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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
3章 交差する思惑! ムドーと運営とそしてあいつ!!
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成功確率1%以下! イナバノカミツーを倒せその2

 正直、このカードを発動することにより、これまで積み重ねてきた能力上昇が水泡に帰すことも有り得る。しかし、間違いなく一撃で葬るとなると、このギャンブルに勝つしかないのだ。

「ライム、最後のカードを送る。こいつはかなりの曲者だけど大丈夫か」

「任せてよ。どんなのが来たって使いこなしてみせる」

 龍の姿のまま、ライムはサムズアップする。テトも応じると、大きく深呼吸した。目を閉じて最後のカードを高々と掲げる。そして開眼とともに勢いよく発動命令を下した。

「エンチャントスキルカードランダムキャノン発動」


 テトが最後に残していた切り札。それはモンスターへの装備カードだった。

 勢いよく宣告したものの、バトルフィールドに全く変化は訪れない。

「そうもラッキーは続くようではないようじゃの。最後の最後で外すとは気の毒なやつめ」

 失敗と決めつけ、パムゥは嘲笑する。そんな態度をとられても文句は言えなかった。けれどもテトは信じ続けた。これまでの間が一瞬に感じられる程、悠久の時が流れる。

「このまま待っていても無益じゃ。イナバノカミツー、ライムを倒せ」

 痺れを切らし、イナバノカミツーに攻撃指示を飛ばす。だが、木槌を振り上げた途端、その動作を停止する羽目になった。なぜなら、虚空の彼方から一筋の光が差し込んできたからである。


 その光はライムの右腕に宿ると、徐々に筒状の兵器を象っていく。少女の姿のライムには身に余る代物だったが、グレドラン形態の巨体であれば片手で握っていても違和感はない。腰を据えると、送られてきたキャノン砲を構え、じっと標的をイナバノカミへと定めた。

 最後のスキルカードの発動が成功したことで、累計成功確率は0.0729パーセント。作戦は大詰めを迎えたが、この時点で既に万に一つもないような確率であった。

「ライム、そろそろフィニッシュだ。気合入れていくぞ」

「合点だよ」

 テトに相づちを打つと、ライムはキャノン砲の引き金に指を掛ける。ランダムキャノンは25パーセントの確率で攻撃がミスしてしまう。しかし、恐慌を発動しているのでスカはありえない。

 むしろ、テトが狙っているのは25パーセントで攻撃力が大幅上昇する効果だ。蓄積してきたエンハンス効果と合わせれば、ほぼ確実にイナバノカミを仕留められる。

 いや、まだ足りない。より確実性を求めるのなら、もう一つ威力を上昇させる術がある。それは、クリティカルヒットを引き当てることだ。急所率を引き上げる技を使わない限り、一律で十六分の一の確率で技の威力を上昇させる。まず、ランダムキャノンの攻撃上昇を発動させたとして、累計は0.018225パーセント。そして急所を当てるとなると、最終的な作戦成功確率は、

「0.0011390625パーセント。約十万分の一ってあり得ないにもほどがあるわよ」

 密かにこれまでの確率を計算していたあーやんは声を張り上げた。例えるなら、年末の宝くじで三等を当てるぐらいの低確率である。あるいは、人間の髪の毛は約十万本といわれており、その中から目当ての一本を抜き当てろと強いられているようなものだ。


 現実味のある例えを聞かされ、流石に後ろ指を引かれる。しかし、ここまでやって諦める方が愚策というものだ。

「攻撃力を上げるだけ上げたようだが、どうなるというのかね」

「忘れたのか。こちらが単独で挑んでいる時にとんでもない威力を発揮する技があることを。そして、そいつを使うために、わざわざライムの覚えている技を残しておいたことを」

「まさか、貴様」

 ケビンはテトがこれから放とうとしている技を察知し、慌ててイナバノカミから距離をとる。指示を受けるまでもなく、ライムは全身から放出されるエネルギーをキャノン砲の弾丸へと転換。銃口を定めたまま充填を開始する。


 周辺に混じるノイズが急速に増加の一途をたどる。それはライムがとてつもないエネルギーをぶつけようとしているからに他ならない。

 ライムが繰り出そうとしている技。それは自爆であった。自身の体力を犠牲に、相手に大ダメージを与える。特に、単体で勝負を挑んでいる場合は、この技を使用すると敗北が決定してしまうため、加算される威力があり得ないほど高く設定されている。

 一切強化せずに自爆を放っても瞬殺できるかもしれない。しかし、イナバノカミツーが誇る推定十本分の体力を削るにはそれでも心もとなかった。

 だが、極限まで攻撃力を高めた今であれば、いかに豊富な体力があろうと、一瞬で消し飛んでしまうだろう。


 不定形以外のモンスターが自爆を発動すると、溜めに溜めたエネルギーを一気に放出するエフェクトに変化する。ランダムキャノンを装備しているので、蓄積したエネルギーは銃口の中に集約していく。

「いくぜ、ランダムキャノン発射」

 テトの号令に合わせ、ライムは引き金を引く。鼓膜を破裂させかねないほどの爆音を響かせ、超特大の火炎弾が放出された。


 恐慌が発動しているので、イナバノカミツーに回避する術はない。いや、何らカードを使われていなかったとしても、周辺環境を巻き込んで迫りくる爆風を躱しようがない。

「ありえん。スキルカードを一枚発動させるだけでも困難なのに、そのうえ博打カードまで成功させるだと」

「ライムにテト。なるほど、噂に違わぬ強者のようじゃの。さて、巻き添えを喰ろうては敵わん。ホーリーシールド」

 爆風の余波を防ぐため、パムゥは光のバリアを展開する。横道にそれた爆撃だけでも、衝動は相当な物だった。バリアを支えている手が痺れてくる。


 なので、直撃に晒されているイナバノカミツーはひとたまりもなかった。全身を構築するデータが維持できなくなり、処々にノイズが混じる。確実に体力が削られているはずだが、ゲージに変化はない。まだ威力が足りなかったのか。

 テトが諦観しかけた時、ようやく変調が訪れた。非常にゆっくりではあるが、一本目のゲージが減少し始めたのだ。

 途中で止まってもおかしくないような低速で、イナバノカミツーの体力はどんどん失われていく。ケビンを除いた誰もがその動向を見守っている。


 爆風は勢いを失うどころか、むしろ増しつつある。イナバノカミツーの肉体がモザイクまみれになるのみならず、周辺環境をも不可思議な表示に変えていく。キーボードをデタラメに叩くことで表示される文字列が羅列される。

全く意味を為さない文字が並ぶ中、テトは一瞬ではあるがはっきりとした物体を目撃した。二本の鎖で錠がかけられた木製の扉。表示されていたのは数秒の間だが、あまりにも明確に形づけられていたので、彼の瞼にしっかりと焼きつくこととなった。


扉について言及しようとする間もなく、一本目のゲージが空となる。そして、二本目へと突入した。相変わらずゆっくりだが止まる気配もない。

 やがて二本目までも削り切り、いよいよ大詰めとなった。残り体力は一本。こいつさえ失くせば片を付けることができる。

「これで最後だ、頼むぞライム!」

 声援に応えるように、ライムは巨竜の形態のまま咆哮を轟かす。いい加減爆風が止んでもおかしくはないのだが、その逆で一層勢いを増幅させる。パムゥもシールドを維持するだけで手いっぱいになっている。


 最後のゲージが半分以下になった時、爆風の勢いに陰りが生じた。ただでさえ遅いゲージの減りがより鈍足になる。

「負けるかよ!!」

 テトの渾身の叫びに、ライトたちの応援が重なる。その想いを受け、ライムはあらん限りの声で叫んだ。


 凄まじい爆風が収まる。周辺環境が自動回復し、ゼロとイチが支配する静寂な世界へと逆戻りしていく。変身の効力が解け、少女の姿に戻ったライムは息せきながら膝をついた。弱った彼女の体を浸食すべく、ノイズが群がってくる。

 悲惨な外見になりつつあるライムだが、それ以上に凄惨なのはイナバノカミツーだった。巨躯のほとんどがノイズに侵され、もはや原型を留めていない。そして、モザイクが混じったかと思うと、肉体のあちこちが分解されていく。

「これまでのようじゃの」

 パムゥが吐き捨てたのも無理はない。イナバノカミツーの体力ゲージは三本ともゼロとなっていたのだ。

書いてて思ったのですが、宝くじで1等当てるのって相当難しいですね。

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