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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
3章 白き悪魔! レイドボスを討伐せよ!
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レイドボスの洗礼! VSイナバノカミその2

 しかし、ミスターSTは落ち着き払った呈で反論する。

「バグではなく仕様だ。ここのフィールドをよく思い出してみたまえ」

 そう言われ、テトははっと気が付く。自軍に光属性のモンスターがいないために意識していなかったが、このダンジョン内では常に「神殿」のフィールド効果が発動している。


「徹人、もしかして神殿のフィールドのせいじゃない。えっと、どんな効果だったかしら」

「神殿は光属性のモンスターに対して影響がある、かなり強力なフィールドだ。なにせ、技の追加効果を無効にしてしまうからな」

 分かりやすい例が、ポイズンアタックのような攻撃と同時に毒を与える技。神殿が発揮されている間、光属性モンスターはポイズンアタックを受けたとしても、毒状態になることはない。恐ろしいことに、攻撃した後反動ダメージを受ける技を使っても、その反動ダメージまでもが無効になってしまうのだ。

 更に、イナバノカミは自然属性だが、副属性として光属性も有している。当然、このフィールドの加護を受けることできる。

 しかし、強力すぎる効果の反面、デメリットも存在する。ダッシュアタックという攻撃と同時に素早さを上げる技があるのだが、この技を使っても素早さ上昇の効果が発生しないのだ。単純に体力を減らす技しか使えなくなるため、どうしても攻撃は単調になってしまう。


 フィールドの効果で強襲爆砕の反動を打ち消し、気兼ねなく高威力で強襲する。単純だが強力なコンボ攻撃であった。

「可愛い見かけに似合わぬパワータイプってわけね」

「でも、心配ないよ。いくら殴られても、九死に一生で耐えちゃうもんね」

 苦渋の表情を作るあーやんに、ライムは気楽に口笛を吹く。だが、ミスターSTはそんな彼女を嘲笑うように、衝撃の事実を告げるのであった。

「悪いが、こいつの前では九死に一生は無効となる」

「ライムのアビリティが効かないだって。それこそチートじゃないのか」

「もしかして知らないのかね。既に配信したモンスターの中でも存在していただろう。いかなるアビリティを無効にしてしまうものが」

「アビリティを無効……」

 ミスターSTの助言を反芻していると、あるモンスターの存在に思い至った。所有するアビリティは凶悪だが、あまりにもステータスが低いために実戦ではお目にかかることがないモンスター。そいつと同一の能力を持っていたとすれば。


「まずいぞ、ライム。こいつには今までと同じ戦法が通用しない」

「それってどういうこと」

「おそらく、イナバノカミが持つアビリティは『破天荒』だ」

「破天荒って、そんなレアアビリティを持ってるのか」

 驚愕するあーやんをよそに、ライトとライムは顔を見合わせていた。

「ワイルドキャットという山猫モンスターが持っているアビリティなんだが、その効果は技を使用する際に、相手のアビリティの影響を受けなくしてしまう。つまり、やつの攻撃に対し、九死に一生は発動できないんだ」

 相手のアビリティを無効にしてしまうため、火属性の技を完全防御できる相手にも火属性で攻撃できたりする。いくらライムが何度も攻撃を耐えることができるとはいっても、アビリティの発動そのものを封じられては対処しようがない。突破口があるなら、瀕死ダメージを受けないようにするぐらいだ。


 ライムの強さの要はアビリティにあると見越し、露骨に対策用モンスターを投入してきた。ミスターSTの意図は分からないが、そう邪推したくなるぐらいのチョイスだった。

 リスクなしで高威力攻撃を放ち、防御の中心としていたアビリティを封じる。おまけに相性的に不利な自然属性。まさにライム殺しとでもいうべきモンスターだ。タイマンだったら勝てる見込みは薄い。


 しかし、今回はライムだけで戦っているのではない。傷だらけのライムを庇うように、ジオドラゴンとレディバグが進み出る。イナバノカミは嗜虐的に睨みつけると、木槌をしっかりと握りしめるのであった。



 テト達が苦戦していたのと同様に、シンたちもまた順風満帆とはいかなかった。イナバノカミのアビリティ自体は開戦から程なくして気がしていた。なにせ、朧が傷を負わされたものの、反撃の刃が発動しなかったからだ。

「相手はアビリティを無効にする。いつもと同じというわけにはいかない」

「それにけっこう攻撃も痛いし。どうする、シン」

「まずは攻撃力を削ぐ。スキルカード脱力エナベーション

 朧のアビリティとの親和性が高いため、デッキに常駐させている攻撃力減少のカード。これで与ダメージを減らそうという算段だ。


 シンが発動したカードより、どんよりとしたオーラが漂う。それはイナバノカミにとりつき、ステータスを下降しようとする。

 だが、イナバノカミの胸元が光ると同時に、暗鬱とした青紫のオーラは明朗な橙のオーラへと変化した。そして、脱力するどころか、力をみなぎらせて木槌を振り回す。

「馬鹿な。私のカードで逆に攻撃力を上げただと」

 シンにしては珍しく、身を乗り出して喚き散らす。使用したスキルカードが逆利用された。一体どんなトリックを用いたのか見当がつかなかったが、

「まるで天邪鬼パーバセネスみたい」

 というライトの一言ではたと気が付いた。


「イナバノカミには技の追加効果が通じんからな。単純な殴り合いになるのなら、スキルカードでステータス操作をしようとするのは容易に予想できる」

「そのための対抗処置として、天邪鬼パーバセネスを備えてるわけね」

 誇らしげに木槌を担ぐイナバノカミに、シンは爪を噛む。そんな彼女の脇から、キリマロが躍り出た。


「攻撃力が上がろうと、速攻で倒しちまえば問題ないぜ。グレドラン、ブレイズブレスだ」

 キリマロの号令に、グレドランは飛翔しつつ胸元を膨らませる。そして、内包した空気を火炎の息へと化し、一気に吐きつける。

 自然属性に対し炎属性は効果抜群。イナバノカミの体力ゲージは一本目が早くも尽きようとしていた。


 いくら相性がいいとはいえ、あまりにもダメージが大きすぎる。かといって、グレドランにチートが施された形跡はない。不可解に思われる一撃だが、ふと思い当たる節があった。

「もしや、グレドランは特攻モンスター」

 シンの推測に、ミスターSTは拍手を送った。

「偶然か意図的かは知らぬが、特攻モンスターの内の一体を暴くとは。その通り、グレドランもまたイナバノカミに対して特攻を持っている」

「じゃあ、いつも以上にダメージを与えられるのか。良いこと聞いたぜ」

 やはりというべきか、派生種のアークグレドランが特攻なのに、オリジナルがそうではないなんてことはあり得なかった。特攻モンスターがいるというだけでも、相手チームに対して大きなアドバンテージとなる。


だが、天敵を無視するほどイナバノカミは甘くない。助走をつけるように軽く左右に跳び跳ねると、力強く大地を蹴る。そして、グレドランへと切迫したのだ。

 退避を指示するが、それより先に木槌が振り下ろされる。相性のおかげで軽減することができたが、それでもグレドランの体力は半分を切ってしまった。


 このままでは先にこちらの体力が尽きてしまうのは明らか。どうしたものかと二人して思案していると、手持ちモンスターの頭上に柔らかな日差しが降り注いだ。振り向くと、ピクシーが片手を掲げ、そこに光を宿していた。

「ピクシーのヒーリングだよ。回復は任せて」

「でかしたぞ、愛華ちゃん」

「レイドボス戦で回復役は貴重。あなたには後方支援をお願いするけどいい」

「大丈夫だよ」

 アイからブイサインを送られ、シンとキリマロはイナバノカミと対峙する。グレドランが炎の息を放射したのを皮切りに、朧は刀身に炎を灯し、猛然と突撃していくのだった。

スキルカード紹介

神殿テンプル

光属性モンスターは技による追加効果を受けなくなる。

光属性にのみ効果がある強力なフィールド操作カード。技の追加効果が無効となるので、攻撃と同時に状態異常を起こす技が単なる通常攻撃に成り下がってしまう。反面、自分に有利な効果も打ち消されてしまうので注意。

実は、致命的なバグが潜んでいるのだが、それが判明するのはまた別のお話。

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