第13章1
お待たせしました。
ローレライは、自らを奮い立たせようと必死になっていた。
「怖いなら傍についていてやるぞ」
優しいゼロの言葉に、ローレライは一瞬絆されそうになるが、大きく首を横に振る。
もう、今までのように甘えたままではいけない。これからは自分こそがしっかりとパウリンの定めを受け入れ、新王となる者を見極め、導いていかなければならないのだからと、そう決意していた。
「大丈夫、これは私に与えられた運命だから……」
出来る事ならば本当はずっとゼロに傍に居て欲しい。そう思いながらも、その思いを心の奥底に押し込め、ローレライは無理矢理に気丈に振る舞おうとしていた。
「そうか……」
微笑を浮かべながら、瞼をそっと伏せるゼロの表情は何処か寂しげで、ローレライは心を掻き乱されそうになるが、その思いを懸命に振り切った。
あれ程までにゼロを頼り、傍に居て欲しいと願ったのはローレライ自身であった筈なのに、婚約者の存在が明らかになりそうになった途端、急に手の平を返したように態度を変えてしまったローレライの事を、ゼロは今どのように思っているのだろうか?
ぞんざいに扱われたと、気を悪くしていないだろうか?
けれ今ここでゼロへの想いを断ち切らなければ、これ以上はゼロに心を見透かされそうでローレライは怖かった。
心の奥底には、既にゼロが住みついているのだから。
その為には今、ゼロとの間に少しでも壁を作り距離を置いておいた方が良い。
そうでもしなければこのままの状況ではローレライは婚約者を受け入れる事がきっと難しい。
いや、もう手遅れかもしれないが、ゼロの前で縋り付き激しく泣き叫ぶような醜態だけは晒したくないと思っていた。
夕食は部屋に運んでもらいローレライは兄と二人でとった。
「お前と二人きりで夜をこうして過ごすなんて、子供の時以来だな」
「そうね。お父様とお母様が王都の舞踏会に呼び出される度に、寂しくて私はいつもお兄様のお部屋に入り浸って」
「夜も一緒に寝てたよな」
「ランドンが来る前は二人だけだったから、いつもずっと一緒だった」
「これでもレライの兄だからな。俺なら、何があっても、いつまででもレライを守ってやれるぞ」
「ふふっ、有難うお兄様。大好きよ」
「レライ……」
食後の紅茶を飲みながら、昔話を懐かしみ、ローレライは心を落ち着けようとしていた。
パウリンはとても気まぐれだった。
望んでいない時はあれ程の光を放っていたのに、心を決めて待っていると今度は中々光ってはくれない。
覚悟を決めた以上、覗けるものなら一分一秒でも早い方が良い。
そうしなけれぱせっかくの決断が揺るいでしまいそうで、ローレライは今夜は眠る気にもなれない気分だった。
(まるで、心を見透かされているみたい……)
これは夜通し覚悟かと思いながらも、もし、ずっとパウリンが光を放たないでいてくれたら、少しでも長くゼロと一緒にいられるかもしれないと浅はかな感情を抱いた時だった。
「……レライ、光ってるっ!」
兄の食い入るように向けられる眼差しに、ローレライは慌てて目線を下げ胸元へと向けてみると、確かに服の内側から微かに光が漏れていた。
ローレライは首に掛けられたパウリンの絹袋をそっと外すと、布袋に震える指先を入れパウリンに触れる。
心臓は自分の物で無いように高鳴り打ち続けていた。
(もう後戻りは出来ない!)
目を閉じ大きく深呼吸をすると、ローレライはパウリンを掴み、それを取り出した。
目を開き、そっとパウリンの奥深くを覗き込んでみる。
するとそこには、黒髪の男性が声を上げながら軍のようなものを指揮する姿が映し出されていた。
「ぁっ……」
(……似て……いる?……)
遠目で、顔立ちまでははっきりとは分らない。
しかし髪を振り乱し叫ぶ、その勇ましい姿にローレライは釘付けになり、目が離せない。
「もっと近くに……」
無意識に、パウリンに向かってローレライはそう呟いていた。
ローレライの意思に連動されるように、パウリンは更に大きくその男性を捉える。
そして映し出されたその姿と瞳の色に、ローレライは震えた。
「お兄様……、どうしよう……私……っ」
言葉にならない感情が、胸の奥深くから競り上がって来る。
ローレライは溢れ出る涙を、抑える事が出来なかった。
「れっ、レライ? ……見えたのか? どんな奴だった!?」
兄の質問攻めにローレライは大粒の涙を流しながらにっこり微笑んだ。
見間違える筈はない。
あの素敵な、薄紫の瞳を!
「嬉しい……」
ローレライは、確かにそう呟いていた。
ここで、切るのかぁ!?(笑
皆様、
明けましておめでとうございます。
今年もムーン様と交互での更新で、今年もスローですが、出来る範囲で頑張りたいと思っております。
本年も宜しくお願い致します。




