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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
3章 白き悪魔! レイドボスを討伐せよ!
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新イベントとチーム分け

 満身創痍ではあるが、初めての同時バトルを制したライトたち。お互いに健闘を讃えあう。そう思われたのだが、シンは鼻をこするとつっけんどんな態度をとった。

「どう、これが朧の実力よ。恐れ入ったかしら」

「まったく、鼻持ちならないわね。大体、私のジオのおかげでキングを倒せたんでしょうが。ガイアブラスターを撃ってなかったら、あっという間にお陀仏だったわよ」

「でも、その後袋叩きにされたのはどこのどいつだっけ」

「この~、むかつくわね」

 剣呑な雰囲気に、口出しすることすら躊躇われる。イベントの本番が始まってもいないのに、先行き不安になる徹人だった。


「ねえねえ、テト。次は私たちでバトルしようよ」

「そうだ。あの二人がタッグを組んだということは、必然的に俺と徹人がペアってことになるぞ」

 ライムとキリマロが意気込んでいるが、ミスターSTはゆっくりと首を振った。

「気合十分なのはいいが、残念だがテストマッチはこれで終了だ。前座に時間を使うよりも、本題の新規イベントを始めた方が有意義だろう」

「え~、私も双子ちゃんと戦いたかったな」

「機会があったら個人的にバトルしてやろう。それに、これからやるイベントは複数体バトルがメインになるから楽しみにしているといい」

 諭されると、ライムはしぶしぶとテトの傍に寄り添った。


「で、いい加減新イベントとやらを説明してくれてもいいんじゃない」

 あーやんが焦れたように足を遊ばせていると、ミスターSTは指を鳴らしてモニターを出現させた。

「それでは、今回の新イベントについて説明しよう。これから行うのはレイドボスイベントだ」

「なーんだ、いつもと変わりないじゃん」

 キリマロがつまらなそうに頭の後ろに手を組んだのも無理はない。レイドボスイベント自体はこれまでも開催されていたからだ。


「レイドボスってあれだよね。HPがとても高い敵をみんなで協力して倒すやつ」

「その通りだ、アイ君。レイドボスで出現する敵は一回のバトルでは倒しきれないほど体力が高い。また、バトルにはターン制限が設けられており、一定ターン経過するとボスは逃げ出してしまう。もちろん、チームが戦闘不能になってもゲームオーバーだ。

 倒しきれなくとも、与えたダメージは回復しない。何度も繰り返し挑んでいき、最終的にボスの体力を削りきればクリアだ」

「そんで、他のプレイヤーに討伐を依頼してもいいのよね」

「ああ。これまでは一度にボスと戦うことのできるプレイヤーは一人だけであった。だが、複数体同時バトルを導入することで、一回のバトルで最大四人まで同時にバトルすることが可能になったのだ」

 つまり、ボスに対して、四人で一体ずつモンスターを出して総攻撃できるというわけだ。ここまでの説明で、なんとなく新イベントの概要が予想できた。


 それを裏付けるように、ミスターSTから新イベントの核心が語られる。

「これから行う新イベントは、複数体同時バトルを導入した初めてのレイドボスイベントとなる。君たちはチームを組み、こちらが用意したボスモンスターを討伐してもらいたい」

「要するに団体戦ってわけね。でも、こちらは六人もいる。全員で一体のモンスターを叩きのめせっていうのかしら」

 シンの指摘は尤もだった。一度にバトル出来るのは四人まで。六人全員で討伐しようとしても、必ず余剰が出てしまう。そうでないとしても、六人がかりはあまりにもオーバースペックのような気がしてならない。


「別に六人がかりでも問題ないと思うな。日曜の朝にやってる、赤とか青とかいっぱいいるヒーローも似たようなことしてるよ」

「ライム、それは関係ないから」

「とにかく、六人全員で戦うのは窮屈だろう。そこで、三人ずつに分かれてのチーム戦にしようと思う」

 提示された案に、メンバーの半数が激しく反応する。その面子はタッグバトルに立候補した者たちというのは言うまでもない。同時に、テトはひしひしと身の危険を感じるのだった。


 ミスターSTが手を叩くと、テト達の集団の中心に神社のおみくじに使われる箱が出現する。興味深そうにライムと朧が指で突っつくが、変哲のないただの木箱のようだ。

「その箱の中には赤い棒と青い棒がそれぞれ三つずつ入っている。同じ色の棒を引いた者同士がチームを組むのだ」

「誰とチームを組むかは運しだい。臨むところ」

 シンはライトに一瞥を送ると、これ見よがしに口角を上げる。対し、ライトは「ふん」とそっぽを向くのであった。


 さっそくチーム分けということで、最初に名乗りを上げたのはライムだった。と、いうより、「えっと、このまま振ればいいのかな」と、勝手に木箱を傾けてしまったのだ。

 カラコロという小気味よい音とともに、先端が塗られた割りばし程の棒が排出される。その色は赤だった。

「僕たちは赤チームみたいだな」

「え~、青の方がよかったな」

 水属性だから青が好きなのだろうか。そんな邪推するものの、血眼で木箱を凝視する二人に直面し、すぐに頭の中が真っ白になるのであった。


 気を逸らすように、テトは妹に話題を振る。

「愛華。次はお前が引いてみないか」

「うん、そうしてみる。えっと、こうやって振ればいいんだよね」

 ライムの真似をして、アイも木箱を数回振る。そして出現したのは青の棒。

「え~、おにぃとは別のチームか」

「残念だったね、愛華ちゃん。よっしゃ、じゃあ次は俺が引くぜ」

 意気込んでおみくじを引くものの、結果は青。キリマロもテトとは別のチームとなった。


「空気を読むとしたら、次は私の番ってことになるのかしら」

 あーやんは肩をすくめると、片手でゆっくりと木箱を振る。少し時間がかかったが、出てきたのは赤色の棒だった。

「お、私は徹人君と同じチームだ。なんか悪いわね」

「気にすることはないわ、綾瀬姉さん。実力で赤を引けばいいことですもの」

「どうかしら。ここはあえてあなたに選択権を譲ってあげる」

「随分余裕じゃない」

「残り物には福がある。そういうことだろ、シン」

「ううむ、そんな戦法を使うとは、侮りがたし」

 手中で踊らされている気がしないでもないが、譲られたのなら遠慮なく権利を行使する。ライトは深呼吸して、しっかりと木箱を握りしめた。


 細工が施されていなければ、箱の中に残されているのは赤と青の棒が一本ずつ。つまり、テトと一緒のチームになれるかどうかは半々の確率というわけだ。残り少ないのか、箱の中で棒は見当違いの場所に当たってばかりで、いくら振ってもなかなか排出されない。焦らされているような気分になり、ライトは躍起になって激しく木箱を揺らす。

 そして、ようやく運命の棒が姿を現した。その途端、ライトは表情を綻ばせ、これ見よがしに入手したくじを掲げた。

 その先端は赤く染まっていたのだ。


 当然、残されたくじの色は青。自動的にチームの組み合わせが決定する。

「テト、ライト、あーやんの赤チーム。シン、アイ、キリマロの青チーム。くじ引きで決まったのだから不服は認めんが、これでいいか」

「不服は大ありだけどな。でも、くじ引きなら仕方ない。そうでしょ、シン」

「ええ、そうね」

 落胆するどころか、シンは強気に腕を組む。そして、まっすぐにライムを指差した。

「テトとタッグを組むのは、あくまで手の内を探るため。私の目標はライムを倒すこと。それなら、相手チームとなったのはむしろ好都合」

「そういうこった。ライム、どちらが先にボスを倒すか勝負だ」

「望むところよ、そぼろちゃん」

「なんか振り回されている気がするが、勝負を挑まれたなら受けて立つしかないな。よし、このイベントで決着をつけてやる」

「私も同感よ。どちらが強いかはっきりさせようじゃない」

 勝ち誇るようにテトの腕をとり、ライトはシンへと火花を飛ばす。口では虚勢を張ってはいるが、シンは密かに拳を震わせていた。


「チームが決まったところで、今回のイベントで君たちに討伐してもらうモンスターを紹介しよう。それはこいつだ」

 ミスターSTの目前に二つの魔法陣が展開する。綺羅星の二重奏を召還した時よりもひときわ規模が大きい。モンスターが出現するだけなのに、ただならぬ圧迫感がある。テト達がたじろぐ中、ゆっくりとボスモンスターたちが姿を現した。


 その全容が明らかになった時、第一声を発したのはアイだった。

「かわいい」

 ボスに対してかける言葉としては不自然極まりないだろう。だが、そう称されても仕方がない相手であった。あーやんはともかく、シンやライトまでもが見惚れている。

スキルカード紹介

拡散ワイドスプレット

複数体同時バトルでのみ使用できる。発動した技の効果範囲を敵全体に広げる。

仕様変更された技もあるが、基本的に相手単体にしか効果をかけることができない。それが相手全体に攻撃できるようになるので、奇襲効果は抜群である。

実はスキルカードの効果までも拡散できるので、組み合わせ次第では下手な攻撃よりも非常に強力な一撃をお見舞いすることができる。

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