表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
3章 交差する思惑! ムドーと運営とそしてあいつ!!
129/238

強制融合と最低な標的

 ライム対策ソフトを搭載しているうえ、単独では倒すのが困難なレイドボス。それだけでも充分なのに、ケビンは次なる一手を用意していた。

「せっかくレイドボスを手に入れたのだ。存分に有効活用してやろう。パムゥよ、転生の導き」

 ケビンに命令され、パムゥは右手を掲げた。彼女の頭上に白い雲が立ち込め、間隙から光の柱が降り注いでくる。それはイナバノカミの隣という見当違いの地点を照らし出した。


 大言壮語を放ったわりにはスカか。しかし、パムゥが放った技の効果を知っているテトは恐れ慄いていた。転生の導き。現時点では一体のみしか使うことのできない禁断の技。それを発動したということは、パムゥの正体は……。

 テトが予期した通り、イナバノカミの傍に魔法陣が浮かび上がる。モンスターを召還する際に表示されるお馴染みの代物だが、だからこそ妙であった。交代したわけでもないのに、戦闘の真っただ中に出現するなどあり得ない。


 そして、魔法陣より召還されたモンスターもあり得なかった。全身を白い毛に覆われた超巨大ウサギ。赤い鉢巻を巻いている個体と瓜二つの存在。しかも、ご丁寧に青の鉢巻を巻いているという再現振り。極めつけは参戦を認めるが如く、新たにHPゲージが設けられる。召還されたのは、先ほどノヴァが倒したはずの青鉢巻のイナバノカミだったのだ。


 パムゥが使用した転生の導き。その効果は戦闘不能になった味方モンスターを復活させる。スキルカード「蘇生リザレクション」で同様の効果が得られるが、技としてはこれまで使うことができなかった。史上初めて実現させたのが、パムゥの素体となったモンスターなのである。

 二体のレイドボスが一度に襲いかかる。それだけでも脅威だが、ケビンはより絶望させるような戦法を繰り出してきた。

「私がただ戦闘不能になったモンスターを復活させたと思っているのかね。パムゥの技を使ったのはこれを発動させるためなのだよ。スキルカード『強制融合』発動」

 提示されたのは「融合」と瓜二つのカードだった。だが、「洗脳」と同じく背景色が黒に変更されている。カードより放たれた暗黒のオーラは二体のイナバノカミへとまとわりついた。


 すると、せっかく生還を果たしたイナバノカミの体力が再びゼロへと逆戻りしてしまう。戦闘不能になり、魔法陣へと還元されていく。そう思われたのだが、光の粒子と化したイナバノカミは、もう一体の個体へと吸収されていった。

 とんでもない負荷がかかっているのか、光を吸収している赤鉢巻の個体は苦悶に喘いでいる。全身より放たれる禍々しいオーラに近づくことすら阻まれる。


 漆黒のオーラに浸食されるように、純白の毛並みがどす黒く染まっていく。外見上の変化はその程度だった。だが、ステータス面では大きな変化が生じていることは間違いなかった。まず、分かりやすい変調は体力ゲージである。テトやノヴァとの交戦により、残りHPは半分以下となっていた。それが瞬く間に全快へと達していったのだ。

 融合の効果を鑑みればおかしな現象ではない。対象のモンスター一体を戦闘不能にさせる代わりに、もう一体を融合形態へと昇華させる。同時に、HPを全回復させ、状態異常をも治癒してしまう。

 しかし、融合のスキルカードが有効なのは、アビリティ「フュージョン」を有するモンスターのみ。当然、イナバノカミは対象外となる。そのはずであるのだが、ケビンが使用したカードにより強制的に融合させられてしまっていた。


「貴様、融合のシステムまでも捻じ曲げたというのか」

 違法カードを連発され、ミスターSTの堪忍袋はとっくに切れていた。吼えかかる運営を意にも介せず、ケビンは漂々と言ってのける。

「そうだと言ったらどうする。私が開発した強制融合は、本来融合不可能なモンスターでも強制的に融合させることができる。あまりにも形質が違うモンスター同士だとうまくいかないようだが、同じモンスターであれば造作もないことだ」

「そこの黒いイナバノカミは、二体分、いやそれ以上の力を持った究極形態。名づけるなら、イナバノカミツーとでもしようかの」

「くっそ、ミュ〇ツーみたいなネーミングしやがって」

 キリマロがかなり的外れな反論をしたが、そうでもしないとこんなあり得ない現象を受け止められなかった。ケビンのことだから、単純に二体分のイナバノカミの能力を計上させたに留まるはずがない。少なくとも三体、もしくはそれ以上のステータス値を誇っている可能性がある。


 とんでもない化け物が出現したものの、テト陣営で対抗できる仲間は皆無だった。ライムと朧は未だキライムに侵され、戦闘どころではない。ジオたちは融合前のイナバノカミにより戦線離脱させられている。残されたのはムドーのノヴァぐらいであった。

「運営の手助けをするつもりはないが、戦いの邪魔をされた憂さはきちんと晴らさせてもらう。ノヴァ、業火絢爛」

 優雅な舞と共に、ノヴァは無数の火炎弾を発射する。強制融合の余波か、イナバノカミツーはろくに動けずにいる。巨大な的と化したウサギに、火炎弾が続々と炸裂した。


 炎属性の中でも高威力の攻撃技だ。弱点を突かれて無事というわけにもいくまい。しかし、命中したにも関わらず、イナバノカミの体力は一切減っていなかった。

「ふざけやがって、ノーダメージだと」

「いや、多分ダメージは入っていると思う。だけど、あいつの体力はゲージで表示される許容範囲を超えているのよ。ゲージ三本以上のHPを持っていると考えた方が良さそうね」

 あーやんの推測は正鵠を得ていた。通常でも三本分のHPを有しているので、それが二体分となれば単純計算で六本。それ以上となれば十本程のゲージを削らないと倒せないということになる。普通に戦っていたのでは、まず倒しきれない体力量だ。


「これほどの化け物を手に入れたのだ。すぐさまライムを捕まえてもいいが、その前に有効活用してやろう」

「何をするつもりだ」

「このイナバノカミに搭載されている情報量は、下手なハッキング用ソフトを上回る。おまけに、最強のコンピューターウイルス『キラー』をも排除できるソフトまでもがインストールされているのだ。これらを利用すれば、いかなるセキュリティをも突破できる」

「あわよくば、ライムを手に入れずとも目的のアレを入手できる。そうじゃろ」

「物分かりがいいではないか、パムゥ。そのためにもこいつの性能を試してみようではないか」

 ケビンはテト達を見回すや、ある一点で視線を止めた。その先にいたのはシンと朧だった。


「朧といったな。お前は私に協力すると言っておきながら、最終的には裏切ってライムに助力した。違いないな」

「大会の時のこと? 私は自分の信念に従い、あなたにはついていけないと判断した。悪事に手を貸すつもりなんて毛頭ない」

「そういうわけだ。今更そんなことを掘り返してどうしようってんだい」

 朧が弱弱しくもメンチを切る。すると、ケビンは舌なめずりをし、彼女らを指差した。

「この私に刃向った罪は重い。よって、君たちに罰を与えることとする。シン、いや、霧崎真。君には入院中の弟がいたな」

「そうだけど、あなたには関係ない」

「どうかな。私が操っているイナバノカミ。そいつを病院のシステムにぶつけたらどうなると思う」

 その発言にシンは絶句した。余程のアホでない限り、堂々と犯行声明を出していると分かる。しかも、その標的となったのは、

「まさか、弟が入院している病院を攻撃する気!?」

スキルカード紹介

強制融合

ケビンが作成した違法スキルカード。

融合は「フュージョン」のアビリティを持っているモンスター同士でしか使うことができないが、それを持っていないモンスターでも強制的に融合させることができる。

ライムとジオのように、あまりにも形質が異なるモンスター同士では失敗してしまう。だが、同じモンスター同士であれば確実に融合させられる。

融合後はモンスター数体分程というありえない能力値を誇る。ケビンが作成したカードの中でも最凶の一枚だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ