表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
3章 炎と氷の亡霊! 史上最強の中ボス!!
122/238

謎のドロップアイテム

 すかさずテトが彼女の身体を支えるが、呼吸は荒く、ぐったりとしている。戦闘中もどことなく調子がおかしかったが、ここにきて症状が一気に悪化したようだ。

「おいおい、ライムは病気か何かか」

「分からない。戦っている時もつらそうだったんだ。毒を受けた覚えもないし。クソ、こんな時に回復アイテムでもあれば」

 テトが拳で地面を叩くと、それに合わせたかのように、アルファメガが存在していた地点にディスク状のプログラムが浮かび上がった。


 恐る恐る手に取ってみるが、全く未知のアイテムのようであった。アルファメガを倒した後に出現したことといい、戦闘のドロップアイテムであろうか。

 とりあえずアイテムボックスに収納してみると、そのアイテムの説明欄には「?」が羅列していた。

「開発途中のバグアイテムかよ。とんでもないスカを引いたぜ」

「でも、ここに何か書いてある」

 テトが肩を落としていると、シンが最後の方の一行を指差した。そこだけはっきりと判読できる文字列が記載されている。

「モンスターの体力を回復するか。ものすごく胡散臭いけど、ライムを回復させるにはこいつに賭けるしかないからな」

 後ろめたくはあるものの、テトは手に入れたディスクをライムへと差し出す。体内に自動的にインストールされているのか、近づける度にどんどんと欠けていく。


 やがて、テトの手中からディスクが消え去った時、ライムはばっちりと開眼した。

「あれ、私どうしたのかな」

 酸欠の金魚みたいになっていたのとは一転し、何事もなかったかのようにしっかりと立ち上がる。戦闘中に減った体力も元通りに回復されていた。

「強力なボスの後に用意されている、定番の回復アイテムのようね」

「そうだとしても、体力を全回復するウルトラポーションぐらいの効果はあったぞ。まあ、ライムが元気になったからそれに越したことはないや」

 元気になりすぎてはしゃぎまわるライムにデコピンをかまし、一同は階段へと向き直る。中ボスがあまりに強大過ぎたために霞んでしまったが、本命は上階層にいるイナバノカミである。あーやんの話だと、シンのチームの面々も集結しているようだ。顔を見合わせると、勇んで階段を昇っていくのだった。


 テト達がフロアから姿を消すのと同時に、ムドーは透明化を解除した。アルファメガが消滅した地点を一瞥すると、唾を吐きつける真似事をする。

「ライム。噂に違わず面白いやつだ。つまらんモンスターで敗北の汚泥を舐めさせられたのは気に食わんが、やつが本気で戦うに値すると分かっただけでも収穫はあった」

「ほんにな。それに、朧とも会えるなんて僥倖や」

 コートを翻し、テト達に後を追おうとする。そんな彼の前に新たにアバターが召還された。


 パピヨンマスクをつけた男。一目しただけでその正体が分かる酔狂者。作戦の発起人であるミスターSTだ。

 どんなに鈍いと言われている者でも、彼が憤慨していることはすぐに分かる。震わせている拳は、その気になれば躊躇なくぶち込ませることも辞さなかった。

「何を考えている、ムドー」

「ライムを倒すことだ。それも、俺のモンスターで。そのためにキライムというシステムは邪魔だった。だから排除した。それだけのことだ」

 悪びれることもなく、堂々と開き直っている。大人を舐めきった態度に、本気でお灸を据えてやろうかとミスターSTは拳に息を吐きかける。


 だが、ムドーの鋭い眼光に射抜かれ、その手を止めることとなった。

「この俺と遊んでいていいのか。朧が参戦してくることはあんたらも予想外だったんだろ」

「そ、それはそうだが」

「俺の勘だが、このイベントには『奴』もちょっかいを出しているかもしれん」

「奴、だと」

 ムドーが誰を示唆しているかはすぐに判断がついた。ライムに興味があり、テトたちやミスターSTたち以外で秘密裏のサーバーに介入できる人物。そんな者はあいつぐらいしかいなかった。


「あいつはライムと同じくらい戦ってみたかった相手だ。俺へと刃向ってくれるのならむしろ好都合」

「そういうわけや。あんさんらの計画もご破算になったみたいやし、こっからは好きにやらせてもらいやす」

 それだけ言い残すと、棒立ちしているミスターSTを通り過ぎていった。


 アバターをログアウトさせた田島悟は壁を拳で殴りつけた。般若も腰を抜かす鬼気に、レイモンドは椅子から転げ落ちそうになる。

「あ~、田島チーフ、本気で怒ってますわ」

 黒田がおどけてみせるが、空回りに終わり、すこすこと退散する。田島悟は無言のままパソコンに手を伸ばすと、息もつかぬ勢いでキーボードを叩いた。

「これで終わりだと思うなよ。こうなれば、意地でもキライムの恐ろしさを見せつけてやろう」

 修羅と化したチーフを止める術は社員たちにはなかった。様々な思惑が渦巻く中、いよいよレイドボスとの再決戦の時が迫るのである。


 地下ダンジョンから脱出を果たすと、参加者全員が集結することとなった。通信で伝えられた通り、本当に両チームが鉢合わせしていたらしい。

「悪いなみんな、待たせちまって」

「問題ないわよ。それより、一体地下で何があったの」

 そう訊ねるライトに、テトはアルファメガと戦ったことを話した。皆、経験者だけあり、アルファメガの強さは熟知している。ましてや、それが中ボスとして登場したということは解せないというのが一同の見解だった。


「イナバノカミが霞むほどのモンスターを出してくるなんて、父さんはどういうつもりかしら」

「バグで片づけるにしても、あまりに不自然だからな」

「まあ、ともかく。これから大ボスと対決するんだ。田島のおっちゃんがどう考えているか議論するのは後でもいいだろ」

 悩めるテトに対し、あーやんが発破をかける。彼女の言う通り、チーム対抗戦は未だ継続だ。ターゲットが二体同時に出現するということは、それぞれのチームで同時にバトルを仕掛けることとなる。

「ライム。さっきは力を貸したけど、次は別だ。あたいとどっちが強いか、はっきりさせようじゃないか」

「臨むところだよ、そぼろちゃん」

 ライムと朧が火花を飛ばしあったのを皮切りに、赤と青、それぞれのチームで向き直る。そして、イナバノカミが待ち受ける決戦の舞台へと突入していったのだ。

アイテム紹介

ポーション

ダンジョン探索系のイベントで入手できるHP回復アイテム。

ポーション→スーパーポーション→ウルトラポーションの順で効果値が大きくなっていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ