ライムVSライガオウ
闘技場フィールドが展開し、徹人は少年アバターのテトへと切り替わる。対戦相手のハルカは既に待ち構えていた。へそ出しウェアにホットパンツと真冬にあまりお目にかかりたくないファッションだ。
「ようやく見つけたわ、ライム」
「要件があるならさっさと話してくれないかな。こっちはもうすぐ大会本番で忙しいんだ」
腕組みしつつ指で腕を叩いていると、ハルカは地面へと右手を掲げた。すると、魔法陣が展開され、そこから四足歩行のモンスターが召還される。
そいつはアニメのファイトモンスターズを見ている者なら知っているであろう個体だった。見てくれはトラのようだが、ライオンのたてがみも備えている。ライガーという虎とライオンの混血種。体長二メートルに達しようかという猛獣は牙に稲妻を蓄え、こちらを威嚇していた。
「ライガオウ。珍しいモンスターを使うな」
アニメ版ファイモンで主人公アキラのライバルであるハヤトが使うモンスターだ。進化前のライガルが一年前のチャンピオンシップで配布され、アニメでライガオウに進化したタイミングで進化機能が実装された。
前情報によると、東北地方代表のハルカは獣系のモンスターを駆使するらしい。ライガオウも大会で使われており、偽物という線は薄そうだ。
「こんな古臭いやり方は好きじゃないけど、拳で語り合うってのはどう。話を進めるにあたってはライムの実力の程を知っておきたいし」
「構わないぜ。僕も全国大会に出場するレベルの敵と戦ってみたかったし」
そう言って徹人はライムをバトルフィールドへと送る。ライガオウは雷属性なので、相性からすれば不利となる。それでもライムは臆することなく、猛獣を前に挑発を仕掛けている。
バトル開始とともに、ライガオウが牙を剥き出しにして飛びかかった。雷属性の物理技「サンダーファング」だ。反応しようとしたら既に巨体が迫っていた。
効果抜群の一撃により、一気に半分近くまで体力が減らされる。たたらを踏んだライムであったが、すぐに指を鉄砲の形に構えた。
「マシンガンシード」
気泡の弾丸を生成しようとするが、それが植物の種へと変質していく。ライムお得意の攻撃属性変換だ。雷属性に対して自然属性の技は高威力を発揮する。ライガオウは防御力が低めなので大ダメージは必至のはずだ。
だが、相手がなんら対策を施していない訳がなかった。
「そいつが噂の攻撃属性変化ね。ならばこうするまでよ。スキルカード『木枯らし(コルドウィンド)』。自然属性の技を無効化し、風属性技の威力を上げる」
テトが愛用している大雨と同じく、特定属性の技を無効化するスキルカードだ。用途が限定されるカードをわざわざ投入しているということは、テトが弱点を突いて来るということを予測していたに他ならない。
「風属性の威力上昇も無駄にはしないわよ。エンチャントスキルカード「疾風爪」。獣系モンスターに装備し、風属性の技「早駆」を使用可能にする。行きなさい、ライガオウ」
ライガオウの前脚に鳥の羽が装飾された爪が装備される。そして、蛇行しつつも高速でライムへと突進してきた。
もちろん、黙ってやられる義理はない。テトはすかさずスキルカードを取り出す。
「スキルカード炎化。ライムを炎属性へと変換させる。これで風属性の攻撃は半減、そして雷属性でも弱点を突くことができない」
「なるほど、いい判断ね。でもダメージは受けてもらうわよ」
勢いに任せた切り裂きにより、ライムの体力は四分の一をも下回る。そして、相手が攻撃の手を緩めることはなかった。
「早駆は攻撃と同時に素早さを上げることがあるの。加えて、ライガオウのアビリティ光速の覇者発動。相手より素早さが高いほど攻撃力が上がる」
「早駆とのコンボ技ってわけか」
木枯らしで風属性の威力を上げ、一見不釣り合いな「早駆」を使用。ライガオウのアビリティを誘発させ、更に攻めたてる。全国大会出場者に恥じない見事な連携技だった。
「攻撃力が上がっている今、一気に決めさせてもらうわよ。スキルカード『水化』。これによりライムを水属性に戻す。そして、サンダーファング」
雷属性が弱点になってしまったうえ、アビリティの恩恵で相手の一撃はとてつもない威力を秘めている。もはや戦闘不能は必至。
だが、ライムの真骨頂はここからであった。噛みつきにより、ライムは地面へと倒れ伏す。獲物を捕捉するかのごとく、しっかりと前脚で押さえつけられている。屈服した愚者を見下すが如く、冷徹な眼差しを送られる。
すると、ライガオウは警戒するように一声唸った。なにせ、抵抗する力もないと思われていたライムが、ゆっくりと上半身を起こしてきたのだ。
ハルカは唖然としていたが、慌ててライムの体力値を確認する。すると、すぐさま瞠目する羽目になった。ゼロとなったとばかり思っていたゲージがわずかではあるが残っていたのである。
「どうなってるの、一体」
「ライムのアビリティ、九死に一生だ」
「九転び十起きってね」
ちょっと前にテトが「七転び八起き」をもじり、冗談半分で口にしたことがあった。ライムはそれを覚えていたようで、アビリティを発動する時に決め台詞のつもりで使っている。
そして、体力が限界まで減らされたこの瞬間こそ、テトが待ち望んでいたシチュエーションであった。
「スキルカード「革命」。ライムとライガオウの体力を置き換える」
無傷であるライガオウの体力がそのまま置換されるため、ライムは完全回復できる。おまけに、ライガオウの方は一撃必殺可能な範囲にまで追い込まれてしまう。一対一のタイマンであれば、後続を心配する必要もない。まさに、この局面における最強のメタカードであった。
それだけに、相手もすんなりテトの作戦を寛容するはずがなかった。
「スキルカード対抗。これで革命の効果を打ち消すわ」
テトのカードより放たれた閃光がライムへと到達するより前に、ハルカが使用したカードの光がそれを阻んだ。よって、両者の体力に変動はない。
どうにかライガオウの前脚から脱出できたが、ライムが満身創痍なのに対し、ライガオウは余裕で唸っている。もはや逆転は不可能か。勝ちを確信したハルカが最後のトドメと「サンダーファング」を指示しようとする。が、それより先にテトが動いた。
「ライム、トラッシャーに変身するんだ」
「あの作戦ね。了解だよ」
ライムがどこぞの改造人間の如くポーズをとると、全身が粒子へと還元される。あまりに意外な一手だったためか、ライガオウは行動を躊躇してしまっている。そうしている間に、粒子は再構成されていき、再び人間の姿を象っていく。
ただし、少女とはかけ離れた醜い様相だった。全身がヘドロまみれになり、双眸を怪しく光らせている。廃棄物より産まれた魔人モンスタートラッシャーである。
ライガオウがたじろいでいる間にも、ライムは作戦を遂行していく。両手を振り上げると、テトの手元に光が灯される。すると、三枚だった手札に四枚目のカードが追加される。それを確認するや、ライムはトラッシャーの姿から元の少女へと戻っていく。
「その効果は、もしかして『リサイクル』を使ったってわけ」
「ご明察。トラッシャーの固有技リサイクル。一度使用したスキルカードを復活させる」
意表を突く一手にハルカは気づいていないようだが、この瞬間にライムにはかなりの負荷がかかっている。通常では変身できないモンスターに変身し、リサイクルのデメリットであるHP減少を打ち消したのだ。地面に手を付き、上体を起こすのも億劫になっていた。ハルカの目からすれば、体力がわずかなために消耗しているだけと写っているのであるが。
そして、テトが復活させたカードは明白であった。同時に、王手をかけられていることを自覚し、ハルカは爪を噛んだ。
「決めさせてもらうぜ。スキルカード『革命』再発動。今度こそライガオウの体力を逆転する」
既にスキルカードを阻害する「対抗」を使ってしまっているため、ハルカには効果を防ぐ手立てはない。カード効果によりライガオウが苦悶していると、いつのまにやらライムの姿が消えている。吼えかかりつつも、細目で周囲を探索する。
「上よ、ライガオウ」
ハルカの掛け声に、ライガオウは天を仰ぐ。だが、時すでに遅しだった。革命の効果で完全回復したライムは大ジャンプを披露し、空中からバブルショットで狙撃しようとしていたのだ。
ライガオウが回避のために駈け出したのと、ライムのバブルショットが発射されたのはほぼ同時であった。あと数秒早く気付いていれば余裕で躱せたかもしれないが、反応が遅れたのが致命的なミスとなっていた。いくら素早さが上昇していようとも、ライムの狙いすました気泡弾から逃れられなかったのだ。
炸裂音とともに、ライガオウは前脚をくじく。そのまま横っ腹を地面へと伏せる羽目になった。残り体力はゼロ。追い打ちをかけるように、ライムの方へと勝者を讃えるファンファーレが鳴らされた。
モンスター紹介
ライガオウ 雷属性
アビリティ 光速の覇者:素早さが高いほど攻撃力が上がる
技 サンダーファング
アニメファイトモンスターズにおいて、主人公のライバルであるハヤトが使用するライガー型の猛獣モンスター。
昨年度のチャンピオンシップで配布された限定モンスターなので、現在は入手困難となっている。
バトルでは素早さを高めてアビリティを誘発させ、高い攻撃力で一気に攻める速攻戦法を駆使する。




