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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
3章 交差する思惑! ムドーと運営とそしてあいつ!!
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乱入者パムゥ

「スキルカード無効インバリット

 どこからともなく聞こえた声とともに、イナバノカミの眼前にカードが出現し、バリアへと変換される。それは火の玉を防弾して、当然のことながらダメージも発生することがなかった。

 土壇場でイナバノカミがスキルカードを使用した。そう考えるのが自然だが、同時に妙でもあった。テト達は一度戦ったから分かるが、どうにもイナバノカミは無効のカードを所持していないように思われる。コンピューターのアルゴリズムからして、攻撃無効系のカードを持っているのであれば、早々に使用してくる傾向がある。なのに、これまでに使われた場面はなかった。そもそも、赤鉢巻のコピー体である青鉢巻が一切使用してこなかったことからして、持っていないと考えるのが妥当だろう。


 事実、このカードの発動に一番衝撃を受けていたのは運営側だった。テト達が推測した通り、イナバノカミの使用スキルカードに「無効」は設定されていない。

「誰もあのバトルに参入していないよな」

 田島悟が恐る恐る確かめるが、誰もが首を横に振るばかりだった。

 事を謎のまま済ますわけにはいかない。秋原に指示し、無効のスキルカードが発動された形跡を調べさせた。それ自体は難しい作業ではなく、ほんのちょっとコンピューターを操作するだけで答えを導き出すことができた。だが、同時に驚愕の事実が判明してしまうのだ。

「こ、このアクセスログはまさか……」

 絶句する秋原。彼、いや、「彼ら」にとってあまりにも馴染みがあるIDのものだった。あの地区大会の時、再会を求めてかろうじて入手していたログ。それとピッタリ一致していた。


「誰だ、邪魔したのは。さっさと出てこい!」

 怒りもあらわにムドーが恫喝する。しばらくは反応がなく、その怒声は虚空へと消えるのみであった。

 憂さを晴らさんと、再度「業火絢爛」を指示する。宙に留まっていたノヴァは再び火の玉を出現させると、一挙に撃ちだした。


 使用済のスキルカードは「リサイクル」などで復活させない限り、再利用することはできない。なので、今度こそイナバノカミに防ぐ手立てはない。

 だが、火の玉が到達する寸前、突如光り輝く壁が展開された。それに阻まれ、弾丸は大幅に減少してしまう。完全防御ではないのでダメージは発生するが、それでも大した痛手ではない。


 スキルカードが使用された痕跡もないのに現れた壁。しかも、その正体を知っているムドーにとっては解せない代物だった。あの壁は光属性モンスターが使うことのできる防御技「ホーリーシールド」。防御力を上げるだけの大したことのない補助技だが、問題はそこではない。

 ホーリーシールドは主に天使や神の系統のモンスターが使うことができる技だ。イナバノカミは光属性を持っているとはいえ、どう見ても獣系のモンスター。獣系は攻撃に特化した技を覚える傾向があり、シールド技を使えるものは皆無だった。未知のモンスターゆえに実は覚えることができたという可能性もあるが、反動ダメージも厭わず特攻してくるやつが防御力上昇技を使うというのは不自然である。


 そうなれば、自ずと一つの可能性に行きつく。

「くだらん真似をしやがって。さっさと正体を現したらどうだ」

「嫌だと言ったらどうするのじゃ」

 またもあらぬ場所から声が聞こえる。それも、聞き慣れぬ声だ。老獪のようでいて、うら若い。実に奇妙な声音であった。

「貴様が使っているカラクリなどお見通しだ。すぐに化けの皮を剥がしてやろう。スキルカード対抗バニッシュ

 ムドーが使用したのはスキルカードの効力を打ち消すカード。この場では誰もスキルカードを使用していないので、スカに終わるはずだった。


 だが、「対抗」のカードはしっかりと効力を発揮した。光の粒子がイナバノカミの眼前で螺旋を象る。そして、はじけ飛ぶと同時に、一人の少女が姿を現した。


 背中には大きく広がる四対の羽。古代文明人が身に着けていたような布の装束を纏い、ティアラを付けた金髪を揺らしている。色白な素肌に柔和な顔立ち。その様相を一言で表すならこうするしかあるまい。「天使」だと。

 これまでも天使をモチーフとしたモンスターはいくらか登場してきた。だが、突如出現した少女は、そのどれとも該当しなかった。


「我が使用していた『スキルカード』を看破するとは。やはり侮れぬ男よ、ムドー」

「そのカードなら俺も使っていたからな。スキルカード透明インビジブル。アバターを透明にして相手から見えなくする。ある作戦のためにもらった特別なカードだ。戦闘では何の役にも立たん遊びのカードだがな」

「ある作戦のために透明のカードをもらったってどういうことだよ。それに、その天使は何者なんだ」

 話に置いてけぼりにされているテトは声を張り上げる。ムドーは面倒くさそうに眉を寄せたが、説明せずに無視するというわけにもいくまい。デッキから問題となっている「透明」のカードを取り出すと解説を始めた。


「俺はミスターSTという男から依頼され、今までこのスキルカードを使って秘密裏にイベントに参加していた」

「ミスターSTって、父さんの差し金なの」

「父さんということは、お前は田島悟の娘か。あのおっさんに娘がいるということは薄々聞いたことがあったが、対面できたのは意外だったな」

 素直に感心されたことでライトはむず痒くなる。ノヴァに脇を突かれたムドーは咳払いをして続ける。

「俺の役割は一つ。キライムというライム対策用ソフトを搭載したモンスターを使い、ライムを倒すこと。回りくどいことを言わずとも、アルファリスと言えば通じるだろ、テト」

「あのモンスターはお前が操っていたのか」

 野良のモンスターだと信じて疑わなかったテトにとっては衝撃であった。同時に、あの戦いの後でライムが体調不良になったことについても説明がつく。戦闘中、知らぬ間にキライムを流されていたのだ。ライムがそのソフトに既に感染していたのもそのためだろう。


 また、透明になってずっとテト達を追尾していたのなら、急に助太刀に来たとしても不思議ではない。ムドーに対する疑問は大方解決したが、問題は天使の方だ。

「俺の邪魔をするとはいい度胸だ。燃やし尽くしてやろうか」

 ムドーが啖呵を切ると、天使は表情を変えずに更なるスキルカードを出現させた。そこから鎖が飛び出すと、ノヴァへと巻き付いていく。腕回りを拘束されたことで滞空が維持できなくなり、そのまま墜落してしまった。


「スキルカード拘束バインド。暴れ回られては面倒じゃ。しばらく大人しくしとるがええ」

「あんさん、うちにこんなことしてただで済む思うとるのか」

「うるさい雛じゃのう。そなたもまたターゲットであるが、いずれゆっくりと手中に収めさせてもらう。我の第一の目標はライム、そなたじゃ」

 ノヴァを視野に入れず、まっすぐとライムを指差している。これまでもライムを狙われたことはあったが、こんな天使に因縁をつけられる覚えはない。


「ライムが目的って、お前みたいなへんてこなやつなんか知らないぞ」

「ライムの使い手の少年か。そなたがそう言うのも無理はないの。ここまで自己紹介を忘れておったのは失念じゃった。我が名はパムゥ。ライムと同じ力を持つ存在じゃ。そして、我が主の名を伝えれば納得するのではないかな」

 含みがある笑みに、テトは身の毛がよだった。よもや、この局面であの因縁の相手の名を聞く羽目になろうとは。

「我が主。それはケビンじゃ」

モンスター紹介

パムゥ ?属性

アビリティ ???

技 ホーリーシールド

天使のような容姿の謎のモンスター。現時点ではっきりしているのは、ライムと同じような能力を持っていることとケビンが使用するということ。

ライム以上にデータ干渉能力に長けているらしいが、その実力の程は不明。ノヴァと同程度、あるいはそれ以上の強敵であることは間違いない。

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