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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
4章 モンスター強奪! 自立思考モンスターの脅威!!
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ムドーVSコカトリス

ライムをりゆうおうに変えてライトが言った合言葉をドラクエ1で入力してみよう。本当にゲームスタートできるぞ。

 ムドーと共にライトもまた天空の城を訪れていた。数十分早く到着していればテトたちと鉢合わせしていたところだった。

 ジオドラゴンを奪われた際、ライムを捕獲した場合の連行場所と合言葉を聞かされていた。それによると、天空の城の大扉で間違いないはずだ。

「こんなけったいなところに犯人はおるんかいな」

「ここで合言葉を言えば指定のエリアへと繋がるはずよ。えっと、ライム おまえはもうし ぬわかつた かばか」

「なんだそのねすや1が出てきそうな合言葉は」

 ムドーは呆れているが、合言葉を言い終わると扉がゆっくりと開門していく。ライトとしても、こんなバカな合言葉で開くとは思っておらず、しばらく動くことができずにいた。


 先に動いたのはムドーとノヴァであった。脇目も振らずに扉の中へと踏み込んでいく。ライトも慌ててその後に続いていくと、巨大な扉は独りでにしまっていった。


 扉をくぐった先にあったのは荘厳な神殿であった。イナバノカミと戦った時とは内装が異なっている。あの神殿とはまた違う場所ということだろう。

 ムドーとライト以外に訪れている者はおらず、広大な空間を持て余している。罠が仕掛けられていることを考慮して慎重に進むが、モンスターとのエンカウントすら発生しない。

「なんや、変な感じがするところやな」

「おそらく、公式にはプログラミングされていないバグフィールドみたいなものだろう。何を仕掛けられるか分からんから、警戒は怠るなよ」

 不正に移動してきたためか、ノヴァは落ち着かずにあちこちうろうろしている。彼女の体にノイズが走らないことからして、ファイモンのサーバー内であることだけは間違いない。


 ふと、ムドーが歩みを止めるや、右手を真横に伸ばす。その動きに同調するように、ノヴァは手のひらから火炎弾を生成した。

「ヒートショット」

 火属性の基本的な射撃技を命令し、柱の陰へと火炎弾を飛ばす。ライトもずっとその方角を注視していたが、人はおろかモンスターの気配もなかった。単なる無駄撃ちか。


 しかし、柱へと火炎弾が命中するや、「うわっ」という悲鳴が聞こえた。

「そこに隠れているのは分かっているんだ。さっさと姿を現せ」

 ムドーが恫喝すると、呼応するように羽音を響かせた。最初にのぞかせたのは鳥の翼であった。順当に鳥のモンスターか。そう予測していたムドーたちであったが、すぐ後にその期待は裏切られることとなった。

 現れたのは人の影。頭には鳥の羽根飾りがついており、南米のカラフルな民族衣装を身に着けていた。そして、明らかに人の成りをしながら、背中には鳥のものとしか思えない羽を広げていたのだ。人懐っこそうな笑みを浮かべ、外面だけならあどけない少女のようであった。

「けったいな奴が出てきたな。あんさん何者や」

「えっと、誰だっけ」

 素っ頓狂な返答に出鼻を挫かれる。「ふざけんのも大概にせえや」とノヴァがいきり立ったところで、少女は柏手を打った。

「そうそう、私はトリス。うんとね、ライムを倒しに来た」

「ライムが目的ということは、ケビンの仲間か」

「どうだっけ。難しいことはよくわかんないや。えっと、あなたがライム? そんなひな鳥みたいなのだっけ」

「鶏みたいな髪飾りつけといて、ようふざけたことぬかすな」

 眉根を潜めるノヴァだが、トリスは無邪気な態度を崩さない。策略があってこんな挑発をしているなら大したものだが、どうやら素でこんな調子のようだ。


「ライムじゃないなら用事はないかな。とっとと帰って」

「貴様が用事はなくとも、俺にはある。痛い目に遭いたくなければさっさとケビンに会わせろ」

「せや、ハイボールみたいなふざけた名前して。うちを侮辱しといてはいサイナラなんて許さへんで」

 闘争心を燃やすムドーたちは、仲間であるライトでさえ尻込みするほどであった。肝が小さい者なら、萎縮してまともに動けなくなるだろう。


 しかし、トリスは笑顔を絶やすことなく、逆に翼を広げて挑発してきた。

「よくわかんないけど戦うことになったみたいだね。それでもいいよ、相手したげる」

 対戦合意とみなされ、ノヴァとトリス双方の体力ゲージが表示される。トリスは指鉄砲を作ると、指先から怪光線を発射する。

「ノヴァ、三時方向に退避」

 ムドーのお家芸である「神眼」を駆使し、回避を指示する。ノヴァは難なく光線を往なし、後方の柱へ被弾させる。

 すると、シミのように広がった被弾跡が、みるみる間に石へと変化していったのだ。笑い声をあげながら、トリスは怪光線を連発する。悉く避けられるものの、被弾した箇所は次々と石へと変貌していく。おそらく補助技だろうが、下手な攻撃技よりも精神的に受けるダメージは絶大だ。


 防戦一方だったノヴァだが、上空へ跳び上がると同時に「ヒートショット」で反撃を仕掛ける。呆気なく命中するものの、与えたダメージは大したことはない。

「へえ、あなたも炎を使うんだね。じゃあ、こっちも使おっと。チキンファイヤー」

 今度は手のひらを広げると、そこから火炎を放出する。鞭のようにしなりつつ迫って来るが、「五時方向に移動後、屈め」との指示でどうにか回避する。

「石化光線だけじゃなくて炎まで使ってくるなんて。あいつは本当に何者なの」

 混乱するライトであったが、ムドーはいたって冷静であった。むしろ、炎の技を使ってきたことで、トリスの正体についての確証が得られた。

「石化させる能力を持った鳥という時点で予想はしていたが、やはりそうだったか」

「もしかして、正体が分かったの」

「お前もファイモンのプレイヤーの端くれなら、容易に想像がつくだろう。あいつの正体はコカトリスだ」

 毒を含んだ言い方にむかっ腹が立ったが、指摘されてどうにか合点がいった。


 伝説上の生物コカトリス。ニワトリのような外見で、相手を石化させる光線を駆使して戦う。火炎放射も扱えることからも分かるように、炎属性のモンスターである。

 石化光線自体にはダメージが発生しないが、石化状態になってしまうとしばらく行動不能となってしまう。複数体でバトルをしていれば、交代することである程度対処は可能だ。しかし、単独で石化してしまうと、そのまま嬲り殺しにされてしまう。なにせ、状態異常を解除するスキルカード「爽快リフレッシュ」を使わない限り治療は不可能だからだ。


 即死攻撃並に強力な効果なので、相手が単体の場合は成功確率が低く設定されている。しかし、見てくれからしてライムと同じくウイルス能力の持ち主だ。確率を変動させ、必ず石化させるというチート効果で襲ってきているに違いない。

 とはいえ、光線を回避してしまえば問題はない。おまけに、神眼により、そんな大それた戦法を成立させる自信があった。


 トリスは意地でも石化による行動不能を狙っているのか、その後も石化光線の連発で襲ってくる。鳥頭ゆえか、いくら回避されても構わず連射するという徹底ぶりだ。

「うーん、当たらないな。そんな時はどうするんだっけな。あ、そうそう、これを使えばよかった。スキルカード『拘束バインド』」

「スキルカードやって」

 ノヴァは二重の意味で驚いていた。使い手が存在しないトリスがスキルカードを使うこと自体が妙であった。しかも、使用したのは回避率を減少させる拘束のカード。どこからともなく出現した鎖により、ノヴァは手足をがんじがらめに縛られてしまう。いくら絶対回避を謳っていても、手足の自由を奪われたら動くことすらままならない。


 勝ち誇ったようにトリスは両手を広げる。掌底には怪しげな光が宿っており、それはまっすぐノヴァを捉えていた。ムドーの手持ちのスキルカードに「爽快」は含まれていない。つまり、石化が成立してしまえば、その時点でノヴァの負けとなってしまう。

 観戦しているライトは居てもたってもいられずに身を乗り出す。だが、戦闘中のムドーは動揺する様子はなかった。ノヴァもまた、使い手に応じるように落ち着きを取り戻していく。観念したと判断したトリスは不敵な笑みを浮かべ、両手に集約した怪光線を発射した。

「スキルカード木化メタモルウッド。貴様を自然属性へと変換する。更に、スキルカード炎力フレアパワー強化エンハンス打破ブレイク恐慌クライシス発動」

「嘘でしょ。手持ちのスキルカードがすべて技の威力を上昇させるものなんて」

 ライトが驚くのも無理はない。防御を捨てた攻撃一辺倒のデッキ編成。それだけでも異常だが、このタイミングで一挙に投入するという並外れた決断力。まさに、全国ランク一位という雲上人のプレイイングだった。


「スキルカードでノヴァの動きを止めて慢心したようだな。俺の方もいつまでも回避してばかりではつまらんから、反撃の機会を窺っていたのだ。その絶好の契機をお前の方から提供してくれるとは、感謝しておこう」

「と、いうわけや。ほんじゃ、覚悟するんやで」

「業火絢爛」

 申し合わせていたように、ノヴァの周囲に無数の火炎弾が発生する。先にトリスが技を発動させていたため、被弾して石化してしまうのは避けられない。しかし、追撃によりHPを減らすことは不可能だ。なぜなら、恐慌により回避不能となっているトリスに、確実に体力を削り切ることができる一撃が迫っているからである。絶対回避を持ち味としているムドーにとっては汚泥を舐めさせられた心地だが、プライドに拘って勝利を逃す程愚かではない。

 ノヴァは石化してしまうが、直後に彼女に勝利を告げるファンファーレが鳴らされた。トリスの敗北により、すぐさま石化は解除された。


 壁にもたれかかるトリスに、ノヴァとムドーは詰め寄る。

「あ~負けたか。良い線まで行ってたと思ったけどな」

 乾いた笑い声をあげるが、見下すムドーたちの目線はあくまで冷たい。炎のモンスター使いにあるまじき冷酷さに、トリスはついに根を上げた。

「鳥頭の私でも、ふざけてられないってのは分かるよ。えっと、ケビンだっけ。そこに案内すればいいんでしょ」

「道が分からへんなんて、とぼけたこと抜かすんやないやろな」

「安心していいよ。それはきちんと覚えているからさ」

 ブイサインをされるが、一抹の不安を拭いさることはできなかった。

モンスター紹介

コカトリス 炎属性

アビリティ 鳥頭:混乱状態にならない

技 石化光線 チキンファイヤー

相手を石化させる能力を持つ伝説上の生物。ニワトリの姿をしているためか、鳥頭である。そのためか混乱を無効化させるアビリティを持つ。

しかし、本領は石化光線という技で、成功すると一切行動できなくなるという恐ろしい効果を発揮する。即死並に強力なので成功率は低いが、ムドーと戦ったトリスはウイルス能力で成功率を引き上げている。

その他、チキンファイヤーのような炎属性の技も使いこなす。

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