ネオスライムVSメガゴーレム
闘技場で睨みを利かす二体の怪物。一体は黄土色のプニプニとした軟体生物で、凛々しい眼差しを向け、対戦相手を威嚇している。とはいえ、体長五十センチほどしかなく、可愛らしいという印象が先行しつつあった。
対するは、その軟体生物の十倍はあろうかという岩石の巨人。無造作に積み重なった岩が人間の姿を象っており、顔面に当たる部分に、目や鼻を思わせる窪みが生じていた。
「ネオスライムかよ。そんなモンスターじゃこの俺は倒せないぜ」
「それはどうかな。やってみなくちゃ分からないだろ」
それぞれの怪物の使い手らしき少年たちもまた、後方から対峙していた。軟体生物ネオスライムを従えているのは、帽子を後ろ向きに被り、パーカーとジーンズを着用した背が高く痩せ型の少年。岩の巨人ゴーレムを従えているのは、がっちりとした体格の中世ファンタジー世界で生活していそうな盗賊風の男であった。それぞれ、テト、ゲンというコードネームが表示される。
「バトルスタート」の電子音と共に、二体の怪物がぶつかり合う。
「さっさとひねりつぶしてやる。メガゴーレム、岩石パンチだ」
「ネオスライム、体当たりで迎え撃て」
少年たちの命令に従い、メガゴーレムは上半身を反らし、その反動を活かして拳を繰り出す。それに真正面から刃向うように、ネオスライムは全身をバネにして体当たり攻撃を仕掛ける。激しい衝突音が闘技場内に響き渡った。
だが、実害を受けたのはネオスライムのみであった。メガゴーレムにはね飛ばされ、地面へと叩き付けられてしまったのだ。「ピギャ」という悲鳴とともに、ネオスライムのHPゲージが四分の一ほど削られる。
「俺のメガゴーレムは攻撃特化だぜ。スライムごときが正面突破できるわけないだろ。メガゴーレム、レインストーンで追撃してやれ」
ゲンは嘲笑し、メガゴーレムに攻撃の指令を出す。メガゴーレムが両手を掲げるや、闘技場の上空に亀裂が生じた。その亀裂が広がるや、そこから無数の岩石が出現した。それらは一斉に地面でへたっているネオスライムを捕捉し、急速落下しようとしていた。
レインストーンは通称「岩の雨」と呼ばれ、その名の通り、異空間から無数の岩を降らして攻撃する技だ。回避が困難なうえ、攻撃能力を鍛えてあるので大ダメージは必至である。
しかし、テトは焦ることなく、右手を真横に振りぬいた。その動きに合わせ、彼の目の前に五枚のカードが並ぶ。そのうちの一枚を指差すと、それが発光し、残りの四枚は消滅した。
「スキルカード、硬化発動」
テトの掛け声とともに、発光したカードがネオスライムの全身を包む。すると、プニョプニョした全身が鋼鉄に変化し、闘技場の照明を反射して輝いた。
本来であれば岩石によって押しつぶされるはずであったが、全身の性質を金属へと変化させた結果、落下してくる岩を次々と砕いて防ぎ続けている。HPゲージも思ったほど減少せず、岩が止んだ時点で半分以上の体力を残していた。
「このタイミングでスキルカードか」
「硬化は使用したターン、モンスターの防御力を大幅に上昇させる。そして、今度はこっちの攻撃だ。バブルショット」
ネオスライムは元のゲル状に戻り、大きく口を開く。そのまま息を吸うと、自身を覆いつくす程の巨大なシャボン玉を発射した。攻撃後の反動から動けずにいるメガゴーレムにまともに命中し、HPを削り取る。外見上は大したことない一撃ではあったが、予想外に効果があったようで、これで両者のHPはほぼ互角になった。
「よし、いいぞ。メガゴーレムは土の属性を持っているから、水の攻撃には弱い。このまま連続でバブルショットだ」
「甘いな。スライムがこっちの苦手とする水の攻撃を使うなんてのはお見通しだぜ。スキルカード旱魃発動」
「くそ、このタイミングでそれが来るか」
メガゴーレムの前に光り輝くカードが展開する。ネオスライムが吐き出した気泡は先ほどと同じくメガゴーレムに命中するが、今度は一切HPが削られていない。
旱魃の効果は、一度だけ水属性の攻撃技を無効化することができる。水を苦手とするメガゴーレムにとっては相性抜群のカードであった。
弱点を補強されたことも痛手であったが、テトはそれ以上にこの後に繰り出される攻撃を危惧していた。ゲンとは何度か戦ったことがあるので、行動パターンはある程度予測できる。あいつが旱魃を使ったということは、あのコンボに繋げるつもりだ。
「悪いが、これで決めさせてもらう。旱魃は水属性の攻撃を無効化させるだけでなく、次に使用する炎属性の攻撃の威力を微増させる追加効果がある。それに加え、俺は炎上で炎属性の威力を更に上昇させる。そして、これでトドメだ。メテオブラスター」
更なるカードが展開し、メガゴーレムの体を炎で包む。すると、僅かであるが、メガゴーレムのHPゲージが減少した。炎上は炎属性の技の威力を大きく上げる代わりに、炎属性以外のモンスターが使用するとダメージを受けるペナルティがあるのだ。
そして、レインストームを発動した時と同じように、上空に異空間が発生する。そこからまた岩石を発射。そう思われたのだが、出現したのは岩石とは似て異なるものであった。
それは岩には変わりないのだが、全体が燃え盛る炎に包まれていた。その姿は、広大な宇宙空間を縦横無尽に飛び回るあの物体を連想させる。そう、隕石である。
レインストームの炎属性バージョンといえばそれまでだが、土属性であるはずのメガゴーレムが炎属性の攻撃技を使うことができるという点では奇襲効果は抜群であった。ただ、テトはこの戦法を過去にも喰らったことがあるため、特段驚くことはない。
むしろ、懸念しているのは旱魃と炎上のコンボにより、恐ろしく攻撃力が上昇している点だ。メガゴーレムはただでさえ攻撃能力の高いモンスターである。その攻撃力を上乗せしているのであれば、あれをまともに受けた時点で確実にKOだ。
テトは手を震わせながらも再度カードを展開する。先ほど一枚カードを使用したため、四枚のカードが広がる。ここで操作ミスでもしたら元も子もない。震える右手を押さえつつも、どうにか目的の一枚を選択し、効果を発揮させる。
「スキルカード大雨発動」
「なに、そんなレアカードを持っていたなんて」
「こいつは旱魃と同じく、炎属性の攻撃を無効化する。そのうえ、水属性の技の威力も上がるから、次にバブルショットを撃って終わりだ」
ゲンの得意コンボを破るために最近手に入れたカード。これでようやくゲンに勝つことができる。テトはそっと拳を握りしめた。
焦燥していたゲンであったが、ふと落ち着き払ったようにほくそ笑んだ。その微笑を確認したテトは一筋の汗を流す。
「そんな切り札を隠し持っていたことは褒めてやってもいいが、俺に勝つのはまだまだのようだったな。カウンターでスキルカード対抗発動」
「そんな、嘘だろ」
テトは思わず声を張り上げる。そのスキルカードの効果は説明を受けるまでもなく熟知していた。相手が使用したスキルカードの効果を無効にする、あまりにも有名なカウンタースキル。コンボ攻撃に気を取られ、十中八九セットしているであろうこのカードの存在を失念してしまっていたのは不覚だった。
テトが発動した大雨の効果は消滅し、ネオスライムは無防備のまま強化された隕石を受けることになる。水属性なので、炎属性の技の威力は軽減されるが、それも気休め程度にしかならなかった。ネオスライムのHPゲージは根こそぎ削られ、試合終了を告げるブザー音が無情にも響き渡った。
モンスター紹介
ネオスライム 水属性
アビリティ 九死に一生(HPが0になる攻撃を受けた際、低確率でHP1のまま耐える)
技 バブルショット
ステータスは高くないが、不定形ゆえに変身などのトリッキーな技を使って相手を翻弄する。