源太郎のリベンジその1
文学フリマ短編小説賞用の新作を執筆していたため更新が遅れていましたが、ようやく公開となりました。
これから徐々に更新頻度を上げていく予定です。
東海大会決勝トーナメントはAブロックの一回戦を終え、いよいよBブロックへと突入していた。
「Bブロックの一戦目。みんなお待ちかねのあのモンスターの登場だ。先の東海大会で見事優勝を果たした謎の美少女モンスター。ライムとテト選手だ」
スポットライトと共にライムはバトルフィールドに登壇する。さすがに間に合うはずもなく、テトは不在だ。手元にあるのは彼より借りたスキルカードのみ。心細さはあるが、彼の期待に応えるために、なんとしても勝利をもぎ取らないとならない。
「対するは決勝トーナメント初進出。予選では豪快な攻めで他のプレイヤーを圧倒した注目株、ゲン選手だ」
相変わらずの中世ファンタジーの不良アバターで、歯を剥き出しにする威嚇を披露する。にやにやした顔に隠されているのは歓喜か挑発か。あるいはその両方であるかもしれない。ともあれ、既知の相手とはいえど油断禁物なのは確かだ。
「まさか、こんな大舞台で屈辱を晴らせるなんて、願ったりかなったりだぜ。徹人、そしてライム。俺は、お前らを泣かしてやろうとこの日まで研究を重ねてきたんだ。その成果を今こそ披露してやる」
「おおっと、ゲン選手、いきなりの勝利宣言。試合を前にして気合十分だ」
ファイモンマスターの煽りも受け、会場のボルテージは一層高まる。「ライムちゃんに勝てるわけねえだろ」などと反発のコメントも多数寄せられていたが。
「それではさっそく始めるぞ。決勝トーナメントBブロック第一試合。レディファイト!!」
ライムが進み出ると、ゲンは片手を広げて魔法陣を展開させる。そこから出現したのは今までお目にかかったことのない存在だった。
機械仕掛けの武骨さがありながら、どこか現代めいたスマートなボディ。遥か昔、機動戦士の時代より少年たちの心を掴んできた巧みな象形。カラフルに彩られた塗装を照明で照らし、排出口から煙をまき散らし、両拳を合わせる決めポーズを取る。
そいつを一言で形容するならこうする他ない。巨大合体ロボット。ライムの五倍ほどの体長を誇るそいつは電子の瞳を灯らせ、起動音を唸らせる。
「ライム専用対策兵器ギガンダー。俺の新しい相棒だぜ」
外見通り、機械系の雷属性モンスター。機械仕掛けのゴーレムの類だが、その見てくれは巨大ロボットアニメの主人公機そのものだった。
単体で勝負を挑む際に生じるステータス上昇のボーナスはない。かといって、ステータスの下降も生じることもない。つまり、ギガンダー以外にもう一体モンスターを控えているということだ。そいつの正体は自ずと察せられた。
武骨そうな外見とは裏腹に、ギガンダーは勢いよく両腕を振り上げる。手首には弾けるような音と共に稲妻が走る。
「くらいな、サンダーパンチ!」
稲妻を纏ったまま両拳が発射される。
「おおっと、ゲン選手のギガンダーが先制攻撃。雷属性の打撃技だが、その様はロケットパンチのようだぞ」
ライムを目標に迫る二対の拳。十分に引き付けた後、華麗なステップを披露しつつ回避する。パンチはUターンしてギガンダーの手首へと収まっていった。
図体が大きい分、動きは鈍い。そんな定説を地で行くように、反撃で放ったライムのマシンガンシードが面白いように命中する。テトと一緒にバトルしてきたお陰で、彼が指示する最善手が予想できるようになっていた。テトは雷属性が相手の時、九割以上の確率で自然属性のマシンガンシードで攻撃する。この技は雷属性の弱点を突くことができるので、ギガンダーの体力は着実に減らされていく。
「なかなかやるな、ライム。でもギガンダーの本領はここからだぜ。スキルカード回復で体力を回復。そして、エンチャントスキルカードモーターエンジン発動」
半分近くまで減っていた体力が全快してしまう。そして、ギガンダーの背に重々しいエンジンが装着された。唸りをあげ、ボディから煙が噴出する。拳を突き出され、ライムは数歩退いてしまう。
「モーターエンジンは機械系のモンスターに装備可能なカード。ターンが経過する度に攻撃力を上昇させる。長期戦になればライムの方が不利になるな」
ミスターSTが解説のために介入する。彼もまたファイモンマスターと共に大会の動向を見守っていたのである。
「徹人、お前いくら攻撃力を上げてもアビリティで防げるから大丈夫とか思ってねえだろうな」
いきなりこの場に存在しない人物に話が振られたため、ライムはあたふたとする。当人は別事件にかかりっきりのため、すぐには応答できそうにない。なので、
「そ、それがどうした」
と、テトの声音を真似して対応した。
「オカマ声なんか出してどうしたんだ。まあ、いい。お前にいいことを教えといてやる。俺のギガンダーのアビリティは限点突破。相手のアビリティの効果を受けることなく攻撃できる。その意味が分かるよな」
詳しい説明がなくとも、ライムにとっては最悪のアビリティだと理解した。簡単に言えばイナバノカミと全く同じ効力。九死に一生のアビリティが打ち消されてしまうので、即死ダメージを受ければ即敗北してしまう。無理して耐えることもできるが、通常よりも何倍もの負荷がかかる。今後の対戦を考えると、ここで体力の無駄遣いをするのは得策ではない。
サンダーパンチを躱しながら、ライムは作戦を練る。時間をかけるほど一撃死するリスクが高まる。ならば、短期決戦を仕掛けるしかない。テトより託されたスキルカードを広げ、そのうちの一枚を放り投げた。
「エンチャントスキルカードランダムキャノン」
天空でカードは巨大キャノン砲へと変換される。落下してくるところを肩で受け止め、標準をギガンダーへと定める。充填するのはもちろんマシンガンシードだ。
「まさか俺のギガンダーを一撃で仕留めようとしてるんじゃないだろうな。いくらステータス補正があるからって、ギガンダーの防御力はそう易々と突破できないぜ」
耐久寄りのステータスを誇るギガンダーは弱点属性の技でも倒すのに苦心する。マシンガンシードの連射を余裕で耐えていたのが好例だ。なので、ランダムキャノンのクリティカルでさえ一撃必殺は難しい。
そのことを把握しているからこそ、ライムは次なるスキルカードを発動した。
「スキルカード強化。これで攻撃力を上げるぜ」
あくまでテトの声音を真似しつつ、自らカードの光を浴びる。更に攻撃力を上昇させたことで、一撃必殺できる展望が開けた。
キャノン砲が発砲されるとともに、ゲンはスキルカードに手を掛ける。が、逡巡し指を下ろした。巨大な的となっているギガンダーの胸部に弾丸が炸裂する。
運よくランダムキャノンのクリティカルが発動。強化で威力を後押ししていたおかげもあり、一気にギガンダーの体力が減少した。そして、ゲージが空になるとともに、ギガンダーの動作音が停止する。がっくりと前屈みになり魔法陣に迎え入れられるように退場していった。
「ゲン選手のギガンダーノックアウト。だが、もう一体控えのモンスターがいる。テト選手はまだまだ油断はできないぞ」
「この時点で互いに残りのスキルカードは三枚。複数体でのバトルを考慮して堅実な作戦に出ているようだな」
ミスターSTの指摘通り、ゲンの手札にはスキルカードを打ち消す「対抗」があったのだが、あえて使用しないでいた。彼にとってもギガンダーは実は前座に過ぎない。真打はこれからお披露目されようとしていた。
モンスター紹介
ギガンダー 雷属性
アビリティ 原点突破:相手のアビリティを無視して攻撃できる
技 サンダーパンチ
サ〇ライズが製作していそうなロボットアニメの主人公機っぽい見た目の巨大ロボ型モンスター。一応、ゴーレムの一種である。
ライムや朧が活躍したのに合わせ、バランス調整用に投入された一体。それを示すように、アビリティを無効にするというライムの天敵となる能力を持っている。
得意技のサンダーパンチは稲妻を纏った拳で殴るだけだが、ロケットパンチとなっているのはご愛嬌。
ちなみに、作者の好きなロボットアニメは「GEAR戦士電童」であり、ギガンダーの決めポーズはその主人公機がモチーフとなっている。




