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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
3章 白き悪魔! レイドボスを討伐せよ!
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VSオクタイト

 テト達が最短ルートでイナバノカミへと遭遇しようとしている一方、シンたちは路頭に迷っていた。アルゴリズムを解析するなんて離れ業ができるわけもなく、しらみつぶしにダンジョンを踏破していくしかなかったからだ。

 もちろん、道中では雑魚モンスターに襲われるが、こちらもさほど苦戦することはなかった。ライム同様、朧も複数属性の攻撃技を扱うことができる。なので、バトルはほぼ彼女だけで片付いていたのだ。

「なんか悪いな。お前だけにバトルを任せちゃって」

「構わない。このくらいの敵、私の相手じゃない」

「そういうこった。あんたらは大船に乗ったつもりでいなよ」

 朧は目配せをするが、アイとキリマロは互いに顔を見合わせて苦笑するのだった。


 雑魚はどうにかなっても、ダンジョンはそうはいかない。青鉢巻の個体はやたら元気らしく、あちこちせわしなく移動を続けていく。闇雲に歩き回っていては、逆に離される始末だ。

「くっそ、あのウサギちょこまか動き回りやがって」

 朧は苛立ちをぶつけるように壁を叩く。一行の間には疲労の色が広がっている。いくら雑魚をほぼ一撃で葬れるとはいえ、絶え間なく争っていてはそのうち力尽きるのは自明だ。ただ、打開策が思い浮かばないのも事実。途方に暮れていると、キリマロがふとこんな提案をした。

「そうだ。いっそのこと待ち伏せしたらどうだ。ラ〇コウ捕まえた時もそれでうまくいったことあったし」

「ポケモンじゃあるまいし、それでうまくいくかな」

 アイは首をかしげたが、案外うまい作戦かもしれなかった。レイドボスの逃走アルゴリズムは少なからず先人の知恵の影響を受けている。試しに近隣のエリアを往復していると、少しずつではあるが目標が近づいてきたのだ。


 そして、小部屋を挟む一本道に差し掛かった時、ボスとの対面が確定的になった。なにせ、ボスはこちらへと直進してきており、このままこちらも直進すれば確実に小部屋で鉢合わせするのだ。ようやく本番に臨むことができる。速足で通路を駆け抜けようとしたところ、突如割り込んでくる影があった。


 そいつは吸盤で壁に貼りついていたのだが、シンたちを目撃するや滑空してきた。全身が青いタコというだけでも珍しいのだが、触手と触手の間には皮膜がついているようだ。足を叩きつけて上昇し、皮膜を広げてUFOのように漂っている。誰も正体を把握できていない未知のモンスターだった。

「ボスの発見おめでとう。だが、その前に中ボスと戦ってもらおう。その名はオクタイトだ」

 オクタイトは気色悪く触手をうごめかして威嚇する。生理的嫌悪感も去ることながら、シンはネーミングセンスにゲンナリしていた。

「海の生き物の蛸でオクトパス。正月の遊びの凧でカイト。合体させてオクタイト。実に安易なネーミングね」

「へえ、オクタイトってそんな意味があったんだ」

 小学生から感心されたものの、中学生から罵倒されたショックの方が大きい田島悟であった。


 ともあれ、こいつを排除しないことにはイナバノカミと対面すらできない。しかし、連戦により朧の体力は半分以下。中ボスクラスとタイマンするには心もとない。

 だが、そんな彼女の傍に、小型の妖精と大型の二足歩行龍が肩を並べる。いわずもがな、アイとキリマロの手持ちだった。

「中ボス戦だったら参戦しても問題ないよな」

「構わない。ただ、そいつはグレドランか」

「そうだ。どのモンスターを連れて行こうか迷ったけど、アークグレドランが特攻持ちならもしかしてと思ってな」

 アニメ版において、アークグレドランはグレドランが闇堕ちした姿とされている。その経緯からすると、グレドランもイナバノカミに対して特攻を持っていてもおかしくはない。真っ赤に燃える鱗を輝かせ、二対の巨大な翼を広げて咆哮している。


 バトルに参加する面子が揃ったところで、さっそく戦闘が開始される。先手をとったのは朧だった。

「タコがモチーフなら明らかに水属性。朧、三の太刀鳴神」

「御意」

 シンからの命令を受け、朧は愛刀に帯電させる。稲妻を纏った太刀を掲げ、飛び上がりざま振り下ろす。

 しかし、オクタイトはふわりと浮上するや、難なく一撃を回避してしまう。それどころか口から水鉄砲を吐き出して反撃する。朧はかろうじて屈伸して頭上を通過させた。

 空を漂う相手に対し、ピクシーとグレドランはそれぞれライトニングとブレイズブレスで狙撃しようとする。だが、オクタイトは遊泳しつつひらりと躱してしまう。それどころか、水鉄砲で狙い撃ちされる始末だ。特に、グレドランは相性関係で大ダメージを受ける。イナバノカミを意識しすぎて足元を掬われてしまっていた。


「あのタコ、なかなかすばしっこいわね」

「オクタイトはかなり素早さが高いモンスターだからな。加えてアビリティ高速浮遊により、風属性以外の技は命中率が下がるぞ」

「弱点を突こうとしても攻撃が当たらなければ意味がない。メインが水として副が風だろうから厄介ね」

 シンの推測は正しく、オクタイトは水属性で副属性風を持つ。弱点を攻めるなら、雷がベストだが、アビリティのせいで命中率が減少してしまっている。手堅くいくのなら風属性だが、そちらは通常威力しか発揮しない。


「あんな軟弱そうな相手だったら堅実に攻めても十分やり合える。四の太刀疾風」

 朧は素早く剣を振るい、つむじ風を発生させる。その風に煽られ、オクタイトは宙でふらつく。すかさず一気に相手を呑み込み、初めてのダメージを発生させた。

 安堵するものの、減らせたダメージ量はごくわずか。中ボスらしくそこそこ体力があり、弱点でもないとまともに傷を負わせられないようだ。


 それどころか、攻撃された腹いせとばかりに、オクタイトは朧へと墨を吹き付けてくる。ダメージはごくわずかだが、顔面を黒塗りされ、拭うのに躍起になっている。

「墨汁噴射。威力は大したことないけど相手の命中率を下げる。どうやら、とことん回避率を上げ、チマチマと攻めていく戦術ね」

 相手の目論見は分かったが、ボスの討伐スピードを競う上ではうざい戦法だった。朧が視力を回復するには時間がかかる。口惜しいが、しばらく戦線離脱するしかないのか。


 シンがほぞをかんでいると、朧のもとにそっとピクシーが降り立った。

「怪我してるの? 大丈夫」

「どうってこと……あるな。くっそ、あたいの顔に墨を塗るなんて、あのタコ許しちゃおけねえ」

「待ってて、今治療するから。ピクシー、ヒーリング」

 ピクシーの両手に灯が点り、朧の全身を照らしていく。その光を浴びることで、三割にまで減らされた朧の体力は一気に八割近くまで回復した。

「ピクシーは回復技が使える。これはありがたい」

「おまけにアビリティで回復量が増えてるもんね。後はこれも使ったげる。スキルカード爽快リフレッシュ

 アイが使用したスキルカードにより、朧の顔にかかった墨が瞬く間に消滅していった。目をぱちくりさせた朧は、素振りをして勘を取り戻す。感嘆しているシンに対し、アイは胸を張る。

「状態異常を回復させるスキルカード。どう、すごいでしょ」

「でかしたわ。これであのタコに仕返しできる」

 シンはアイの頭を撫でると、改めてオクタイトと対峙する。あの墨は命中率を下げる「盲目」の状態異常を誘発させる。なので、爽快のカードで回復できたというわけである。


 ダンジョン攻略において重要なのは回復手段の確保だ。使い切りとなってしまうスキルカードに頼るわけにはいかず、ドロップアイテムも限りがある。なので、回復技を覚えるモンスターは貴重だった。また、アイはピクシーの回復能力を活かすため、手持ちのスキルカードを治療系に集中させている。回復役ヒーラー特化の彼女をチームに入れることができたという点で、シンにとってはかなりのアドバンテージであった。


 相手の攻撃力が低いこともあり、防御面の心配はなくなった。だが、驚異的な回避性能は未だ攻略できていない。どうしたものかと思案していたところ、今度はキリマロが並び立った。

「正直、あのタコ相手じゃ俺のグレドランは役に立たない。でも、チームのお荷物になるのだけはご免だぜ。大ボスのためのとっておきにしておこうかと思ったけど、おあつらえ向きに使うのにいいタイミングが訪れたみたいだしな」

 そう言って、キリマロは一枚のスキルカードを取り出す。豪奢な絵柄からかなりのレアカードであることが分かる。それを惜しげもなく掲げ、キリマロは高々と叫ぶ。

「スキルカード恐慌クライシス発動」

 通常であればまばゆい光が放たれるのだが、放射されたのは禍々しい闇のオーラ。それは骸骨を象り、オクタイトへと襲来する。


 いくら回避率が高いとはいえ、スキルカードの効果までは回避できない。髑髏に呑み込まれるや、オクタイトは全身硬直して、そのまま墜落してしまう。

 地に伏したまま痙攣し、俎上の鯛ならぬ俎上の蛸に成り果てている。キリマロは鼻を鳴らし、その様子を得意げに見つめていた。

「このカードを手に入れるの苦労したんだぜ。相手の回避を封じ、なおかつ防御力を大幅に下げる。今ならやりたい放題ってわけだ」

 この世のものならざる魔神を召還し、相手を恐怖で怯ませる。キリマロが最近手に入れた激レアスキルカードであった。


「あなたがこんなカードを持っていたなんて意外だった。でも、このチャンスはありがたく利用させてもらう。スキルカード剣舞ブレイドダンス。そして、三の太刀鳴神」

「御意」

 剣を使う技の威力を上げるスキルカードにより、朧の刀身は一層の輝きを放つ。その輝きは纏った稲妻により更に助長される。未だ恐怖で全身麻酔状態のオクタイトは、その剣を躱す余地はない。


 朧の渾身の一刀両断がもろに入り、オクタイトのHPが面白いように減少する。やがてゲージは底を尽き、オクタイトは魔法陣へと還元されていった。

 試合終了のゴングとともに、朧は剣を支えにして息をつく。さすがの彼女でも手を焼く相手であった。中ボスでこのレベルとなると、本命は相当な実力の持ち主だ。奥の広間へと視線を送るシンの横に、アイとキリマロが並び立つ。

「正直あなたたちがいなかったら危なかった。この先に待ち受けるイナバノカミは更なる強敵だと思う。今度も力を借りるけどいい?」

「そんなの聞かれるまでもない。次こそ俺のグレドランの力を見せてやる」

「私だって負けないもんね」

 闘志を顕わにした三人は、勇んで広間へと進撃していくのだった。

モンスター紹介

オクタイト 水属性

副属性風

アビリティ 高速浮遊:風属性以外の技の命中率が下がる

技 水鉄砲 墨汁噴射

海洋生物の蛸と正月の遊びの凧を組み合わせた正月イベントの中ボス。

元々素早さが高いうえ、アビリティにより風属性以外の技の命中率を下げる。

属性相性からして雷属性の技でイチコロだが、命中が下げられてしまっているのが難点。堅実に風属性で攻めるべきか、プレイヤーの力量が求められる。

中ボス戦ではスキルカードを使ってこないものの、この厄介なアビリティをどう攻略するかがカギとなる。

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