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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
3.5章 ライムに妹ができた日
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イージンファイターその2

 選択可能な偉人が五十人近くもおり、徹人は画面で目移りしてしまう。相手が宮本武蔵なので、順当に佐々木小次郎を選ぶべきだろう。史実通りだと武蔵には勝てそうにないが。

 あちこちとカーソルを動かしていると、「この子がいい」とミィムが指差す。その先にいたキャラクターは卑弥呼だった。

 月桂樹の髪飾りをつけ、巫女服姿で低空浮遊する美女。格闘ゲームのキャラとしては場違いな容貌だ。彼女のモデリングが現れるや、ギャラリーから失笑が漏れる。

「徹人、お前本気でこいつを使うのかよ」

「あまり強くないのか」

「卑弥呼っていえば、イージンファイター最弱キャラとして有名ですよ」

 源太郎と京太が口々に囃し立てる。聞けば、卑弥呼、夏目漱石、チャップリンという三大弱小キャラの一角とされているそうだ。そもそも格闘ゲームに参戦すること自体おかしい偉人たちだが、その中でも最大級の地雷を引いてしまったようだ。


 対して、宮本武蔵は刀による多段コンボの使い手として、全キャラクターの中でも最強クラスとされていた。いくらミィムの力を借りるとしてもあまりに分が悪い。素直に選び直すのがセオリーだ。

 だが、卑弥呼が最弱クラスと分かり、徹人の目の色が変わった。

「ネタキャラか。ならば逆に面白い。こいつで勝ってこそ、シンの鼻をぶち折れるってもんだろ」

 ミィムとともに選択確定ボタンを押す。普段からネオスライムという弱小モンスターを扱っている徹人。そんな彼が「ネタキャラ」だの「雑魚キャラ」だのの謳い文句に反応しないわけがなかった。


 波しぶきが打ち寄せる絶壁の孤島。かつて宮本武蔵と佐々木小次郎が決闘した巌流島をモデルとしているのだろう。戦闘フィールドによる能力値変化はないはずであるが、アウェーの試合を挑んでいるという気負いが高まってしまう。

 卑弥呼対宮本武蔵という本来なら交わりあうことのない両者が向かい合う。武蔵は長刀の柄に手を掛けるが、卑弥呼は低空で漂うだけだ。

「よく見たら、あんたライムのようでライムじゃないな。何者なにもんだ」

 イージンファイターのゲームサーバー内で朧とミィムが鉢合わせしており、朧は怪訝な表情を浮かべている。

「私の名はミィム。ライムの、えっと、妹みたいなものよ」

「ライムに妹がいたなんて初耳だな。隠し子だったとかそういうドロドロした話はやめてくれよ」

 冗談を飛ばしつつも、朧は抜刀する。それに対応し宮本武蔵も刀を振り上げる。今回は朧が直接戦うわけではないが、気分の問題であろう。


 対するミィムも両手を広げるが、そこで顔をしかめてしまう。ファイモン以外のサーバーに忍び込んでいるが、同じゲームサーバーということもあり朧はそこまで息苦しさを感じていないようだ。だが、ミィムは息を荒げている。全霊をかけないと介入することすらままならなかったため、朧と会話するだけでもつらそうである。


 試合開始のアナウンスが流れ、ラウンド一が開始される。先制したのは宮本武蔵だった。下Aで発動する「流斬」で卑弥呼の足もとを掬って空中へと飛ばす。宙を舞っている間はいかなるコマンドも受け付けない。よって卑弥呼は完全に無防備だ。そこへ右上Aでの「乱れ桜」、上上下A+Bの「さざなみ」のコンボ攻撃が決まる。

 一連のコマンドは真が入力しているわけではない。彼女は筐体で適当にボタンを操作しているだけ。実際の行動命令は朧が下している。システムに介入し、彼女の意のままにキャラクターを動かしているので、コマンドミスなど存在しない。それだけでも格闘ゲームにおいては絶対的なアドバンテージとなっていた。


 開幕のコンボにより体力は四分の一を削られる。反撃を試みようと徹人は付属してあるパンフレットをめくる。扱えるキャラクターが多すぎるために、使用できる技の一覧が記載されたパンフレットが備えられているのだ。

 肝心の卑弥呼が使える技だが、戦闘向きではないこともあり、パンチやらキックやら初歩的なものしか習得していない。卑弥呼が普通に殴ったところでダメージは大したことなさそうだ。

 有力な技を探していたところ、徹人はある一行で目を止めた。

「ミィム、この未来予知って技を試してみるんだ」

「オッケ」

 発動コマンドは下下上右AA左B。初心者が発動するのは困難な代物であった。だからこそ、成功すれば大ダメージを与えられるに違いない。


 徹人が適当にレバーを動かしている間、ミィムは卑弥呼への行動命令回路にアクセスする。そこから「未来予知」の発動命令を下し、卑弥呼は行動に移る。

 大仰に両腕を振り上げると、彼女の全身が発光する。大技を繰り出されると察知してか、宮本武蔵は身構える。


 だが、いくら待っても攻撃が発動することはない。その間に武蔵に接近され、基本技のコンボで更に体力を減らされてしまう。

「どうなってんだよ。どうして技が発動しないんだ」

「何言ってんだ、お前。卑弥呼はちゃんと技を使ったぞ」

 喚く徹人に、呆れたように源太郎が解説を加える。

「卑弥呼の未来予知は体を光らせてから数秒後に大ダメージを与える光線弾を放つ技。だけど、その間にダメージを受けたら無効になっちまうんだ」

「おまけにそれが卑弥呼最大の攻撃技だから、使いにくいったらありゃしないんですよね」

「つまり、コマンドを入れてから攻撃が発動するまで攻撃を回避し続けなきゃならないのか」

 その他で有効そうな技といえば、念力で生成した光線弾を飛ばす「念力波」ぐらい。それもどうにか命中させたものの、ろくに体力を減らすことができなかった。


 どうやら卑弥呼で戦うとするなら、扱いにくいことこの上ない「未来予知」をメインにするしかない。回避に専念すれば渡り合えそうだが、相手は未来予知の特性を把握してか休む間も与えず連続攻撃を繰り出してくる。

 武蔵の体力を一割も削ることができないまま、卑弥呼の体力は危険水域を示す赤ラインにまで突入してしまった。

「遊びは終わりだ。宮本流巌流落」

 右上AAB下下左B。朧は必殺剣技のコマンドを成功させ、それに応じて武蔵は舞い踊るように卑弥呼に切りかかる。


 回避しようにも「未来予知」発動待機状態を狙われたため、移動することすらおぼつかなかった。宮本武蔵最大の必殺剣技をまともに喰らい、卑弥呼の体力はゼロとなってしまう。

 ラウンド一は真の勝利で終わった。「YOU LOSE」の画面をミィムは虚ろな眼で見つめている。しっかりと握っていたレバーから右手がずれ落ちる。落胆するのも無理からぬことだった。宮本武蔵の体力をほとんど削ることができぬまま敗北の汚泥を舐めさせられたのだ。

「ライムの妹だっていうから気合入れたけど、大したことないじゃないか」

 更には朧からも追い打ちで嫌味を言われてしまう。ミィムの瞼から一粒の雫がこぼれる。肩を震わせる彼女を慰めようと、徹人は手を置こうとする。だが、実像を掴めぬまま空を握るのみ。


 やるせなさに頭を抱えていると、新たにレバーを握る手があった。ミィムと瓜二つだが、彼女よりも一回り背が高い。言わずもがな、ライムである。

「ミィちゃんの仇は私が討つ。だから安心して休んでて」

 現実世界でホログラムとして存在しているミィムは、サーバー内にいる状態を反映して汗だくになっていた。気遣われたことでミィムはふらつき、愛華の胸の中に納まる。


 ミィムと入れ替わるようにしてライムは朧と対峙する。彼女の姿を認めるや、朧は勇ましく剣を突きつけた。

「ようやくお出ましか。待ってたぜライム」

「それはこっちのセリフだよ、そぼろちゃん」

 火花を飛ばしあう両者。朧と同様にライムもまたイージンファイターのサーバーではこれといった影響を受けていないようだ。

 先ほどのラウンドから引き継いでの戦闘となるため、朧が使用するのは宮本武蔵、ライムは卑弥呼となる。ライムの動きに対応しているのか、画面上の卑弥呼は軽快な踊りを披露している。邪馬台国の女王に似つかわしくない所作だが、ライムが体を慣らすためにステップダンスをしているので仕方ない。

キャラクター紹介

宮本武蔵

得意技 宮本流巌流落 右上AAB下下左B

江戸時代初期に活躍した剣豪。名のある侍にふさわしく、全キャラクターの中でも高い実力を持つ。

多段ヒットを叩きだせる技を多数習得しており、特に宮本流巌流落は一気に勝負を覆せるほどの威力を秘めている。

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