ライムとミィム初めての共同作業その2
「ライム、ミィム。まずはイナバノカミを倒すんだ。あいつの攻撃力は油断ならないからな」
「了解だよ。ヒートショット」
当たり前のように攻撃属性を変化させ、炎の弾丸を投射する。が、単調な軌道であったため、イナバノカミは易々と回避してしまった。
「反撃の前に傷を治しておかないとね。ピクシー、イナバノカミにヒーリング」
ピクシーの指先からほのかな光が迸り、イナバノカミへと降り注ぐ。すると、半分近くまで減らされていた体力がほぼ全快にまで回復したのだ。
「ピクシーで回復して、イナバノカミでひたすら攻めるか」
「これが私の考えた最強の組み合わせだよ。反動ダメージがあってもへっちゃらだもん」
その言葉を裏付けるように、再び反動ダメージのある強襲爆砕で襲いかかって来る。標的はライム。と、見せかけてミィムだった。
不意を突かれたことで、ミィムは木槌の直撃を受けてしまう。相性の関係もあり、一気に瀕死にまで追い込まれてしまう。
まさか、このまま戦闘不能か。そんな不安がよぎったが、どうにか踏みとどまったようだ。だが、ミィムは息を荒げて喘いでいる。この一挙でマラソンを全力疾走するだけの体力を消耗したとは思えないのだが、その真相はすぐに判明した。
「ライムぅ、アビリティの設定を弄るのって、けっこう疲れるよ」
ライムが平然な顔でやってのけている「九死に一生」の連続発動。それを意図的に行おうとすると、かなりの体力を消耗するようである。
「なあ、ライム。九死に一生を意図的に発動するのって、どれくらい疲れるんだ」
「えっとカロリーで言うなら五十キロカロリーぐらい」
分かりやすく例えるなら、体重五十キロの人が一キロ走ることで消費するカロリーと等しい。ちなみに、自爆を耐えるのであれば、フルマラソンを走るぐらいのカロリーが必要だそうだ。
どうにか強襲爆砕を凌いだものの、ミィムの体力は一発でも技を受けたら戦闘不能になるぐらいにまで減らされてしまった。
「易々とミィムを失うわけにはいかない、とにかく速攻を続けるぞ。スキルカード強化、そしてエンチャントスキルカードランダムキャノンだ」
ライムの右腕に巨大なキャノン砲が装着される。加えて、スキルカードの効能により全身が発光し、攻撃力が上昇した。
「ライムばっかりずるい。私もキャノン砲欲しいな」
ミィムはテトの袖を引っ張って駄々をこねる。イナバノカミより先に行動できなければ意味はないのだが、彼女を仲間外れにするのもいただけなかった。
「仕方ないな。スキルカード拡散。ミィムにもランダムキャノンを装備させる」
拡散は技やスキルカードの効果を全体に広げる複数体同時バトル専用カードだ。直前に発動した効果が適用されるので、ライムのみならずミィムにもランダムキャノンが備わることとなった。
しかし、ライムでさえ両腕で抱えるのがやっとの巨大キャノン砲である。彼女より小ぶりのミィムがそんなものを持ったらどうなるか。
案の定、全身で担いで支えるのに精いっぱいだった。これでは引き金を引けるかどうかも怪しい。
「ミィム、お前ちゃんと発射できるのか」
「で、できるもん。ほら」
プルプルと指を震わせながら引き金に手をかける。だが、その瞬間に勢いを入れすぎ、誤ってトリガーを引いてしまった。
爆音とともに銃弾が放たれ、その衝撃によりミィムは尻もちをついてしまった。ランダムキャノンはただでさえ四分の一の確率で攻撃が失敗してしまう効果がある。ろくに狙いを定めないまま発砲したらどうなるか。
花火を打ち上げたかのように、弾丸ははるか天へと上昇していく。ライムに至っては「たまや~」と呑気な歓声をあげている始末だ。
ミィムが空振りに終わった以上、ライムのキャノン砲を命中させるしかない。攻撃属性を炎へと変換させ、弾道を充填する。狙いはもちろんイナバノカミ。あわよくばランダムキャノンに設定されている威力上昇の効果も発揮させたい。確率は二十五パーセントだが、テトにとってはどうということもない数値であった。
しっかりと標準を定め、銃口から巨大な火炎弾が放たれる。だが、それより前にピクシーが躍り出た。
「簡単には倒させないもんね。ピクシー、ヒーリングでイナバちゃんを回復して」
そのままステップを踏みつつ、ピクシーはイナバノカミに光の粒子を降りかける。すると、白い体毛に生じていた傷跡がどんどんと塞がっていったのだ。加えて、反動により減らされていた体力が完全に回復してしまう。
「やけに回復量が多いと思ったらピクシーのアビリティか」
「ピクシーは回復させる技の効力を上げるもんね」
手負いのままであれば確実に倒すことができたであろう。だが、一撃必殺するとなると如何せん威力が心もとない。追加で攻撃力を上げようとしても、残るスキルカードは「革命」のみ。相手の体力が十六分の一以下でないと発動できないので、この局面では無用の長物だ。
火炎弾そのものは着弾した。イナバノカミは木槌を支えにしてどうにか爆風に耐え切る。完全回復したHPもあっという間に危険ゾーンへと突入する。
もしかすると、このまま倒せるかとテトは淡い期待を抱いた。だが、ライフは赤く変色したまま踏みとどまった。ランダムキャノンのクリティカルヒットを引き当てていたものの、一撃必殺には届かなかったようだ。
「危なかった。でも、イナバちゃんが無事ならまだ勝機はあるよ。スキルカードで回復させて、もう一度攻撃しちゃうもんね」
アイはスキルカード「回復」を提示する。それとともに「拡散」までちらつかせている。強襲爆砕を全体攻撃に昇華させ、テト陣営を一網打尽にするつもりだ。
直撃を受けたとしても、革命コンボによりどちらか一体は倒すことができる。だが、相手の返しターンに反撃を受けてジエンド。こうなれば、ミィムにもう一度九死に一生を発動させてもらうしかないが、彼女の体力からするとそれは無理な相談だ。
兄に黒星を付けられる。そう確信し、アイは浮足立っていた。だが、勝負は思わぬ展開を見せることとなった。
イナバノカミが木槌をかざす。そして、アイがスキルカード二枚を掲げる。まさにその時、イナバノカミの手元に水泡の弾丸がぶち当たった。
唖然とする両プレイヤー。その内、アイが受けた衝撃は相当なものだった。なにせ、どこから飛来したか分からない謎の弾丸のせいで、イナバノカミの体力はゼロとなってしまったのだ。攻撃に移る間もなく、魔法陣へと還元されてしまう。
謎の気泡弾は一体どこからやってきたのか。その答えはミィムにあった。てんで予想外の方向に放たれたかと思われたランダムキャノンの砲弾。実は、あの後も神殿フィールド内を飛び回っていたのだ。そして、イナバノカミがとどめを刺そうとしているタイミングでたまたま命中したのである。
勢いが殺されていたうえ、自然属性相手には半減されてしまう。ライムが予め体力を減らしていなかったら蚊の一刺しほどしか通用しなかっただろう。結果オーライとはいえ、相手の主力を削いだことで、流れは完全にテトに傾いていた。
躍起になったアイはピクシーのライトニングで確実にミィムを倒そうとしてくる。しかし、
「スキルカード革命。悪いけど、これで王手だ」
体力を逆転され、ピクシーは瀕死寸前となってしまう。そんな状態でライムとミィム両方を倒すなど至難の業だった。
「もう、いけると思ったのにな」
しぶしぶではあるが、アイはサレンダーを選択する。勝利が確定し、全身傷だらけながらも、ライムとミィムはハイタッチした。
モンスター紹介
ミィム 水属性
アビリティ 九死に一生:戦闘不能になるダメージを受けても踏みとどまることがある。
技 バブルショット
突然誕生したライムの妹というべき存在。容姿はライムそっくりであり、彼女より背丈が低い。性格もそっくりである。
戦闘能力は一言で言うなら劣化ライム。基礎体力が低いのか、攻撃属性の変更ができず、九死に一生の連続発動も不可。ネオスライムが若干強化されたぐらいの強さしか持たない。
むしろ、ライムが異常に強すぎるのである。




