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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
3章 白き悪魔! レイドボスを討伐せよ!
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門松さん

 神殿の内部ということもあり、辺り一面に黄金のタイルが敷き詰められ、等間隔で灯るランタンが光源となっていた。地図からおおまかに内部構造は把握していたが、複雑な迷路となっており、適当に歩いてはすぐに行き止まりになってしまう。

 単純に一定の目的地までたどり着くだけでも骨が折れそうだ。だが、ここはRPGのダンジョン。道中に一切障害物がないということはありえない。


 その代表格が、定期的にエンカウントする雑魚モンスター。ボスが自然属性のためか、人食い植物型のデスプラントや、巨大カマキリのディアマンテなど同じく自然のモンスターが多く出現する。それだけに飽き足らず、水属性やら土属性やらと、その他の属性のモンスターも混じっている。相手が自然だからと安易に火属性を使おうものなら逆襲されていたところだ。

 ただ、雑魚モンスターの処理は主にライムだけで片付いていた。攻撃属性を自在に変更できるうえ、敵の耐久力もそこまで高くないのでほぼ一撃で勝負がつくのだ。


 今もまた、天井より滑空してきたコウモリモンスターババットをサンダーボールで迎撃したところだ。テトが汗を拭っていると、あーやんが肩に手を置く。

「すまないね、バトルを君たちに任せっきりにしちゃって」

「いいや、大丈夫さ」

「こんなのどうってことないよ。一気にあのウサギちゃんのところまで行こう」

「そうね。シンも順調に進んでいるみたいだし」

 地図上にはターゲットとなるイナバノカミの現在地の他、敵チームの位置までリアルタイムに反映されている。シンたちもあちこち迷いながら、着実にターゲットとの距離を詰めているようだ。


 相手が一点に留まっているのならまだしも、テト達の動きに合わせてダンジョン内を巧みに移動している。闇雲に歩き続けていては、永遠にダンジョンをさまようことになりそうだ。

「もう、ちょこまかとうざったいな」

「綾瀬さん。どうにかイナバノカミの位置を特定する方法はありませんか」

「そうね。ターゲットの動きには一定のアルゴリズムがあるはず。しばらく泳がせておいて、そいつを見破れば最短距離が割り出せるわ」

 その言葉を信じ、テト達はあえて適当にダンジョン内を歩き回ることにする。あーやんはイナバノカミの移動パターン解析に集中しているため、バトルはテトとライトで引き受けることとなる。


 パターンが判明するまでは雑魚と戦い続けなければならないため、当然ダメージは蓄積されていく。道中のバトルでスキルカードを使用すると、ボスとエンカウントするまで再使用できなくなるので、無闇に「回復ヒーリング」を使うことができない。ドロップアイテムのポーションでどうにか凌いでいるものの、ボスとの戦いを考慮するといまいち心もとない。


 戦闘を終えて一息ついていると、

「分かったわ」

 あーやんがひときわ大きく声を張り上げた。

「イナバノカミの移動ルートを分析したところ、アトランダムに移動しているように思わせて、実は一定のパターンがあることが分かったの。で、そいつを基に辿りつくまでの最短ルートを割り出したのがこれ」

 そう言って地図の中心をクリックすると、通路に赤い線が記されている。てんで見当はずれの方向に彷徨っているように思えるが、最終的には南東に位置する小部屋に到着することとなる。

「私の計算が正しければ、この小部屋でボスと遭遇できるはず」

「ありがとう、綾瀬さん。よし、このルートを試してみよう」

 テトが音頭をとり、一同は提示された道筋通りに神殿内を進んでいくことにした。


 一見、遠回りのように思えるルートだが、進んでいく内にイナバノカミとの距離が詰まっているというのが実感できるようになった。とはいえ、ライムやジオのHPを考えると無用なバトルはできるだけ避けたい。

 もうすぐ小部屋までたどり着く。そのタイミングでイナバノカミの動きに異変が生じた。当初予想されたよりも速いペースで問題の小部屋まで達すると、そこで停止してしまったのだ。テト達が接近しているにも関わらず、動く素振りを見せない。

「さっきからイナバノカミが動かないのだが大丈夫かな」

「ウサギちゃんはお昼寝してるんじゃない」

「ウサギと亀の童話じゃないんだし、そんな悠長なことをしているかしら」

 色々と推測しているうちに、例の小部屋へと続く直前のフロアに出た。相変わらずイナバノカミは留まったままで、このままなら確実にエンカウントできる。


 しかし、そこで予期せぬ障壁とぶち当たることとなった。小部屋の入り口を二体のモンスターが塞いでいるのである。

 斜めにそぎ落とされた竹が三本。土台を松の木が覆い、下部にはしめ縄が巻き付けられている。日本人であればその正体がすぐに分かるだろうが、同時に違和感を覚えることとなる。なにせ、神殿の中で鎮座しているにはあまりにも不釣り合いな代物だからだ。

 テト達の行く手を塞いでいたのは二体の門松であった。


 しかも、ただの門松ではなく、竹を揺らしたり、飛び跳ねたりして明らかに生きている。動く門松というだけでもそこそこ恐怖心を喚起される。

「テト、あれって門松だよね」

「ああ、正真正銘の門松だ。だが、どうしてこんなところにいるんだ」

「ボスの目の前で現れたから、中ボスじゃないかしら」

 ライトの推測が一番妥当だろう。それを裏付けるようにミスターSTから連絡が入る。

「驚いたかね。このエリアの中ボスの一体、門松モンスターのカドマツンだ。二体とも倒さないと先には進めんぞ」

 正月イベントだからといって門松をモンスターにするなど、開発陣はよほど煮詰まっていたに違いない。呆れかえるテトたちをよそに、カドマツンたちは優雅に竹を揺らしていた。


「まったく、赤松不二夫の漫画に出てくる六つ子みたいな名前しやがって」

「綾瀬さん、それは関係ないと思いますよ」

「テト、あいつら倒して捕まえよう。そして家宝にすっぺー」

「捕まえてもいいけど家宝にはしたくないな」

 そもそも育てるつもりもない。未育成のドロップモンスターたちの一派に加わるのがオチである。


 中ボス級の相手が二体となると、戦力を温存していては痛手を受けるかもしれない。せっかく三人同時にバトルできるので、ライム、ジオドラゴン、レディバグのフルメンバーで挑むことにした。

 バトル開始とともに先陣を切ったのはライムである。相手は明らかに自然属性なので、ヒートショットで先制攻撃をかける。

 軽快に飛び跳ねていたわりに、そこまで俊敏な相手ではないようだ。ただ、呆気なく砲撃は命中するも、体力ゲージは七割五分を残していた。どうやら耐久寄りのステータスらしい。


 被弾したカドマツンは怒りで松の木を震わせる。「バンブーラッシュ」という技名表示とともに大ジャンプし、勢いよく大地を踏み鳴らす。すると、ライムたちの足もとに無数の竹槍が出現した。串刺しにしようとアトランダムに、何発も突き出してくる。ライムはどうにか回避できているものの、ジオドラゴンとレディバグは刺突されてしまい、それぞれ体力ゲージが減らされる。

「いきなり自然属性の全体攻撃なんて容赦ないわね」

「日花里、この後のボス戦で使用したスキルカードは復活する。だから、ここはカードを温存する必要はない」

 万が一に備え、道中の雑魚戦は極力スキルカードを使ってこなかった。消費したとすれば、やむを得ず使用した「回復ヒーリング」ぐらいだ。幸い、エンハンス系統のカードは揃っているので、できる限り体力を温存するためにも短期決戦を狙うのが定石。


 全体攻撃されたお返しとばかりに、ライトは「逆鱗インペリアルラッシュ」を発動。そして、初っ端からガイアブラスターで一網打尽にしようとする。集約されたエネルギーが破壊光線と化し、カドマツンたちを呑み込んでいく。

 だが、光線が到達する直前、カドマツン達の目の前に長方形の光の塊が出現した。それは発動が確定したスキルカードと酷似していた。光源はカドマツン全体を覆う壁となり、ガイアブラスターを弾き飛ばした。


 何をされたのか把握できずにいるテトたちだったが、いち早くあーやんが感づいた。

「どういうこと。あの効果はスキルカード無効インバリットそっくりじゃない」

 彼女も所持しており、バトルでは愛用しているスキルカード。あらゆる攻撃技を無効にしてしまう最強の防御効果を持つ。カドマツンが使用したのは紛れもなくそれであった。

「ボスイベントはこれが厄介なんだよな。ボスは単純に攻撃してくるだけじゃなくて、独自に数種類のスキルカードを使ってくることがあるんだ」

「テト君の言う通りだ。カドマツンは無効のスキルカードを所持しており、一度だけ攻撃を完全防御できるぞ」

 レイドボスイベントを高難易度に足らしめている要因として、ボスが使うスキルカードが挙げられる。高い攻撃力で殴って来るうえに、スキルカードで妨害を働くのだ。それを考慮に入れて対策を立てないと突破するのは難しい。


 幸い、相手の切り札と思われるスキルカードは消費された。隠し玉を出される前に一気に叩くべきだが、先に「バンブーラッシュ」での反撃が迫る。

 回避が間に合わず、チーム全体の体力が減少させられる。気を良くしたのか、二体目のカドマツンが連続してバンブーラッシュを発動しようとする。

 だが、先んじてレディバグが矢面に立った。両手を広げる所作からして、ライムたちを守ろうという魂胆だ。そこまでタフではない彼女に壁役タンクが務まるのか若干不安視された。

 とはいえ、そんな心配をする必要はなかった。レディバグがウィンクを施すと、カドマツンは全身を震わせ、そのまま怯んでしまった。当然、技の発動はキャンセルされる。

 どんなマジックを使ったか訝しんだが、すぐにあーやんが用いた手法に思い至った。レディバグのアビリティ「フェロモン」。五十パーセントの確率で相手の攻撃を失敗させる、強力な防御性能だ。


「うちらのチームは全体的に防御力が弱めだけど、こんな防御の仕方があるってわけ。ほんじゃ、ついでにもっと黙らせちゃおっかな。スキルカード魅了チャーム発動」

 あーやんが使用したカードから特大のハートが放たれる。それはフェロモンでメロメロになっているカドマツンに命中した。

 すると、急に気恥ずかしそうに別固体のカドマツンの陰に隠れてしまった。可愛らしい仕草ではあるが、所詮は門松なので全然可愛くない。

「魅了は三ターンの間相手を誘惑し、五十パーセントの確率で技を失敗させるカード」

「レディバグと魅了って、相手にまともに攻撃させない鬼畜コンボじゃないですか」

 レディバグ自身も相手の攻撃を阻害させるので、相手は最終的に二十五パーセントの確率でしか攻撃できなくなる。魅了されたカドマツンは機能停止したも同然だった。


 そうなると、テト達が狙うべき相手は自ずと絞られる。

「さあ、みんな。恋にうつつを抜かしているカドマツンは放置して、あっちのカドマツンを一気に叩くわよ」

 あーやんの指揮に合わせ、ライムとジオドラゴンが躍り出る。テトはスキルカード強化エンハンスにより攻撃力を上昇させ、ヒートショットで爆撃。燃え盛る炎で慌てふためいているところにジオドラゴンが突貫した。連携により、カドマツンの体力は一割を切る。フィニッシュとばかりにライムがヒートショットを撃ちこみ、一体目の撃破に成功した。


 敵はもう一体残っているが、そいつはお話にならない状態だった。レディバグにうつつを抜かしており、全く攻撃してくる様子がない。逆に倒すのが可愛そうになるぐらいだった。

 だが、先に進むためには心を鬼にせねばなるまい。せめてもの手向けということで、ライムたち三体が同時に攻撃を仕掛けて沈めてやった。


 戦闘が終わるや、モンスターのドロップに成功したようで、三人の手持ちにカドマツンが追加される。

「魅了されてたせいもあるけど、こいつなかなか可愛いわね。本当に家宝にしようかしら」

「門松なら正月に家に飾るやつだけで十分よ」

 冗談をいうあーやんをたしなめるライト。そんな両者を微笑みながら見守ったところで、テトは小部屋へと続く入り口に向き直った。地図からすると未だにイナバノカミは移動していない。このまま突入すれば確実にご対面となる。「よし、行こう」と号令をかけ、一同は最初の戦いに臨むのであった。

モンスター紹介

カドマツン 自然属性

アビリティ 新年の加護:防御力が上昇する

技 バンブーラッシュ

門松そのままのビジュアルというある意味衝撃的なモンスター。新イベントの中ボスとして登場する。

高い防御力に加え、中ボス戦ではスキルカード「無効インバリット」により攻撃を無効化させる。更に、バンブーラッシュで全体攻撃を仕掛けてくる難敵。

どうでもいいが、赤松不二夫の漫画に出てくる六つ子とは何ら関係はない。

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