第12章6
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ゼロはローレライの許へ訪れる少し前、公爵に地下室での一件の報告と共に、ルシオン、ローレライの偽名での訪問についての真相を明かし、謝罪した。
公爵は、最初はとても驚いていたが、告げられた事情を真摯に受け止めると、不肖の息子の行いに頭を抱えて深く項垂れた。
『……留守がちな男親、一人で育てたのが間違いだったのか……』
妻を早くに亡くした頃、まだ幼かった公爵家の二人の子供たち。
子供たちを妻の実家に預ける事も多く、前王が存命中は、王弟と言う立場から王宮に留まる事も多く、家ゼロはローレライの許へ訪れる少し前、公爵に地下室での一件の報告と共に、ルシオン、ローレライの偽名での訪問についての真相を明かし、謝罪した。
公爵は、最初はとても驚いていたが、告げられた事情を真摯に受け止めると、不肖の息子の行いに頭を抱えて深く項垂れた。
『……留守がちな男親、一人で育てたのが間違いだったのか……』
妻を早くに亡くした頃、まだ幼かった公爵家の二人の子供たち。
子供たちを妻の実家に預ける事も多く、前王が存命中は、王弟と言う立場から王宮に留まる事も多く、家庭よりも国政をつかさどることを優先していた。
その罰が当たったのかもしれないと嘆いていたが、おそらくそれだけでライサンドがあのようになった訳ではおそらく無い。
どんな境遇に置かれても、真面に育っている人間はごまんといる。
そして、全ての真相が明るみになろうとしている今、二人には今日の出来事と、これからの事をきちんと話しておかなければとゼロは思っていた。
「ライサンドが、公爵が政務官経由に王へと宛てた書状を、自らの手の者にすり替えさせようと動いている。仔馬も予定より早く動かされてしまい既にここには居ない。おそらく王宮に向かっていると思う。今エルに追わせている」
「!!………」
ローレライは絶句した。
やっとドレアスを取り戻せると思っていたのに、またも奪われてしまうなんて……。
「もし、フリードルが間に合わなくて、王宮に入ってしまったらどうなるの? もうドレアスを取り戻す事は、難しくなるのではないかしら……」
ローレライは昨夜の衝撃的な一夜のショックも癒えぬままの状況に加え、ドレアスの件でいつもよりも更に悲観的になっているようだった。
「大丈夫だよレライ。フリードルは何時だって頼りになる奴じゃないか。今回だってきっとやり遂げてくれるさ。なぁ、そうだろう!?」
ルシオンからの問いかけに、ゼロはどのような言葉を掛けてやる事が正解なのか、少しばかり戸惑っていた。だが、嘘はつけない。
「エルが駄目ならば、他の何者が追い駆けようと所詮無理だ。単独で馬を走らせれば昔から奴の右に出る者はいない。今はエルが何処までやってくれるかを信じるしかないと思っている」
ゼロは、フリードルがエルと名乗る以前から、自分の右腕である事を認めている。
左腕は勿論シドだ。
その二人が居るからこそ、今自分はここに居られるのだ。
「フリードル……、お願い……、ドレアスを助けて……」
ローレライは両指を組み、神に祈るようにそう告げた。
「シザーレは公爵の依頼を受け、キールの者の中にライサンドに組している者がどれだけいるかを現在調査している。ランドンの姉の事件に関しても、公爵が留守の間に起こった事で、公爵は当時ランドンの父についても歪んだ形の報告を受けていて、それを鵜呑みにしてしまっていたらしい。その事を調査資料を添えて公爵へ提出した所、今では息子を信じてしまったことを酷く後悔しているらしい。事実が明らかになった今、二人にも謝罪し、ニックには改めてキールへの再復帰を、ランドンにも父の後継者としてここへ留まれるよう取り計らってくれる心づもりでいるらしい」
ルシオンは、驚いたような眼差しで両目を見開いた。
「……あいつには、もう?」
「いや、この件はシザーレから報告を受けたばかりだ。まだ二人はこの事を知らん。だが、お前はランドンの主だ。知っておく権利がある。だから話しておく」
「分かった……」
理由は知る由も無かったが、ルシオンはランドンが今まで何かに酷く苦しんで来た事を誰よりも理解しているつもりでいた。
彼が自分の傍から離れる事など想像つかないが、今後どのような道をランドンが選ぶにしても、快く受け入れてやる覚悟だけはしておかなければならないと、自らに言い聞かせた。
「大丈夫か?」
「……平気。で、ランドンは? 今、どうしてるんだ?」
「ランドンにはニックと一緒に、キールを辞めた者の中に、ブラックナイトの思想に賛同出来そうな人材を探して貰っている。最悪の場合、ライサンドの息がかかっているキールの者と、内戦に発展する恐れもあるからな」
ニックとランドンは引き続き、ブラックナイトのメンバーと行動を共にしているらしい。
フリードルは今ブラックナイトのエルとして、全力でこの二つの件を阻止しようと動いてくれている。
仔馬の輸送に関しては、きっと造作もなく追いつけるだろう。
しかし書状の件に関しては、早馬で昨夜の段階で屋敷を発たれているとすれば、既に王宮に着いている可能性もある時刻。
どう考えても、無理があった。
だが、どのような困難な状況になろうとも、エルは『無理でした』と言って、そのまま帰って来るような、無能な者ではない。
間に合わなければ間に合わないなりに、きっと何か手を打ってくれる筈だ。
書状が王の許に既に届いているとすれば、直ぐにでもライサンドに王宮に来るようにとの伝令が届けられる筈だ。
本来ならば公爵も一緒にとの同行を求められる筈だなのだが、嘘の書状を作ってまでも父の爵位を奪おうとまでするライサンドが、同行を求められるような内容の書状を偽造するとは到底思えなかった。
きっと何らかの理由で公爵が王宮に出向けない理由を作っているに違いなかった。
「こちらにいるライサンド側のキールの面々を、今のうちに根絶やしにしておかなければならない。偽の書状が届けられ、我王からライサンド出仕を求められたら不味い事になる。ライサンドの仲間のキールの者は、公爵の許しが無くとも躍起になってライサンドを助け出そうとする筈だ」
そうなる前に、災いは何としても絶っておかなければならない。
ゼロは、何れ王宮には出向くつもりではいた。
だがそれは、我王を引き摺り下ろせるだけの準備が整ってからだと思っている。
「その前に、状況がそれを許さぬかもしれんな……」
ゼロがポツリと呟いた。




