人のモンスターを奪っておいて。さっさと出しなさいよ」
「あらぬ疑いをかけるのであれば心外だの。確かに我はとある目的で強きモンスターを集めておる。が、その標的にジオドラゴンは含まれておらん。まあ、ライムに親しいモンスターを強奪して誘い出すという計画もあったが、時期尚早じゃったからな。もう少し戦力を整えぬと話にならん」
「本当に知らないって言うの。私はちゃんと記憶してるんだから。いきなり狼みたいな少女のモンスターに襲われて、洗脳のカードを使われた。で、ライムを連れてこのエリアまで来いって言われたのよ」
「狼のモンスター……」
そこでパムゥは言葉を濁した。そいつの存在は印象に残っていた。作戦の初期段階で捕獲したモンスターだからだ。しかもそれだけではなく、彼女はある事件を起こしている。そのことに端を発しているとすれば、ライトが訴えていることも合点がいく。
舌なめずりし、パムゥは邪悪な表情を浮かべる。責めたてていたはずのライトが怖気づくほどだ。パムゥは肩を揺らしながら乾いた笑い声をあげる。
「ふざけたことをしおって。我が直々に仕置きをしてやる必要があるな。トリスよ」
声を掛けられ、トリスは目を輝かせる。先ほど蹴飛ばされたことなど忘却の彼方に放られたようだ。
「我はこれより『裏切り者』の始末に出かける。そなたにも今一度チャンスをやろう。我と同行し、裏切り者の排除に尽力せよ」
「うん、分かった。どんな奴か知らないけど、そいつをぶっ飛ばせばいいんだね」
ライトたちを無視し、パムゥはエリアから脱出しようとする。彼女とトリスの身体が粒子へと還元され、ワープが開始される。
だが、突如として放たれた火炎弾がワープを中止させる。パムゥが膝をさすっていると、ノヴァが片手を広げて仁王立ちしていた。手腕の先ははっきりとパムゥを捉えていた。
「うちを無視してお出かけしようとはええ度胸やな」
「俺もまた貴様に用がある。ライム同様、貴様もこの手で倒そうとしていた相手だ。そう易々と逃してたまるか」
獲物を発見し、嗜虐的に牙を剥き出しにする肉食獣。今のムドーとノヴァはまさにそれであった。
スキルカード紹介
継承
二体以上でバトルしている時に使用可能となる。対象のモンスターに別のモンスターのアビリティをコピーして付与する。
源太郎がライムを倒すための切り札として選んだカード。これによりギガンダーのアビリティ原点突破をメガ子へと付与し、ライムのアビリティを無効化しようとした。
源太郎の例に限らず、このカードによって通常ではありえないコンボも可能になるので、対戦では要対策の一枚だ。




