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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
3.5章 ライムに妹ができた日
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ミィム失踪

「おお、盛り上がっているね」

 バトルを終えて一息ついていると呑気な声をかけられた。その主は徹人たちより背が高く、ニットとロングスカートを身に着けた大学生ぐらいの女性であった。眠そうなのか目をしょぼつかせている。

「綾瀬お姉さん」

「愛華ちゃんおひさ

 綾瀬は愛華とハイタッチしながら大あくびする。どうやら、夜更かししてジョジョを見ていたというのは嘘ではないようだ。


「もう、遅いわよ綾瀬姉さん」

「悪い悪い。ついブルーレイに夢中になっちゃって、気分は最高にハイってやつよ」

 こめかみに指を突きたててグリグリする。時間停止できる仇敵の真似事のようだ。日花里が見ようとしている映画までは残り十分。間に合ったことは間に合ったのだが、余裕をもって集合時間を設定していただけにご立腹であった。


「そういえば、私に相談したいことがあるらしいわね」

 実は徹人がバトルしている間に、日花里は綾瀬にミィムのことについて連絡を入れていたのだ。

「実は、この子のことなんですけど……」

 言いかけて徹人は青ざめた。先ほどまで傍にいたはずのミィムがどこにもいないのだ。一同がゲーム画面に夢中になっている間に抜け出してしまったようである。

「愛華、ミィムがどこにいったか知らないか」

「分からないよ。ずっとゲーム見てたもん」

「お、俺たちも知らねえぞ」

 質問されるよりも先行して源太郎たちが否定する。首を伸ばしてゲームセンター内を俯瞰してみてもそれらしい姿はない。居てもたってもいられず、徹人はゲームセンターから走り出した。


「待ってよ、おにぃ」

「愛華ちゃん。日花里ちゃん追いかけるよ」

「え、ええ。でも映画は……」

「一本後でも問題ないでしょ」

「そ、そうね」

 脇目も振らず徹人の後を追いかける愛華と綾瀬。日花里も後ろ髪を引かれつつ後に続いた。残された源太郎と京太は「騒がしいやつらだな」とぼやいていた。


 正午近くになっていることもあり、ヨロヅヤの店内は買い物客が増加している。ぶつからないように注意しながら、徹人は必死に走る。

「ライム、ミィムが行きそうな場所って知らないか」

「スーパーマーケット自体初めて来たからな」

 徹人に追走しながらライムは思案する。だが、ゲームセンターから遠ざかるにつれ彼女の体にノイズが走り、ついには自動消滅してしまった。


 ライムが消えたことで徹人は立ち止まり、そこでようやく日花里たちと合流することになった。

「もう、いきなり走り出すから心配したじゃない」

「ごめん。でも、ミィムがどこにもいないんだ。おまけにライムも消えちゃうし」

「それは当たり前じゃない。ライムはファイモンキャラのホログラム。サーバーがあるゲームセンター内ならともかく、そこから離れれば実体を維持できないもの」

 綾瀬から指摘され、徹人は合点がいった。現在地にあるのは書店。レジの端末ぐらいしか電子機器は存在しない。当然、その端末がファイモンのページに繋がっているわけはないので、ライムは実体化したくともできないのだ。


 そこまで考えて、徹人は思い当たる節があったのか、

「日花里、ヨロヅヤの家電売り場ってどこだっけ」

「この下にあったと思うわ」

 確認が済むと、真っ先にエスカレーターを駆け下りていった。

 肩で息をしながらもたどり着いたのは家電量販店。専門店と比べると品揃えは劣るが、それでも生活に必要最低限な機器は一通り陳列されている。新生活準備で商戦に入るためか、店員がしきりに声を張り上げている。

 様々な家電に出迎えられる中、徹人は一目散にある売り場を目指した。言わずもがな、パソコン売り場である。


 インターネットをやるならパソコンという短絡的な発想だが、ミィムがゲームセンター以外に訪れるとしたらここしかなかった。さっそくファイモンのページにログインしようとしたところ、新たな問題が立ちふさがる。

 デモ用に設置されているパソコンは初期設定状態となっている。インターネットに繋ぐのなら、購入後に設定を施す必要がある。つまり、ファイモンにアクセスしようにもインターネット自体にアクセスできないのだ。


 いつものようにブラウザを立ち上げようとし、「このページは表示できません」のメッセージに打ちひしがれる徹人。自室にあるパソコンは父親が予めインターネットに繋がるように設定を終えたもの。自分ではセッティングしたことがないので、目の前の機器は無用の長物でしかないのだ。

 落胆していると、綾瀬がしらみつぶしにパソコンを見定める。「低スペックばかりね」と酷評しながらも、ある一台で立ち止まった。


「こいつなら無線のWi-Fiが使えるし、スペックもそれほど悪くない。ちゃちゃっと設定すればファイモンに繋げるわよ」

「綾瀬姉さん、デモ用のパソコンなんかいじって大丈夫なの」

「後で設定を解除しとけばバレないって」

 心配する日花里をよそに、綾瀬は楽観的にブイサインする。そして、言うが早いか軽快な音を響かせてキーボードを叩く。操作しているのは販売されている中で最高値の代物。徹人の小遣いで弁償しようとするなら八年ぐらいのローンを組まないといけない。

 とはいえ、綾瀬にかかればそんなことは杞憂でしかなかった。滞りなく設定を終え、ファイトモンスターズのスタートページを立ち上げる。徹人がマイページにログインするやホログラムが発動してライムが現れた。


「ようやく出られたよ」

 右腕を高々と伸ばすストレッチ運動をしている。どうやら実体化しようにもできずもどかしい思いをしていたらしい。

 そして、モンスター一覧を眺めているとライムとそっくりの少女を発見した。なんとなく拗ねているような表情をしていたが、実体化を実行すると体操座りをしたまま現実世界に召還された。


「ミィム、心配したんだぞ」

 徹人が少し強めの口調で叱りつける。だが、ミィムはそっぽを向いたままだ。

 ミィム失踪の謎であるが、勝手にどこかに行ってしまったのではない。ホログラムを解除し、ファイモンのサーバー内にろう城していたのだ。

 なおもだんまりを続けるミィムだが、ライムが優しく話しかける。

「ミィちゃん、どうしてこんなことしたの」

「ライムには分からないよ!」

 ひときわ激しい怒号に、買い物客が一斉に振り返る。ライムを睨むその目つきは憎しみすら孕んでいた。


 どうやらライムに原因がありそうだが、当人は全く心当たりがないようだった。ミィムから問いただそうとしても、駄々をこねている子供と同じく容易に本心を聞きだせそうもない。有効な手段を見いだせないまま膠着状態が続く。

 そんな中、愛華がミィムと視線を合わせるように体操座りをした。微笑みかけると、つられたようにミィムの表情が綻ぶ。

「黙ってばかりじゃ解決しないよ。私でよければ話してみてよ」

 透過すると分かっていても愛華はミィムの頭をなでる。当然のことながら愛華は徹人の妹なので年下である。しかし、ミィムをあやしている様は綾瀬よりも年上のように思える。


 愛華にほだされたことで涙腺が緩んだのか、ミィムは彼女の胸の内で泣き出した。予想外の反応をされたため、愛華は当惑している。見知らぬおじさんが「迷子か」と怪訝な顔をしてきたので、綾瀬が「そんなところです、気にしないで」とごまかしていた。

 気が済むまで涙を流し、ミィムはしゃくりつつも顔を上げる。鼻水も混じってひどい形相になっていたが、腕でこすって体裁を整える。落ち着いたところを見計らい、愛華が「どうしたの」と優しく問いかけた。

「悔しかったんだもん」

 そう言いながら、ミィムはライムを指差す。

「私だってライムみたいに活躍したかったんだもん。でも、うまくいかない。クレーンゲームでも人形とれないし、太鼓叩けないし、格闘ゲームで勝てないし。おまけにテトから劣化ライムって言われるもん」

 それを口走った途端、徹人に女性陣から冷たい視線が集中する。

「テト、だめじゃんそんなこと言っちゃ」

「確かに言ったけど、それだけが原因じゃないだろ。むしろ、お前の方に原因があるんじゃないか」

「え~私のせい。多分テトのせいだよ」

「だから、僕だけが悪いわけじゃないだろ」

「もう、おにぃたちが喧嘩してどうすんのよ」

 妹に雷を落とされ、徹人とライムは口を噤む。もはやどちらが年上か日花里は見失い始めていた。


 徹人は反省しながらも、今までのミィムの様子を思い返していた。ライムの活躍に惹かれがちであったが、その陰でミィムはふてくされてばかりだった。その時は気づかなくても、自分とそっくりの姉のような存在が活躍しているということを鑑みてみれば、嫉妬心に苛まれていることは容易に想像できる。

 なおも愛華の胸中に収まっているミィム。どうにか彼女を慰めることはできないものか。ライムに対して劣等感を持っているのであれば、単純に彼女に勝てれば気が紛れるかもしれない。しかし、まともにぶつかり合ってミィムがライムに勝つというのは困難であった。なにせ、能力差からして「劣化ライム」であることは間違いないのだ。


 ファイモンのバトルでライムに接待させる。だが、ライムがそんな器用な真似ができるとは思えない。それに、看破されたら余計に機嫌を損ねるだけだ。ライムにも本気で挑んでもらったうえでミィムが勝てるような競技でなくてはならない。しかし、そんな都合がいいゲームがあるとは……。

「ミィム、よかったらライムと勝負してみないか」

 したり顔で徹人は提案する。ミィムは口を真一文字に結んだままだったが、

「ライムに勝てるの」

 と、おずおずと訊ねてきた。

「正直やってみなくちゃ分からないな。でも、ライムとミィムが本気で戦ったとして、ミィムにも勝てる可能性がある勝負があるんだ」

 突拍子もない発言に、当人たちのみならず日花里や綾瀬も耳を疑う。徹人は得意そうに口角をあげており、余程の自信があるとみて間違いない。

「私に負け試合しろって言われるかと思ったけど、本気で戦えるなら何でもするよ。そんで、ミィちゃんが納得するならいいでしょ」

「私も、どんなバトルだって全力で頑張る」

 双方の合意が得られたところで、徹人は戦いの場を提示する。そこはゲームセンターであった。

よいこは家電売り場に置いてあるパソコンを勝手にインターネットに繋いではいけません。

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