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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
3章 炎と氷の亡霊! 史上最強の中ボス!!
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牙を剥く運営とトラップ

 株式会社ゲームネクストのモニタールーム。そこで田島悟は頬杖をついてパソコンの画面を眺めていた。その横でレイモンドが興味深そうに倣っている。

 テト達がイナバノカミとの初戦を終え、そこからしばらくしてシンたちも試合終了していた。盤石の強さを誇る朧を軸に、特攻で高火力を得たキリマロのグレドラン、回復能力を持つピクシーとバランスの取れたチームが結成されていた。一時はテト達よりも敵の体力を削っていたのだが、光化でグレドランの炎ダメージを軽減されたうえ、痛恨の一撃でピクシーが戦闘不能にされてしまう。更に、餅を食べて回復したことで、最終的に二本のライフが全快と最後のライフが僅かに残った状態でタイムアップとなった。


「正直、予想外だったな」

「どういうことデス」

 渋面をつくる田島悟に、レイモンドが問いかける。

「特攻モンスターがチームにいる青チームはまだしも、そうでない赤チームがあれほどの成果を上げるとは思ってもみなかった。イナバノカミはレイドボスにしては脆弱だが、高い攻撃力と回復能力により、歴代でもかなり体力を削りにくくなっている。一回の戦闘で一本のライフをすべて削るなど、特攻でも使わないと至難の業だ」

「つまり、ライムの攻撃性能は予想以上ってことですよね」

 インスタントコーヒーを片手に秋原が入室してきた。木下を始めとした四天王の面々も追随する。起死回生を図るイベントのテストということで、開発陣として動向を見守りたかったのだ。


 結果を鑑みて、田島悟はパソコンのチャットシステムを立ち上げた。通信している先は関西地方の京宮きょうのみや。相手先は既に待機していたようで、さほどタイムラグが生じず通話が開始された。

「随分と早く連絡してきたな」

「君の出番はもう少し先だと思っていたのだが、予想以上に早くイナバノカミが討伐されそうでな。できればもっと泳がせて消耗させたかったのだが」

「いや、好都合だ。虫の息の相手を仕留めても面白くはない。むしろ、さっさと罠に嵌めてもらいたいぐらいだ」

「頼もしいな。そこまで言うからには準備はできているのだろうな」

「無論だ。それよりも、作戦からしてしょうもないモンスターを送って来るかと思ったが、まさかこいつとは」

「不服デスか。最高のモンスターだと思いマスが」

 自慢げに横入りするレイモンドに田島悟は顔をしかめるが、通話先の相手は一笑に付した。

「むしろ好都合だ。くだらない雑魚を寄越してきたら、後でノヴァに襲撃させようと思っていたが、こいつなら問題ない」

「喜んでもらえてうれしいデス」

「そういうわけだ。頼むぞ、ムドー君」

 通話の相手ムドーは無言のまま接続を切る。


 運営からの連絡を受け、ムドーは指定されたポイントへとアクセスした。そこには用意されたモンスターと共に本来のパートナーであるノヴァが待ち構えていた。

「こんなけったいなモンスター使えやなんて。運営は舐めとるんちゃいますか」

「過度な期待はしていない。ライムが噂に違わぬ実力の持ち主か見極めるには十分だろう。それよりも、あのおっさんたちは妙なことを仕掛けてないだろうな」

「ずっと監視しとったんやけど、おかしなことはあらしませんでしたわ。まあ、変なことをやらかしたら、うちが焼き払ったるさかい、安心しとき」

「そうか。では頼むぞ」

 そう言うと、ムドーは田島悟より手渡された特殊なスキルカードを発動した。それは他人からアバターの姿を認識されなくするステルスカード。これにより、ターゲットは用意されたモンスターが野生だと錯覚することになる。


 ムドーと共にノヴァも透明になり、特別に用意された神殿の一室にて、じっとその時を待つのであった。



 イナバノカミとの戦闘後、テト達はダンジョン内をくまなく歩きまわっていた。ライムたちの体力が瀕死にまで追い込まれてしまったので、ダンジョン内でドロップする回復アイテムを掻き集めるためだ。闇雲に移動しているせいでイナバノカミとは遠ざかっているが、傷ついたままでは遭遇してもまともに戦うことはできない。

 しかし、遊歩していると、当然雑魚モンスターとエンカウントすることになる。無駄な戦闘を避けるために、レディバグで魅了させている間に逃げるなど工夫を凝らしてきたが、ダンジョンは更なる牙をむいてきた。


「テト、こっちにも宝箱があるよ」

 回復効果のあるポーションを求め、片っ端から宝箱を探すライム。そんな彼女が目的のぶつを発見したというので、テトは足を止める。行き止まりとなっている小道の先にこれ見よがしに設置されている。「でかしたぞ」と頭を撫でられ、気を良くしたライムは意気揚々と宝箱を開けようとする。


 だが、手を差し出した途端、宝箱が牙を剥いた。そして、油断していたライムの右手にがぶりと噛みついたのだ。

「ちょっと何こいつ。手が抜けないよ」

 宝箱は右手に喰らいついたまま放そうとしない。ライムの足蹴にも余裕綽々としている始末だ。

「ちょっと何やってんのよ」

 テト達が追い付いていないことを不審に思ったライトたちが合流する。そして、ライムの有様を目撃し息を呑むのであった。


「ごめん、ドジっちまった」

「そいつはミミックね。宝箱に化けて中身を手に入れようとしているやつを襲うトラップモンスターだ」

 ダンジョン探索系のイベントでほぼ皆勤賞となっているミミック。あーやんの解説通り、アイテムを収集しようとする参加者を嘲笑うかのように紛れている嫌らしいモンスターである。


「ねえ、誰か助けてよ」

「よかろう。不埒者よ、我が怒りの鉄槌を受けるがいい」

 ジオが進み出て、ミミックの頭(?)にチョップを叩きこむ。衝撃で牙が緩んだすきにライムは束縛から脱し、恨みを込めて本体へ蹴りをお見舞いした。

 レベルが低い個体だったらしく、立て続けに受けた暴力によりあっさりと戦闘不能になる。ライムは噛みつかれた手に息を吹きかけて涙目になっていた。折角回復したHPも減少してしまっている。

「ううう、ごめん、テト」

 しょんぼりと落胆しているライムの頭をテトは優しくなでる。

「謝ることはないさ。トラップモンスターなら、これまで嫌というほど出会ってきただろ」

 慰められたことで、あっさりと機嫌を取り戻し、ライムは破顔する。


「それにしても、トラップが仕掛けられているなんて、悠長にアイテム探索はしていられないわね」

「全くだ。だが、安心せよ。我はトラップに引っかかるなどという間抜けは犯さん」

 豪語すると、ジオは先行して次のフロアへと続く通路を進行しようとする。だが、扉へと至る直前、「ピ」という明らかに嫌な音が響いた。


 一同の額から嫌な汗が伝う。特に、起爆剤となってしまったジオは恐る恐る右足をどかす。

 すると、ドクロマークが描かれた明らかにヤバそうなスイッチが平らにめり込んでたのだ。

「ふ、ははは。わ、我はトラップに引っかかるなどという間抜けは」

「犯してるじゃないのよ、アホ!!」

 乾いた笑い声を上げるジオに、ライト渾身の脳天チョップが炸裂した。

モンスター紹介

ミミック 闇属性

アビリティ びっくりさせられてたまるか!:混乱状態にならない

技 かみつき

ダンジョンの宝箱に擬態し、開けようとするものを噛みついて攻撃するトラップモンスター。

テト達が遭遇した個体はレベルが低かったが、高い攻撃力で噛みついてきたり、状態異常技を使ってくるものも存在する。

あくまでトラップ用のモンスターなので、実戦ではネタキャラでしかない。

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