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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
3章 交差する思惑! ムドーと運営とそしてあいつ!!
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最強の男降臨! ノヴァVSイナバノカミその1

 ひとまず危機は脱した。だが、新たな疑問が浮かび上がった。この状況で炎の技を放ったのは誰なのか。最も可能性が高いのはキリマロのグレドランだが、早々に戦闘不能になっている。その他に炎の技が使えるのはライムと朧だが、両者は対抗ソフトのせいで動くこともままならない。

 訳が分からずに周囲を窺っていると、遠方から足音が響いた。トレンチコートを羽織った男性と、それに付き従う豪奢な紅の着物の少女。テトたちにとっては未知のプレイヤーだった。

「誰だ、お前は」

「せっかく助けたんに、けったいな物言いやな。まずは礼を言うのが筋やあらへんの」

 声を張り上げるテトに、着物の少女ノヴァは心外とばかりに頬を膨らます。慌てて頭を下げるが、同時に違和感があった。「助けた」と主張しているが、彼女の外見はどう見ても人間の少女である。そんな彼女が炎を撃ちだせるなんて……。


 そこまで考えて、ひとつの可能性に思い至った。少女と変わらない姿なのにモンスターだと認識される存在。それがすぐそばに二体もいるではないか。

「もしかしてお前、モンスターか」

 テトは恐る恐る訊ねてみる。その問いに答えたのはムドーだった。

「俺の相棒のノヴァだ。お前がライムの使い手だな」

「そうだけど。ライムのことを知っているのか」

「ファイモンやってる仲間内では常識になりつつあるからな。知らへんのはにわかやろ」

 馬鹿にしたようにノヴァは肩をすくめる。むかっ腹がたったテトだが、些末な問題を気にしている場合ではない。

「ノヴァがモンスターだとすると、お前もライムと同じくウイルスの能力を持っているのか」

「ウイルス……言い得て妙やけど、まあ、そういうことになるんでっしゃろな」

「まどろっこしく濁さんでも、こいつはライムと似たような存在だ。それで回答としては十分だろう」

 朧やジオに続き、新たなウイルス所持のモンスター。それを操る少年はコートの襟を引き寄せ、じっと佇んでいる。


「そんなモンスターを持ってるなんて、お前は何者なんだ」

「俺か。俺の名はムドー。さっきも言ったが、ノヴァの使い手だ。それ以上でもそれ以下でもない」

「ムドーだって」

 意外な所から感嘆の声が上がった。その主はキリマロだった。羨望すら混じった瞳でムドーを凝視している。


「悠斗、この人知ってるのか」

「馬鹿野郎、ムドーっていえば超有名なプレイヤーじゃねえか。全国ランク一位になってから一度も負けたことがない無敗の王者。正真正銘、現時点で最強の男だよ」

 その事実を告げられ、テトは絶句した。薄々、あまりにも強すぎるプレイヤーが全国ランクに居座っているという噂を聞いたことがある。だが、そいつが目の前に居るとは予想外だった。それも、ライムと同じようなモンスターを使っていたとは。


 驚嘆に打ちひしがれていると、ムドーは無言でディスクプログラムを差し出した。首をかしげていると、彼はため息をつく。

「ライムを治療するためのプログラムだ。そんなズタボロの身体では話にならん。さっさと治せ」

「どこで手に入れたのか怪しいけど、対策ソフトを除去できるのならありがたく使わせてもらうわ」

 テトに代わってあーやんがプログラムを受け取り、さっそくライムへとインストールする。快調にキーボードを叩いていたのだが、そのリズムがふと途切れてしまった。


「どうしたんですか、綾瀬さん」

「困ったことになった。このプログラムに対抗できるように、ライムが感染したソフトウェアの一部が改変されているみたい」

「なんだと」

 動揺を受けたのはムドーだった。同時に、イナバノカミを睨みつける。運営側も出し抜かれてばかりはいられず、短期間に改造を加えてきたに違いない。


 ムドーの推測を肯定するが如く、モニタールームで田島悟は不敵な笑みを浮かべていた。綾瀬であれば解除できるだろうが、それでもかなりの時間がかかる。ライムのみならず、ムドーのノヴァまでも始末するには十分な足止めだ。

「さあクソガキ共。大人を本気で怒らせたことを後悔するがいい」

「田島チーフ、それ完全に悪役のセリフですよ」

 呆れる秋原だったが、彼らにチーフを止める術はなかった。


 折角手に入れたプログラムが無駄骨になるかと思われたが、あーやんの話では「時間さえもらえればどうにか修復できる」とのことだ。しかし、レイドボスはそんなに悠長に待ち構えてはいない。

 手首を狙撃された恨みか、青鉢巻のイナバノカミが睨みを利かす。携える木槌は迷うことなくノヴァを狙いすましている。

「どうやらあのウサギはん、相当お冠みたいやで」

「ライムの回復をただ待っているだけでは退屈だ。少し遊んでやろう」

 戦闘不能になり横たわっているモンスターたちには一瞥もくれず、ムドーはイナバノカミと対面する。


「無茶だ。レイドボスに一人で挑む気か」

 テトが呼び止めたのも無理はない。ライムたちが総出で挑んでも歯が立たなかった相手だ。いくら最強のプレイヤーとはいえ、単独でバトルするなど無謀の極みだった。

 だが、ムドーに一切躊躇している様子はない。巨躯から放たれる圧迫感に怯むことなく、それどころか睨み返している。


 イナバノカミとしても、よもや単独で挑まれるのは予想外だったのだろうか。威嚇してはいるものの、なかなか攻撃に出ようとしない。

「どうした、デカブツウサギよ。そんな成りで少女一人倒せないのか」

 煽りを受け、イナバノカミは憤慨して木槌を振り上げた。


 おどけていたムドーだが、戦闘開始直後に顔つきを変える。イナバノカミの挙動を漏らさず観察し、ぶつぶつと計算式めいたことを呟く。

「初動速度、および角度。その他やつの膂力からして……」

 先制で一撃必殺しようと、イナバノカミは強襲爆砕を繰り出す。だが、腕が動いた途端に、ムドーははっきりと言い放った。

「ノヴァ、二時方向に一秒コンマ六三で前進」

 その命令を受け取り、おおよそ一秒半経過した時点で、ノヴァは右斜め上へ駆け抜ける。イナバノカミとすれ違ったのと、木槌が地面を叩いたのとはほぼ同時であった。


 往なされたイナバノカミは、振り向きざまに木槌を振り上げようとする。

「九時方向、二秒コンマ三七」

 今度は二拍程呼吸を置いた後に、ノヴァは左手に跳び退る。イナバノカミの木槌はまたも空振りに終わってしまった。


 その後もやけになって打撃が振るわれるが、秒単位の指示が飛ばされ、すべて回避してしまう。しかも、主に強襲爆砕を使用しているため、反動ダメージで勝手に自滅していく。気がつけばHPゲージは最後の一本に突入していた。

 体力を減らされたことで行動のアルゴリズムが変更され、イナバノカミは臼を召還する。

「あのウサギはん、回復するつもりやで」

「そんな見え透いた戦法、俺には通じん。スキルカード回封メディロック発動」

 ムドーはハートに鎖が巻き付いたイラストのカードを提示する。カードイラストの鎖がそのまま飛び出したかのように具現化し、イナバノカミに巻き付いていく。


 ムドーたちが予想した通り、イナバノカミは搗きたての餅を頬張ろうとする。だが、鎖によって腕ががんじがらめにされ、餅を口まで運べずにいる。そして、鎖が自動消滅すると同時に、餅までもが消え去ってしまった。

「回封を使われた相手は、体力を回復させる技を使うことができない」

 そう宣告されたイナバノカミは恨めしそうにムドーを睨む。搗きたての餅はゴミと化す……わけではなく、きちんと別の利用法があった。


 臼の中から白くて小さな弾力性のある生命体が多数飛び出してきた。餅をデフォルメ化したようなそいつらはイナバノカミを守る近衛兵。いわゆるトークンモンスターのモチエモンだ。

 普通に攻撃しても壁となって阻まれてしまう。そのことを承知しているのか、ムドーはノヴァに待機を命じている。

 だが、停滞を貫こうとしても、そうは問屋が卸さなかった。

スキルカード紹介

回封メディロック

対象のモンスターは技及びスキルカードで体力を回復させることができない。

体力回復を封じるので、特に耐久型のモンスターに対して有効。

回復技そのものを封じるわけではないので、このスキルカードをかけられても、交代してしまえば通常通りに使うことが可能である。

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