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第13章4

大変お待たせしています。久しぶりの更新です。

 ローレライは寝室のベッドに飛び込むと、そのまま顔を埋めた。

 咳を切ったように溢れ出す涙は、止まらない。


“あいつを女として見た事等一度もないぞ!”


 扉越しに聞こえて来た言葉が、耳の奥にくすぶり続け離れない。

 ゼロの告げた“あいつ”とは、おそらく自分の事で間違いなかった。

 ゼロはローレライの事を普段から名前で呼ぶことは殆どなく、“お前”若しくは“あいつ”と呼ぶ。加えてゼロの周囲に今まで女性の存在を感じられることは一度も無く、それは自ずとその存在が、自身以外には有り得ない事を告げているように思えた。


 自分は今まで、何を浮ついていたのだろうか?

 ゼロの優しさを履き違え、婚約者の事を告げればきっと喜んでくれるに違いないと心の何処かで思っていた。

 だからあれ程パウリンの導きに浮かれてしまっていたのだ。


 ……嫌われてはいないと思う。

 けれど突き付けられた現実は、女性として見る事が出来ないと言う事実で、ゼロへの想いを自覚した今のローレライにとっては、あまりにも残酷と言わざるを得ない状況だった。

 パウリンの導きは絶対的なもの。新王となるのはゼロ以外あり得ない。

 ローレライは揺れ動く心の葛藤から抜け出せないでいた。

 幸福と思えた絶頂から、一気に崖下にでも突き落とされたような思いに駆られ、少しくらいそっとしておいてほしいと思い掛け布に包まっていても、胸元のパウリンがそれを許してはくれない。

 パウリンは己の存在を主張するかのように、何時になく光りを放ち続けていた。

 それは己の役割を早く果たせと、催促しているようにさえ思えた。


「分かっているわ。きちんと伝えるから……。だから、今日だけはそっとしておいてっ……」


 ローレライは、泣きぬれたままそっと胸元に輝くパウリンを握りしめると、自身の想いに蓋をしようと心に決めたのだった。



 今までゼロに散々迷惑ばかりをかけて来て、心の傷が癒えたなら、少しくらいゼロの役に立てる人間になりたいと思っていた筈なのに、今度は一生を左右する選択を彼に押し付けなければならない。覚悟を決 めた筈なのに、その事を思うと別の意味で心苦しく感じざるを得ない。

 自分は良い。生まれ落ちた瞬間からそのように定められ、それを受け入れて今まで生きて来たのだから。けれど、ゼロは違う。

 突然婚約者を告げられて、選択権すら与えられない運命を受け入れるしか無いと言う状況を強いられるのだ。

 しかも相手は女性とすら思えなぬ存在――。


(ごめんなさい……)


 誰が相手であろうと、パウリンの導きに従い生きて行こうと決めていたローレライとは違い、ゼロにとってはとんでもなく過酷な仕打ちとなってしまう事をローレライは心の中で詫びた。



 明け方少しウトウトしたものの、ローレライは結局昨夜は殆ど寝ていない。眠ろうとしたが、寝られなかったのだ。

 自身の思いとは裏腹に、重くのしかかる現実。

 民の為に出来るのは、破綻していく国家状勢を補う事を考えるのではなく、一日でも早く新王を迎える事こそが救いへの道。

 我王の政権下では更なる衰退の一途を辿るばかりで、それを防ぐ手立てはもうない。だからこそローレライは次代のパウリンを導く者として生まれて来た。

 パウリンの導きとは言え、突然運命に巻き込む事になるゼロの事を思えば、自らの想いなどさやかなもの。

 ゼロの気持ちは如何あれ、自身にとって、これほど最高に恵まれた婚約者はいないのだから……。

 ローレライは眠れぬ夜を過ごした中で模索した、自らが考え抜いたゼロにとって一番負担にならない方法を胸に刻むと唇を噛み締め、ゼロの部屋へと向かった。




 ゼロも昨夜は眠れぬ夜を過ごしていた。

 パウリンが告げるローレライの婚約者の事が気になって一睡も出来ず、こんな事ならばやはりずっと傍に付いていれば良かったと、今更ながらに後悔を覚えていた。

 酔い覚ましに早朝に水を浴び、身支度を整えた時、扉を叩く音がした。

 少し遠慮がちなその音は、ローレライで間違いない。

 ゼロは急ぎ扉の前まで駆け寄ると、開け放ち彼女を迎え入れた。

 昨夜も怖くて寝られなかったのだろうか。少し腫れぼったい目をしている事が気にかかった。


「大丈夫か?」


 思わず心配で、挨拶より先に声を掛けていた。


「はい……、朝早くにすみません。どうしても早くにお話ししておきたいことがあって……」


「ああ。分かっている」


 ゼロはローレライをソファーへと導くとティーセットに手を伸ばした。


 覚悟は決めて来たものの、ゼロの姿を前にすると、目を見てきちんと告げる自信が無くなってしまったローレライは、この時ぞとばかりに不意を突いて話を始めた。 


「パウリンに映し出された方は、私が良く知る者でした……」


 ゼロの手は一瞬だけ、その動作を止めた。


「……そうか」


 一言だけそう呟くと、ゼロは何事も無かったかのように、再び紅茶を注ぎ始める。


「……アイスラント。貴方でした」


「……えっ?」


 手を止めて息を呑むと、ゼロはかすかに瞳を揺るがせた。

 にわかには信じられない運命に心が震え、瞬時には声が出ない程だった。


「私は、運命には逆らえないと思っています……」


「ああ、勿論だ!」


 歓喜で、震える手を押さえる事すら難しかった。



 そんなゼロの状況を知る事の無いローレライは、零れそうになる涙を噛みしめそのまま飲み込むと、大きく深呼吸をし、ゼロの為に心に決めた言葉を口にした。


「……形だけの妻でも構わないので私と結婚し、新王になって下さい」


 ローレライは、懸命に深々と頭を下げ続けた。


家庭的事情でなろう様ムーン様、自サイト共に更新が滞っていましたが、今月よりまた活動を少しずつ再開しています。

スローになると思いますが定期的に今後はなろうとムーンの連載を交互で更新できればと思っています。

今後ともよろしくお願いいたします。


※活動報告書いています。宜しければお読みください。

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