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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
3章 白き悪魔! レイドボスを討伐せよ!
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レイドボスの洗礼! VSイナバノカミその3

 テト達がようやく一本目のゲージを削り切った時には、制限ターン数は残り僅かとなってしまっていた。討伐するには圧倒的に手数が足りない。ここで逃がすにしても、できる限り体力を減らしておきたかった。

 だが、そんな思惑を阻止するように、イナバノカミは新たな攻撃パターンを展開してきた。一旦距離をとったかと思うと、目の前に巨大な臼を召還する。テト達の身長と同じくらいの大きさだ。投げつけられでもしたらシャレにならない。


 とはいえ、そんな奇をてらった襲撃をするわけはなく、イナバノカミは木槌を握りなおすと、一心不乱に臼を叩き始めた。一定のリズムで突かれるその様はある光景を連想させた。そう、ウサギの餅つきだ。


「戦闘中に餅をつくとは不埒なやつめ」

「そうだぞ、月に代わっておしおきするぞ、ウサギだけに」

 あからさまに無防備を晒しているので、遠慮なく攻撃させてもらう。ライムのヒートショットとジオのガイアフォースが炸裂し、体力は更に削られる。と、思われたのだが、イナバノカミの体力は減少することはなかった。両者の攻撃が命中したにも関わらず。


 そのカラクリは単純だった。イナバノカミを守るように新たなモンスターが出現していたのだ。漫画でしか見たことがないように膨れ上がっているお餅。一丁前に腕が生えて力こぶを作っている。ネオスライムと同程度の体長のそいつらが四体ほど整列していた。

 先ほどのライムとジオの技は、突如登場した餅モンスターが身代わりとなって防いだのだ。イナバノカミの仲間と認識されているらしく、敵側に新たに四つHPゲージが追加される。そのモンスターを指し示す名は「モチエモン」だった。


「何者なんだ、こいつらは。いきなり湧いて出てきたぞ」

「驚いたかね。イナバノカミの第二ギミック。餅モンスターのモチエモンを召還し、攻撃を防御する」

 モチエモンもまた、木下が苦し紛れにデザインしたモンスターだった。よもや、地区大会の控室で冗談で口走ったことが本当になったなど、秋原は夢にも思うまい。

 火属性なので、イナバノカミの弱点を突こうと風属性で挑んでいた場合はしっぺ返しを喰らうことになる。加えて、身代わり防御を使ってくるので、無視しようとしても勝手に壁となってしまう。

 そして、この餅の脅威はまだまだ序の口だった。相手のターンに移るが、イナバノカミは木槌を下ろして行動する素振りがない。代わりに、二体のモチエモンが進み出た。


 ライムたちが身構えていると、モチエモンらは全身を膨らませ始める。上半身が肥大していき、比例するように赤ら顔になっていく。

「おいおい、これはまずいんじゃないか」

 あーやんが危惧していたことは、チーム全体で共有されていた。際限なく膨らむ様は、童話の牛とカエルを連想させた。あの物語で、牛に対抗して体を膨張させ続けたカエルが最終的にどうなったか。


「みんな、逃げろ」

 テトの号令にライムたちは退避を開始するが、既に臨界点を突破してしまっていた。

 爆裂音とともに、モチエモンの全身がはじけ飛ぶ。連鎖するように二体目も爆裂し、それにより生じた爆風がライムたちを包み込む。発動された技はそのまま率直に「はじけとぶ」であった。


 一発でも攻撃を受けたらアウトなライムは言わずもがな、ジオとレディバグは弱点属性の技となるため、被弾したらチームはほぼ壊滅してしまう。自力で回避できればめっけもんと考えていたのだが、ここは安全策で挑むべきだ。

「スキルカード大雨レイン。炎属性のはじけとぶを無効にし、ライムが使う水属性技を強化する」

 ライムへと到達しようとしていた爆風は、スキルカードによって発生した局地的豪雨により打ち消される。ホッと安堵したのも束の間、第二波が迫ってきた。

「いい判断だ。だが、そのカードで打ち消すことができるのは一体分の攻撃のみ。もう一体の技は防御できんぞ」

「じゃあ、こうすりゃいいんじゃない。スキルカード無効インバリット

 哄笑するミスターSTの寝首を掻くが如く、あ~やんは完全防御のスキルカードを発動する。襲来していた爆風は、カードより放たれた光に迎え入れられ消滅していった。


 はじけとぶは自爆の下位互換ともいえる技。攻撃範囲はテト達のみならず、イナバノカミ陣営にも及ぶ。実際、同時に召還されたモチエモンは巻き添えになって自滅してしまっていた。だが、肝心のイナバノカミには被弾した様子はない。

「もしかして、神殿って自爆の反動すら防ぐの」

「バグでそんな設定になってたと思う。神殿爆弾なんて物騒な戦法が流行したし」

 攻撃の反動すらも無効にしてしまうため、自爆を使っても戦闘不能にならないという致命的な欠陥が発見されてしまっていた。なので、スキルカード光化メタモルライトで自分のモンスターを光属性にし、一方的に自爆するというチート戦法が一時期環境を制していた。

 もちろん、運営が放置しているわけはなく、その後、神殿が発動している時に自爆を使うと威力が大幅に下がるという修正が加えられた。


 自滅しないのをいいことに、イナバノカミは更に餅を搗き始める。これ以上爆発する障壁を増やされたらたまったものではない。

「せめて、自爆の防御をなくせば有利になるかもしれないわね。スキルカード水化メタモルアクア

「ナイスだ、日花里」

 ライトが発動したスキルカードにより、イナバノカミの属性は水に上書きされる。属性変化の効果は副属性にまで及ぶため、神殿の加護は受けられなくなる。


「水属性になったなら、私もアタックチャンスよね。レディバグ、マシンガンシード」

「ジオ、ガイアブラスター」

「サンダーボールだ」

 水属性に有利な技のオンパレードで一気に攻勢をかける。悠然と餅を搗き続けるイナバノカミに回避する素振りはない。圧倒的な体力を持つレイドボスのおごりか。


 否、それだけではなかった。ライムたちの技が到達する直前、長方形の光源が現れ、イナバノカミを取り囲む。その途端、水になっていたはずの属性表示が光へと変換されてしまった。

「そんな。あの野郎、光化メタモルライトなんて使うのか」

 光属性ではライムたちの技は通常威力しか発揮しない。それ以上に恐ろしいのは、またも神殿による反動ダメージ無効の恩恵を受けてしまうことだ。

 とはいえ、三体の連続攻撃により、体力ゲージは半分まで達しようとする。折り返し地点に達したことで、ようやく活路を見出したといったところだ。


 更に一斉攻撃を加え、一気に勝負をかける。そう心づもりをしていたのだが、ここでイナバノカミは意外な行動に出た。搗いていた餅をむんずと手づかみしたのだ。搗きたての餅を素手で握って熱くないのかと間抜けな疑問が沸き起こるが、次の行動を目の当たりにしどうでもよくなった。

 わしづかみにした餅を迷うことなく口の中に放り込んだのだ。


 矢継ぎ早に餅がイナバノカミの腹の中に納まっていく。餅は食べ物なので、別におかしなことをしているわけではない。ただ、それは相手が人間だったらの話で、現状とんでもなくシュールな光景が繰り広げられていた。なにせ、ウサギが餅を食べているのである。

「テト、ウサギってお餅食べられるの」

「草食性だけど、さすがにお餅は食べられないんじゃないか」

「いや、逆に考えるのよ。あいつはウサギの皮を被った何かだと」

 一心不乱に餅を食べている姿を見ると、あ~やんの冗談が信憑性を帯びてしまう。


 奇想天外な行動に怯まされたうえ、戦況は悪化してしまっていた。イナバノカミが餅を呑み込むたびに、せっかく減らした体力が回復しているのだ。巨大な臼の中の餅を喰らい尽した時には、二本目のゲージが全快にまで戻ってしまっていた。

「くそ、レイドボスにしては防御力が低めかなと思ったが、こんなギミックがあったなんて」

「まずいわよ、徹人。残り一ターンでタイムアップになっちゃう」

 ライトが指差した先は、戦闘可能のターン数を示すカウンターだった。これがゼロになった途端、相手は逃げ出してバトルが強制終了されてしまう。


 一ターンで二本分のライフを削るなど土台無理。なので、少しでもダメージを与えて次回への糧にする他ない。

「ライム、相手は光属性に変換されたままだ。闇属性のシャドーショットをランダムキャノンの銃弾にして撃つんだ」

「シャドーショットってあんまり使ったことないな。でも、了解だよ」

 ライムがキャノン砲を構えると、銃口にどす黒い銃弾が充填し始めた。自身の影を銃弾へと変換して撃ちだす闇属性の射撃技。加えて、ランダムキャノンで威力上昇を引き当てれば、弱点補正も加わってかなりの痛手を与えることができる。


 引き金を引くや、バスケットボール大のどす黒い球体が一直線に発射される。このままの軌道ならば、イナバノカミへと直撃する。

 そう期待を込めたのだが、途中で勢力を失い、あらぬ方向にひん曲がってしまった。そして、神殿の壁を爆撃したのと、戦闘の残りカウントがゼロになったのは同時だった。


 意気揚々と逃走するイナバノカミを見送り、テトは地面を拳で叩く。

「畜生、あの局面でスカを引くなんて」

「徹人君、どんまい。レイドボスを一度で倒そうなんて虫がいい話よ。むしろ、相手の手の内を大方晒させたんだからめっけもんって思わなくちゃ」

「そうよ。これで倒せなくても次で倒せばいいんでしょ」

 女性陣に慰められ、テトはゆっくりと立ち上がる。あーやんの言う通り、相手の戦法は大体分かった。反動ダメージを気にせず特攻し、お餅を使って防御する。その戦法の要となっているのはデフォルトで発動している神殿フィールド。ならば、あのスキルカードが切り札になりそうだ。


 デッキを見直していると、知らない間にカードが増えていた。多方向に矢印が広がるイラストが描かれている。その名も「拡散ワイドスプレット」だった。

「イナバノカミの戦闘参加報酬だ。色々用意してあるが、そのスキルカードは中々出ない部類。運が良かったな」

 前哨戦で猛威を振るった通り、攻撃範囲を広げることのできるカード。テトはほくそ笑むと、デッキの中のカードを更に入れ替えるのであった。

モンスター紹介

モチエモン 炎属性

アビリティ 力持ち:攻撃力が上昇する

技 はじけとぶ 身代わり防御

イナバノカミが餅を搗くことで召還される餅のモンスター。

身代わりになって攻撃を防ぐのみならず、自爆の下位互換技「はじけとぶ」を使って攻撃してくる。

はじけとぶは相手のみならず自分にもダメージが及ぶのだが、デフォルトで発動している神殿のせいでイナバノカミには危害はない。

余談だが、イナバノカミ討伐のドロップ報酬で入手することが可能。ただ、ネタキャラで能力は高くないので、実戦で使うことはまずないだろう。

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