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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
3章 炎と氷の亡霊! 史上最強の中ボス!!
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ムドーの策略

「な、なんかすごそうなのが出て来たよ」

「アルファリスの融合体アルファメガ。炎属性のみならず、副属性に水が追加されている。しかも、ただでさえ高い攻撃力が更に強化されているんだ」

 じわりと距離を詰めるアルファメガに、テト達は自然と後ずさっていく。二対一という有利な状況だが、そんなものは問題にならないほどの威圧感がある。


 だが、いつまでもビビってばかりはいられない。奮起したテトは、ライムにサンダーボール、ネオスライムにバブルショットを指示した。炎と水の複合属性の場合、弱点は雷に変化する。むしろ、最も安定してアルファメガと戦えるとしたら、雷属性のモンスターぐらいしかいない。

 バブルショットはダメ押しでしかないが、本命のライムのサンダーボールであれば痛手を与えられるはず。だが、直撃を受けたにも関わらず、体力はさほど減っていない。それこそ、絶対氷壁を使用したオメガリアに攻撃しているかのようだ。


 そして、アルファメガの反撃。使用したのはブレイズソード。融合されるのを見越し、ネオスライムの防御力は極限にまで強化してある。なので、相手の最強攻撃技デスボルカニックが来たとしても、余裕で耐えられるはずであった。

 ネオスライム目がけ、一直線に振り下ろされる炎の刃。身を固めてじっと大太刀を待ち受ける。そして、衝撃音とともに、ゲル状ボディが押しつぶされた。


 その一撃で、ネオスライムの体力はあっという間に消滅しようとしていた。

「そんな。ブレイズソードでここまで減らされるなんて」

 テトが驚愕したのも無理はない。ネオスライムの九死に一生が発動したから事なきを得たものの、一歩間違えれば戦闘不能にされるところだったのだ。


 いきりたったテトは、ライムに再度サンダーボールを指示する。これまた命中するが、体力はわずかに減っただけ。いや、減らなさすぎる。

 オメガリアと融合しているせいか、アルファメガはそこそこ防御力も強化されている。しかし、弱点技を二連続で喰らったのであれば、体力は二分の一程にまで減少していてもいいはずだ。


 とんでもない防御性能のみならず、攻撃も規格外。テトはそんな相手と戦った覚えがあった。そもそも、このイベントの主催者はミスターST。かつて、違法ステータスのモンスターでライムを始末しようとした男である。ならば、このイベントでも似たようなモンスターを用意していても不思議ではない。


 そのことはムドーも察していた。アルファメガの本来のステータスも把握していたので、ブレイズソードで与えたダメージが異常に大きいことはすぐに気が付いた。

「俺にこんなインチキモンスターを使わせるとは、ふざけた真似をしやがる」

 アルファメガの体内にはウイルス対抗ソフトが仕掛けられている。明らかにおかしいステータスであることを示唆させ、ライムのウイルス能力を誘発する。そして、体当たりでアルファメガに触れた瞬間、キライムを発動させる。運営の考えはそんなところだろう。


 だが、素直に思惑に乗るほど、ムドーは単純ではなかった。正直、運営側に協力するつもりはない。仮のモンスターで戦わなくてはならないとはいえ、ライムと対決する場を得た時点で、ミスターSTの計画などどうでもよかった。

「ノヴァ、お前もまたステータスの操作はできるだろ」

「そんなん朝飯前や。これまではそんなことする必要がなかったからやったことないけどな」

「そうか。なら、アルファメガを弱体化させろ」

「な、あんさん、それは無茶や」

 強化しろならともかく、その真逆を指示するなど不可解だった。だが、ノヴァが渋った最大の理由はそこではない。

 ノヴァもまた、相手に接触することでステータスを操作することができる。裏を返せば、ムドーの指示を実行するためには、キライム搭載のアルファメガに触れる必要がある。つまり、ノヴァもまた対策ソフトの影響を受けるかもしれないのだ。


 逡巡したノヴァであったが、やがてムドーに背を預けると、大きく振袖を広げた。滅茶苦茶な命令ではあるが、考えなしにそんな無茶をさせるわけがないと確信していたからだ。

 軽く助走をつけると、振袖を羽のように動かしながら低空飛行を開始する。もちろん、透明なまま接近しているので、テト達が気づく余地はない。やがて、アルファメガの肩を叩くと、方向転換してムドーの元に舞い戻ってきた。


 着地した瞬間にノヴァは膝を折って、顔面蒼白となる。過去最強のウイルスをも消し去るワクチンの威力は伊達ではなく、さっそく彼女の身体を蝕んでいるのだ。

「やばいわ、これ。予想以上に強力や」

「辛かろうが、もう一仕事頼む。そのまま、ゲームネクストのシステムをぶっ壊して来い」

「ええの、そんなことして」

「もちろん、ただテロ行為をするわけじゃない。そこで一芝居うってもらう」

 ムドーから手筈を伝えられたノヴァは口角を上げると、地下ダンジョンのサーバーから離脱していった。


 アルファリスが不動のままではテトに怪しまれてしまう。すかさずムドーは「デスボルカニック」で攻勢をかける。

 超威力を誇る全体攻撃。相手の防御力も異常である都合上、易々とダメージソースを失うわけにはいかない。それ以前に、簡単に仲間を見捨てるなど、テトが許すはずがなかった。

「スキルカード大雨レイン。こいつでデスボルカニックを打ち消させてもらう」

 アルファリスの頭上に暗雲が立ち込める。土砂降りの雨を内包したそれは、迫りくる熱波を狙い撃ちしようとする。

 だが、アルファリスの前にカードが出現した途端、暗雲は瞬く間に消え去ってしまった。瞠目するテト。この局面で反撃されるなど、流石に予想外だった。

 アルファリスが発動したのはスキルカードの効果を無効にする「対抗バニッシュ」であった。熱波は予定通り、ライムおよびネオスライムを直撃する。


 特別な力を持たないネオスライムが二連続でアビリティを発動させるのは至難の業であった。情けない声をあげ、魔法陣へと還元されてしまう。同時にライムも大ダメージを受けるが、そこでテトは違和感を覚えていた。

 ライムとネオスライムは元々同一のモンスターであるため、防御力に大差はない。先ほど、ブレイズソードにより、ネオスライムは一撃で戦闘不能寸前となってしまった。だが、それよりも威力が高いデスボルカニックを受けたにも関わらず、ライムの体力は三十三パーセント程維持されているのだ。


 そこから導き出される答えは一つ。テトが与り知らないところで、アルファメガの攻撃力が下がった。いきなり弱体化したのは解せないが、彼にとっては好都合だった。

「よくわからんが、アルファメガのステータスが正常に戻ったみたいだ。このまま一気に攻めるぞ。スキルカード強化エンハンス。そして、サンダーボールだ」

 ライムは両指を曲げ、手と手の間に稲妻の球体を生成する。そして、

「これはネオスラちゃんの分!」

 そう叫ぶと、勢いよく稲妻の弾丸を投げつけた。


 攻撃力が下がっているのなら、当然防御力も下がっているはず。おまけにスキルカードでライムの攻撃力は上昇している。命中すれば大ダメージは必至。

 しかし、アルファメガがゆらりと宙を漂うと、サンダーボールは勢いよく後方へと通過してしまった。いきり立ったライムは稲妻弾を連射するが、アルファメガはそのすべてを難なく回避してしまう。


 もちろん、回避に徹しているわけではなく、きちんとブレイズソードなどで反撃してくる。いくら半減できるとはいえ、技を当てるのに手をこまねいている間にダメージは蓄積していく一方だ。

 やがて、ライムの体力は後一発で不能というほどにまで追い詰められてしまった。アルファメガは炎の剣をちらつかせながら迫ってくる。相手から至近距離に踏み込んできたのを利用し、ライムはサンダーボールで迎撃しようとする。だが、発射と同時に上昇され、またしてもスカを引いてしまう。


 そして、アルファメガのブレイズソードがライムを襲う。袈裟懸けに斬られ、ついに体力が尽きる。そう思われたのだが、未だHPは健在だった。

「九死に一生ってね」

「どうにか耐えたけど、あの野郎、回避性能高すぎだろ。さっきからライムの攻撃が一発も当たっていないぞ」

 焦燥するテトを遠巻きに眺め、ムドーはほくそ笑んだ。即席のモンスターでは本調子を出すことはできないが、単調に技を撃ってくるだけならいくらでも対処できる。


 実は、ムドーの無敗神話を支えているのは高い計算能力だけではなかった。それを応用させることで、とある秘技を習得した。それを発揮することで、回避率を高めているわけでもないのに、いくらでも相手の技を躱すことが可能になる。

 ただ、技を完璧に仕上げるためにはパートナーとの阿吽の呼吸が必要となる。ムドーの指示にアルファメガが後れを取った結果、ライムが反撃で放ったサンダーボールに被弾してしまった。

 パートナーを睨むムドーだが、借り物相手に不満をぶつけても詮無きことだ。それに、そろそろノヴァが行動を起こしているところだろう。そう思い、ムドーは天を仰いだ。

モンスター紹介

アルファメガ 炎属性

副属性水

アビリティ 融合体:このモンスターはアルファリスとオメガリアを融合することで誕生する

アルファリスを素体に、オメガリアと融合することで召還できるモンスター。

実質アビリティを持っていないが、圧倒的なステータスの高さと、炎と水という優秀な属性の組み合わせにより、十分な強さを誇っている。

ちなみに、オメガリアを素体にアルファリスと融合することで、オメガルファというモンスターを作ることもできる。

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