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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
3章 交差する思惑! ムドーと運営とそしてあいつ!!
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最強の男降臨! ノヴァVSイナバノカミその2

 召還されたモチエモン三体は同時に進み出ると、全身を際限なく膨らませ始めた。

「まずい。あいつら自爆する気だ」

 テトは思わず助言を発する。実際に喰らったから、その脅威は十分に把握している。神殿の加護は働いていないが、自身の体力を犠牲にしてでも広範囲爆発で確実に仕留めるつもりなのだろう。おまけに、三体同時で爆風を起こされたら、回避するのはほぼ不可能だ。


 ギャラリーと化したテトたちが焦燥している一方で、ムドーは落ち着き払っていた。ノヴァもまた動揺している様子はない。よもや、諦観したか。モチエモンの膨張は臨界点まで達しようとしている。そして、両者へと容赦なく三体分の爆風が襲いかかった。

 ムドーは片時も視線を外すことなく、爆風を観察している。そして、ゆっくりとある一点を指差した。

「一時方向に速度二二で直進。そして、三コンマ七メートル先で停止」

 それをきっかけに、ノヴァは自動車の徐行運転程の速さで、やや右寄りに舵を取りながら直進した。一見すると隙間なく迫って来る爆風。そこへ突撃するなど自殺行為に他ならない。そのうえ、少し進んだ先でピタリと動きを止めてしまったのだ。


 その場にいた者すべての視界を奪うすさまじい爆風。そのせいで、なかなか状況が把握できずにいる。モチエモンが木っ端みじんになっているのは間違いないが、その余波でノヴァもまた満身創痍になっているはずだった。

 だが、暴風に着物の袖と髪をなびかせつつ、ノヴァは涼しい顔で顕現した。恐るべきことに、彼女の体力ゲージは一ドットも減少していない。

 むしろ被害を被ったのはイナバノカミの方だった。爆風の巻き添えにより、体力ゲージは残り八分の一程となってしまっている。攻撃力を鍛えてあるモンスターであれば、一撃で削ることも可能な範囲だ。


「一体どうなってるんだ。あの爆風を躱すことができるなんて」

 素直に感心しているテトだったが、ムドーは一瞥をくれることもない。代わりに、ノヴァが誇らしげに胸を張った。

「すごいやろ。これこそ、ムドーはんにしかできない技や」

「余計なことを。まあ、種明かししても真似できるわけはないから、教えておいてもいいか。ムドー、説明してやれ」

「自分で話すんやないんか。別にええけど。えっとな、ムドーはんは優れた計算能力を持っとるんや。それを利用して、相手が繰り出す技の軌道を予測することができる。

 ほんで、ムドーはんの指示通りのタイミングで動けば、どんな攻撃でも回避可能。いくら強い技でも、躱してしまえば意味ないやろ」

「まさか、今まで無敗だったのは、どんな攻撃も回避してしまったからか」

「その通り。うちはこの能力を『神眼しんがん』と呼んどる」

 いかなる攻撃も当たらなければ、体力を減らすことはできない。体力が減らないということは当然ながら負ける要素がない。単純な理論ではあるが、実行するとなると、とんでもなく滅茶苦茶な戦法だった。


 ただ、弱点がないわけではない。技を回避するにあたっては、ムドーの「読み」に依存することになる。経験則と軌道計算から、読み違えるということは滅多に起こらない。しかし、彼でさえ予測不可能の動きをされたら、流石に回避は不可能となる。

 ムドーがアルファメガを操っていた際、後半戦でライムの攻撃が突然当たるようになる場面があった。あれは、ライムと朧とで意思疎通が図れず、ちぐはぐな行動を取ってしまった結果、ムドーにとっては予測不可能な動きとなったからだった。二人分の思考を同時に読み取るなど、土台無理な話だ。


 木槌を担ぐのもやっとのイナバノカミに対し、ノヴァは嗜虐的に炎をちらつかせる。

「なあムドーはん。避けてばっかりやと、うちも退屈するんや。最後くらいはうちの技で決めさせてくれてもええやろ」

「まあいいだろう。思い残すことなく火葬してやれ。業火絢爛」

「おおきに」

 ノヴァが舞い踊ると同時に、そこかしこに火の玉が発生する。それは彼女の舞に同調するように、周囲を怪しく漂う。幻想的な舞踊に魅了されている間に、火の玉は際限なく増殖していく。


 舞の絶頂を迎えたところで、ノヴァはさっと右腕を差し出した。それを合図に、漂っていた火の玉がイナバノカミへと襲来する。なおも右へ、左へとステップを踏むと、それに合わせて絶え間なく火の玉が飛ばされていく。

 業火絢爛はごく一部のモンスターしか覚えることのできない、高威力の炎属性の攻撃技だ。裏を返せば、この技を使えるモンスターがノヴァの素体ということになる。テトは候補を絞ることができたが、同時に戦慄を覚えた。なにせ、どいつも全国対戦では常連とされているほど強力なモンスターばかりなのだ。


 為すすべなく火炎の弾丸を受け続け、イナバノカミの体力は遂に尽きようとしていた。

「これでしまいや」

 高らかに宣言し、残されていた火の玉をすべてぶつける。雪のように白い毛並みは煤汚れによってどす黒く染まっていった。そして、火炎弾が木槌の柄をかすめた途端、それは真っ二つに折れる。同時に、イナバノカミの体力はすべて消え去った。


 唖然とするテト達の前で、巨大ウサギは地響きを立てながら横たわる。そして、魔法陣の中へと消え去ってしまった。ライムたち三体がかりでようやく減らした体力を、ノヴァは単独で削り切ったのだ。それだけでも充分なのに、とんでもない神業を披露されてしまった。ノヴァにも宿っているであろうウイルスの能力。それを使うことなく、相手の攻撃をすべて回避する。しかも、その根幹となっているのは使い手であるムドー。ノヴァの実力もさることながら、その使い手もまた別格であった。

 相方が戦闘不能にされたことで、赤鉢巻のイナバノカミは完全に腰が引けていた。データとしての性で、負けると分かっていても突撃せねばならない。そんな理不尽に必死に対抗しようとしている。真意はどうあれ、テト達にはそう映っていた。


 だが、ムドーは容赦することはない。無言のままノヴァを差し向ける。

「残るはあんさんだけやな。いちいち反動ダメージで体力減らすんも面倒や。最初から業火絢爛で焼き尽くしてもええか」

「好きにしろ。奴が刃向ってくるなら、それ相応の対処はしてやる」

 ムドーから許可を得たことで、ノヴァは振袖を広げた。それに伴い、無数の火の玉を出現させる。イナバノカミはがむしゃらに突っ込んできたが、

「四時方向に後退」

 ムドーにより軌道を読まれ、難なく回避されてしまう。


 躱した際の勢いを利用し、ノヴァは上空へと舞い上がった。裾を羽のように動かすことで、滞空しながら踊り続けている。

 イナバノカミに滞空攻撃の手段はないため、ただじっと相手の動向を待ち受けるしかない。例え、弱点属性のために大ダメージは確実だとしてもだ。

「ほな、消えてもらおか。業火絢爛」

 彼女自ら技を宣告し、無数に発生させた火の玉を集結させた。イナバノカミの巨大をも呑み込もうとする巨大な業火。木槌を構えて防御姿勢をとるものの、まさに焼き石に水だった。


 残り体力からして、この一撃で勝負が決することはまずない。そのことを理解しているからこそ、ノヴァは次発を準備している。もはやイナバノカミに起死回生の手段はない。地獄の始まりとなる初撃の火炎が命中しようとする。その矢先だった。

能力紹介

神眼

相手を観察するだけで攻撃の軌道を読み取れるという、ムドーの並外れた計算能力を用いた技。

これまでのバトルの経験から次の一手を予測し、実際に放たれる技の軌道を読むことでいかなる攻撃をも回避する。これにより、ムドーの無敗伝説が支えられている。

ただし、彼にも予測できない動きをされるとさすがに躱すことができない。また、パートナーとのコンビネーションも重要なので、ノヴァ以外だと本領を発揮することができない。

余談だが、ムドーは数学の全国模試においても一位の常連である。

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