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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
3.5章 ライムに妹ができた日
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ライムとミィム初めての共同作業その1

 親にまで嗅ぎつけられたら流石にどうしようもないので、徹人は静かに愛華を部屋へと招き入れた。

 慎重に扉を閉めると、徹人は大きく息を吐いてベッドへと腰掛けた。愛華は徹人の隣で飛び跳ねているライムとミィムとしげしげと観察している。

「背が小さい以外はライムとそっくりだね」

「そうなんだよ。一体、いつの間に増えたのやら」

「悪いものでも食べたんじゃないの」

「うーん、私たちに食事って概念ないからな」

「じゃあ、バイバイン使ったんだ」

「なんだそれは」

「この前読んだドラえもんの漫画に出てきたの。栗饅頭を無限に増やす道具」

 喜々として話すが、ライムが無限増殖したら笑いごとではない。そもそも、二十二世紀の秘密道具と接触した覚えもないので、その線も立ち消える。


「外見だけじゃなくて、中身もそっくりなのかな」

「見た目だけだと、中身もそのまんまだと思うけどな」

 「うん?」と一緒に首をかしげる素振りからして、双子の姉妹のようにも見える。試しに、ライムだけにしか分からないような質問をしてみることにした。

「ミィム、昨日の夜に戦った相手を覚えてるか」

「そんなの知らないよ。私、昨日は戦ってないもん」

 予想外の回答に、徹人は困惑した。ライムと記憶を共有しているわけではなさそうだ。そうなると、ライムのコピー体という説が揺らぐこととなる。


「昨夜戦ったのってガンキロドンだよね。あの恐竜みたいなやつ」

「正解だけど、何も賞品はないぞ」

 ガンキロドンは全身を岩石に覆われた四足歩行の恐竜モンスターである。相性の関係で圧勝したが、そのこともミィムは覚えていないようだ。

「あれこれ考えても仕方ないからさ。ミィちゃんもバトルしてみればいいんじゃない」

「いいかもしれないな。ライムのコピーではないにせよ、どのくらいの実力があるか気になるし」

 密かにドラえもんの彼女みたいな呼び名が気になってはいたが、ライムと同じくウイルスの影響で誕生したのなら、それ相応の力があるはずだ。仲間にするにしても、能力を把握しておいた方が何かと都合がいい。


 ただ、さしあたっての問題はミィムの対戦相手である。ライムと戦わせるというのもセンスがない。かといって、いきなり全国対戦に投入するのも気が引ける。

 徹人が逡巡しながら首を伸ばしていると、妹と目が合った。愛華がきょとんとしていると、先んじてライムがベッドから飛び降りた。

「ねえ、マナっちと戦えば」

「私、この子と戦ってみたい」

 当人からもリクエストされ、愛華はうろたえる。が、頭を掻きながら「しょうがないな」と了承した。


「せっかくだから、複数体同時バトルやろうよ。試してみたい組み合わせがあるんだよね」

「まさか、ライムとミィムでタッグを組むってか」

 冗談で言った徹人だが、二人は乗気のようだった。「どうやって倒そうか」と使い手そっちのけで相談を始めている。一方の愛華もバトルすること前提で、手持ちの選抜を始めている。両者寝間着のままというだらしない格好ではあるが、早朝タッグバトルの幕が開かれようとしていた。


 ファイトモンスターズのサーバーのログインし、徹人と愛華はそれぞれアバターを表示させる。同時に、テトはフィールドにライムとミィムを召還した。ミィムのステータスを確認したところ、素体となっているのはネオスライムのようである。それだけで判断するならライムのコピーでも問題はないが、どうにもそうではないらしい。謎は深まる一方だが、とりあえずは目の前のバトルに集中するのが先決だ。

 魔法少女風のアバターに身を包んだアイこと愛華は一体目のモンスターを召還する。透明な羽根を羽ばたかせて空中浮遊する妖精。アイの誇るパートナー、ピクシーである。

「愛華はやっぱりピクシーで戦うのか」

「私の一番のお気に入りだからね。そして、この子も使っちゃうよ。出てきて、イナバ!」

 どことなく聞き覚えのある名前が呼ばれた気がしたが、徹人の予感はすぐに裏付けられることとなった。


 魔法陣から出現したのは長くて白い耳だった。そこから赤い瞳にひくひくと動く鼻と続く。そして、トレードマークである巨大な木槌までもがお目見えした。

 ここまで来れば、アイが繰り出したモンスターの正体は丸わかりである。ほんの数日前に散々てこずった曰く付きの相手。現在開催中のレイドボスイベントのメインモンスターイナバノカミである。

 イベントのモニターの参加賞として、徹人達全員に配布された。徹人はそのまま放置していたが、愛華はさっそく育成していたようだ。ピクシーのレベルにまでは到達していないものの、全国対戦で使うには申し分ないぐらいに仕上がっている。


 アイの手持ちの中で最強のモンスターと最新のレイドボス。練習とはいえ、なめてかかるとしっぺ返しをくらいそうな組み合わせだった。ライムの言葉を借りれば「相手にとって不足なしだよ」ではあるが。


 バトル開始とともに仕掛けたのはライムだった。相手は二体とも素早さの高い速攻タイプ。なので、先に行動できたのはかなりのアドバンテージとなる。

 攻撃属性を変化させ、イナバノカミにヒートショットを放つ。弱点を突いたことにより、HPは七割にまで減少する。

「先制でこれを使おうと思ったのにな。ピクシー、ホーリーシールド」

 ピクシーが両手を広げると、彼女の前に光の壁が展開される。パムゥも使用していた防御力を上昇させる補助技。複数体同時バトルの場合、味方全体に効果が及ぶ。なので、イナバノカミの防御力までもが上昇してしまう。ステータスが上がる前に攻撃できたという点で、ライムの功績は大きい。


「今度はこっちからいくよ。イナバちゃん、強襲爆砕」

 アイの掛け声に合わせ、イナバノカミは木槌を振り上げる。目標はライムだ。

「その技はとっくに見切ってるもんね」

 大見得を切るようにライムは跳ね上がる。木槌はつい数秒前まで彼女がいた地点に叩き付けられた。

 空振りに終わったうえ、技のデメリットで反動ダメージが発生する。しかし、その前にアイはスキルカードを割り込ませた。

「スキルカード神殿テンプル発動。フィールドを神殿に変更する」

 デフォルトの闘技場フィールドが崩れ、厳かな神殿が形成されていく。その効果は徹人も熟知していた。光属性のモンスターは技の追加効果を受けない。よって、強襲爆砕の反動ダメージは打ち消されるわけである。


「お前がそのカードを使うことは予想できたぜ。スキルカード浮遊フロート。こいつをイナバノカミに使用する」

 カードから放たれた光がまっすぐにイナバノカミを包む。その途端、通常通り反動のダメージが発生してHPが減らされてしまう。

 フィールドの効果を打ち消す「浮遊」のカード。神殿の加護を受けられなくなったことにより、反動ダメージを無効にするという目論見は潰えたのだ。


 悔しがるアイであったが、ターンはいよいよミィムへと回る。

「ミィムの使える技は……バブルショット。それに変身と自爆か。ライムと大差ないな。とにかく、イナバノカミにバブルショットだ」

「よし、派手にぶちかましちゃうよ。バッキューン!!」

 威勢よく叫び、指先からシャボンの弾丸を撃ちだす。


 ここで徹人は思い過ごしをしていた。ライムが自在に攻撃属性を変更できるので、当然ミィムも同様の力を持っていると認識していた。だが、放たれた弾丸はシャボン玉のまま。ヒートショットに変化するなんて芸当は起きるはずがなかった。

 自然属性相手に水属性の技は効果が薄い。雀の涙ほどのダメージしか負わせられず、痛恨のミスを犯してしまったのだ。

「ミィちゃんって技の属性を変えられないの」

「むしろ、どうやってそんなことしてるのか知りたいわよ」

 訝しみながら覗き込むライムに、ミィムは開き直って胸を張った。体長が小さいことから嫌な予感はしていたが、能力からするとミィムは劣化ライムのような気がしてならない。

モンスター紹介

ガンキロドン 土属性

アビリティ ロックアーマー:火属性と風属性の技の威力を半減する

技 レインロック

全身が岩石に覆われた四足歩行の恐竜型モンスター。

防御力が高いうえに属性的に有利になる火と風の技を更に半減できる。なので、有利属性相手にはめっぽう強い。

反面、弱点で攻められるとあっさりやられることもあるが。

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