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オンラインゲームがバグったら彼女ができました  作者: 橋比呂コー
3章 綺羅星の二重奏(デュオ)! 陰謀渦巻く新イベント!!
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タッグバトル! VS綺羅星の二重奏その1

 一手目でいきなり決着がついた。見事なまでに二人のみが勝ち上がり、ミスターSTへの挑戦権を獲得する。しかし、当確した二人は納得がいっていないのか浮かない顔をしていた。なにせ、組み合わせが判明した途端、彼女らは揃って、

「どうしてこうなった」

 と、驚嘆したのだった。


 なぜなら、勝ち残ったのはライトとシンなのである。


「ねえ、テト。どうしてグーなんか出したのよ」

 不参加となったライムは不満を顕わにして詰め寄る。弁明するなら、「ライトがパーを出したのが悪い」と言う他ない。だが、グー、チョキ、パーのどれでも好きな手が出せる条件下、相手がどれを出そうと文句を言う筋合いはない。

 とはいえ、あの二人がタッグを組むなど、テトとしても予想外だった。接点があるとすれば、地区大会準決勝で戦ったぐらい。混ぜたらどうなるかは完全に未知数である。


「仕方ない。テトとタッグを組むのはイベント本番までお預けにしておく。ライトだっけ。足を引っ張ったら承知しない」

「言ってくれるじゃない。あなたこそ、出しゃばって足元掬われないでよね」

 少なくとも、良好な関係ではなさそうだ。まともに戦えるのか不安視される中、ミスターSTはすまし顔でバトルフィールドに登壇する。

「では、デモンストレーションを始めよう。君たちが使うのはおじさ……ジオドラゴンと、朧でいいか」

 朧が露骨にまなじりを下げているのは、双璧を為しているのがおっさんだからだろう。ライムや朧に倣い、ジオドラゴンはおっさん形態で参加するようだ。

 反論がないということで、ミスターSTは右手を広げた。その動作に合わせ、彼の足もとに魔法陣が展開する。しかも、一つではなく二つだ。一度に二体のモンスターを召還するなど、これまでのファイモンだったらありえない光景だった。


 魔法陣より顕現したのは質素な布の服を纏った男女の戦士型モンスターだった。古代のギリシア神話に登場する戦士を彷彿とさせる。両者とも似たような顔立ちではあるが、男は筋肉を剥き出しにし、女は非常に華奢な体型をしていた。

 ミスターSTが繰り出したモンスターに一同は呆然としていた。その反応は尤もなことで、誰もこの二体のモンスターの正体を知らないのだ。かつて彼と戦ったことのあるテトはすぐさま察した。こいつらは配信される前の未知のモンスターであると。


「あたいでさえ知らないやつを出してくるなんて、いい度胸じゃない」

「だが、相手がどんな輩だろうと、我が力の前に土へと還るのみ」

 朧が啖呵を切るのに合わせ、ジオも威圧をかける。そんな二体に屈せず、ミスターSTは大手を広げた。

「諸君らがご察しの通り、このモンスターたちは年明けのイベントに合わせてガチャに追加される予定の新キャラだ。その名もジェミニキングとジェミニクイーン。通称、綺羅星の二重奏デュオだ」

 紹介を受け、綺羅星の二重奏ことジェミニキングとクイーンは雄々しくポーズをとる。対して、ライトたちはドン引きしていた。圧倒されたのではなく、痛々しい二つ名のせいだというのは言うまでもない。


「ジェミニってことは、十二星座のふたご座がモチーフかしら」

「ふたご座って私の誕生月じゃん」

「へえ、愛華ちゃんはふたご座なんだ」

「うん。五月二十九日生まれ」

「そんで、テトは山の日に産まれたんだよね」

「ライム、どうして僕の誕生日を知ってるんだ」

 思いがけず徹人がしし座であることが暴露されたが、気を取り直してミスターSTは誇らしげに宣伝する。

「さすがに綾瀬は元ネタが分かったようだな。綺羅星の二重奏は黄道十二星座のふたご座をモチーフとしている。タッグバトルにはピッタリだろう」

「モチーフはピッタリだけど、二つ名はないわよね」

 ライムの冷ややかな意見は参加者全員の総意であった。


 ミスターSTは咳払いすると、解説を続ける。

「未登場のモンスターゆえに、能力を知らないまま戦うのは不公平だろう。先にこのモンスターたちのアビリティを紹介しておこう。まずはジェミニキング」

 掛け声に合わせ、男性戦士が一歩進み出て、力こぶを隆起させる。

「こいつは光属性の戦士モンスター。アビリティは双星の覇気。チームにジェミニクイーンがいる時に攻撃力を上げる効果を持つ。そして、ジェミニクイーン」

 女性戦士が男性と肩を並べ、艶めかしく腰をくねらせる。

「彼女もまた光属性の戦士モンスター。アビリティの双星の鉄壁はジェミニキングがいる時に防御力を上げる」

「キングとクイーンが揃っているってことで、両モンスターは能力が上がっているわけね」

 シンは顎に手を当てて考え込んでいる。さっそく作戦を組み立てているのだろうか。


 属性が被っているとはいえ、攻撃役と後方支援役がはっきりしたバランスの取れた相手だ。対して、即席で組まれたペアでどれだけ立ち向かえるか。両者とも、ウイルスの影響で軒並みならない能力を持っているというのが肝だろう。

「ご託はこれくらいでいいだろう。さっそくバトルを開始しよう」

 宣告に合わせ、四体のモンスターは一斉に戦闘態勢に入る。そして、試合開始のゴングとともに、朧が一直線に躍り出た。

「相手が光属性なら朧の独壇場。一気に決めさせてもらう。朧、真の太刀大蛇おろち

「御意」

 朧が剣を掲げるや、禍々しいオーラが迸る。それは刀身に絡みつく大蛇を象っていた。


 朧の属性は闇。彼女本来の属性の攻撃技であるためか、「一の太刀」などと比べると切迫感が桁違いだ。加えて、光属性相手には威力が上がるので、この技で短期決戦を狙うつもりらしい。

 しかし、易々と企みを看過するほど、ミスターSTは甘くない。ジェミニクイーンが進み出ると、キングの盾となるように立ちふさがる。腕をクロスさせて腰を落ち着かせており、真正面から剣戟を受け止める気だ。


「しゃらくさい」

 踊るような剣裁きで、朧はジェミニクイーンへと切りかかる。両腕で防御されたが、それでもまともに高威力技を受けたのだ。無事では済まされないはず。

 だが、ジェミニクイーンは体力を七割ほど残していた。防御重視の相手にしてはそこそこの威力だが、シンはショックを隠せなかった。試算としてはもっと減らせるはずだったが、予想以上に相手は堅牢のようだ。

「キングと共にいるクイーンの防御力は、全モンスターの中でもトップクラスだ。だが、朧相手ではこれだけでは心もとないかな。ジェミニクイーン、ホーリーリング」

 クイーンが踊るように両手を振り上げると、その動きに合わせて光輪が彼女の周りを囲んだ。そこからほのかな光が放たれ、クイーンの全身を包んでいく。

 そして、クイーンの体力ゲージがほんの僅かではあるが回復していく。

「ホーリーリングは毎ターン少しずつ体力を回復させる技。一気に全回復するなんて卑怯な効果はないから安心したまえ」

「それでも厄介なことには変わりない」

「だろうな。そして、油断していていいのかね。ジェミニキング、シャインナックル」

 クイーンの傍からジェミニキングが飛び出し、拳に光を纏わせる。攻撃後のスタン状態を狙われたため、朧は回避がおぼつかない。


 殴り飛ばされた朧は、よろめきながらシンのもとへと後退する。HPも半分近くまで減らされていた。

「くっそ、キングって野郎、なんつー攻撃力してんだよ」

「闇属性相手なら、こちらも相性が抜群だからな。まして、キングの攻撃力はトップクラスだ」

「まずはクイーンの防御を崩そうと思ったけど、悠長にはいかないか」

 シンは一考した後、スキルカードを展開する。だが、その間に駆け抜けていく影があった。


「とにかく、クイーンの防御をどうにかすればいいんでしょ。ジオ、ガイアフォース」

 ジオドラゴンが進み出て、掌底から木枯らしを巻き起こす。端からクイーンを狙ったはいいが、彼女の体力を一割削るにとどまった。

「単純に攻撃しても無意味なのは朧で実証済み。なのに、闇雲に突撃するなんて、愚の骨頂」

「あんた、私が無鉄砲のアホとでも言いたいわけ」

「違うの?」

 ライトは拳を震わせていたが、カエルが潰れたような悲鳴にハッと顔を上げる。今度はジオドラゴンがキングのシャインナックルを喰らい、たたらを踏んだのだ。ジオドラゴンは睨みつけるが、すぐさまクイーンが矢面に立って防御態勢に入る。


 単純に攻撃しても、クイーンに防がれ、その直後キングからの反撃を受けてしまう。シンたちもまた協力し合わなければ突破は難しいが、剣呑に火花を飛ばしあっている始末だ。そんな彼女らを嘲笑うかのように、ミスターSTはスキルカードを連続発動する。

「スキルカード自動回復オートヒール。これをジェミニクイーンに使用し、更に回復量を増幅させる。そして、スキルカード聖力セイントパワー。ジェミニキングが使う光属性技の攻撃力が上がる」

 自動回復の効果値が上昇したことで、クイーンの体力は八割近くまで回復する。加えて、キングはこれ見よがしにボディビルのポーズで威圧してくる。スキルカードを使用されていなくとも、一撃の破壊力が増していそうというのは自明だ。


「てんでばらばらに攻撃しても埒が明かない。あんた、クイーンを引きつけなさい。あの脳筋モンスターは攻撃力が高い分、防御は見かけほどじゃないはず。朧で一気に叩いて戦力を削ぐ」

「悪くないわね。でも、それなら私のジオがキングを叩くわ。あんたの方がクイーンを引きつけて」

「馬鹿にしないで。この作戦を考えたのは私。囮までやる必要はない。それに、あんたのモンスターじゃ火力不足。せいぜいクイーンの相手をしているのが関の山」

「ジオを舐めないでほしいわね。火力ならいくらでも強化できるんだから。あなたの方こそご隠居してなさい」

 作戦自体は悪くないのだが、実動員の仲が悪すぎるのが問題だった。呆れかえるギャラリーを一瞥し、ミスターSTは更なるスキルカードを取り出す。

モンスター紹介

ジェミニキング 光属性

アビリティ 双星の覇気:チームにジェミニクイーンがいる時、攻撃力が上がる

技 シャインナックル

新年の新イベントで配信予定のモンスター。通称「綺羅星の二重奏」の一派でふたご座をモチーフとしている屈強な男性戦士。

攻撃力に特化したステータスを持つうえ、チームにジェミニクイーンがいる時に更に攻撃を強化できる。

反面、低い防御力はクイーンを場に出すことで補える。まさに、複数体同時バトルの申し子とでもいうべきモンスターだ。

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