第12章5
大変お待たせ致しました。
ローレライは、己の運命を呪いたい気持ちになっていた。
今まで背負わされて来た運命を受け入れ、果敢にも挑み続ける事が出来たのは、その事がこれからの自分に何かを齎してくれるものになると信じていたから。
けれど目の前に突き付けられた現実は、ローレライ自身にとってあまりにも過酷で辛すぎるものだった。
自分がどうしてこのような過酷な運命を背負わなければならなかったのか……。
あんなに辛い思いをして、やっと自分の気持ちに気付けた今になって、何故急にパウリンが今までにない反応を見せているのか?
首から掛けられたパウリンは、絹袋越しにあの時……、ライサンドから傷つけられた時に、微かに光を放っていたのだ。
ローレライが助かったのは、パウリンの放つ光にライサンドが一瞬目を奪われ怯んだからだ。その瞬間、ゼロが飛び込んで来てくれたお蔭で窮地を救われた。
その後光は直ぐに静まってしまったが、あれからパウリンは時々光を放っている。
これはきっと何かが運命に向かって、大きく動き始めている事を意味する。
今絹袋を開け、覗いてみたら如何なるのか?
そこに、もしかしたら自分の婚約者となる者の姿が映し出されているのかもしれない……。
けれど、正にあの時に光ったと言う事は、ともすればライサンドが運命の相手と言う事になるのではないのだろうか?
その事が頭を過った瞬間、ローレライは怖くてそれ以降パウリンに触れる事すら出来なくなってしまっていた。
考えたところで何も始まらない。現実を受け止めなければならないと分かっているのに、行動に移せずローレライは現在頭を抱え途方に暮れていた。
一つ深いため息をついた時だった。誰かが扉を叩く音がして、ローレライは息を飲むと慌てて扉を凝視した。
「私だ」
張りのある自らが安心できる声音に、ローレライは胸を撫ぜおろすと、服の上から握っていたパウリンの絹袋を離し、平素を装い扉を見つめた。
目の前には訪問した主であるゼロを受け入れ、労うサビエルの姿。
「お帰りなさい」
後ろから少し遠慮がちにローレライがそう声を掛けると、ゼロは微笑みを見せながらローレライの方へと向き直ってくれた。
けれどローレライは直ぐに駆け寄りたい思いに駆られながらも、それを躊躇してしまった。
自らの中の迷いがそうさせたに違いなかった。
ゼロはサビエルより自らが居ない間のローレライの様子を真っ先に聞き出しすと、何やら今まで出かけていた経緯についての少し難しそうな話を始めていた。
ローレライは待っている時間をもどかしく思いながらも、二人の会話の邪魔はしたくなくて、静かに二人が会話を終えるのを待つ事にした。
「では、私はこれよりシザーレ様と合流致します」
「頼んだぞ」
「はい」
話を終えるとサビエルはこちらを向き直り一礼をする。
「あっ、有難う」
今までこちらに居てくれた礼をローレライが告げると、軽く会釈をしながらサビエルはそのまま後の事をゼロに任せて去って行った。
目の前には、あれ程待ち望んでいた筈のゼロの姿。
ゼロの存在はローレライにとって一番安心できるもので、彼の傍に居る事が出来て、嬉しくない筈がない。
直ぐにでも飛び出したくて……、ゼロに触れたくてうずうずしているのに、パウリンの反応が気にかかりで、ローレライは自ら行動を起こせずにいた。
するとその思いを知ってか知らずが、ゼロが小さく鼻で笑うと話しかけて来た。
「どうした? もう、この腕は必要なくなったのか?」
ゼロはローレライの慎重的な態度を遠慮しているだけと受け取ったのか、微笑を浮かべると、腕をトントンと軽く叩いてローレライに次なる行動を促した。
ここまでされて、耐えられるはずがない。
ローレライはゼロの傍へと駆け寄ると、その腕に必死にしがみ付いた。
やはり離れられないもう、この腕からは……。
「本当は、ずっと待っていたの……」
「遠慮するな。自然に大丈夫になるまで一緒に居られる時は傍に居てやる。無理しなくていい」
「……ごめんなさい」
ゼロの優しさに、ローレライは思わず泣きそうになってしまった。
「謝るな」
「……有……難う」
温かなゼロの眼差し。
これからも、ずっと彼の腕の中に居る事が出来たなら、どれほど幸せな事だろう。
ゼロが自分を心配しているのは自らの従弟が起こした事によるものが大きいと分かっていながらも、ローレライはその腕から逃れたくない思いに駆られていた。
そんなローレライの心情にゼロは何処まで気付いているのか居ないのか?
ローレライの頭をクシャクシャっといつものように撫ぜるとポンポンと軽く叩いた。
ローレライはゼロの傍にいると自然と笑みが零れてしまう。
ああ、やっぱり彼は変わらない。
ゼロはゼロだ。
そして、とても優しい。
ローレライは嬉しい気持ちと、このままでいてはいけない。運命と向き合わなければと言う良心の呵責との狭間で今、心の中が大きく揺れ動いていた。
今だけは、このままでいさせて欲しいと願いながら……。
「……何か、俺……邪魔?」
ルシオンは絡まる二人の視線を目の前にして、自分の居場所がここには無いのではないかと察知して少し小さくなっていた。
すっかりそれまで傍にいてくれていた兄の存在を忘れ去っていたローレライは、慌てて兄に向き直ると、ゼロから少しだけ距離を置いて取り繕う。
「そんな事ないわ。お兄様もここに居て」
「ああ、それはその方が良い」
「そう? じゃ、遠慮なく」
ルシオンは、そのまま長椅子に座り直すと、平然とティーカップに手に取り、ゆったりと再び紅茶を飲み始めた。
ゼロはローレライへの自らの気持ちに気付いてから、出来限り二人きりになるのは止した方が良いと思っていた。
気付いてしまった想いは、ある意味とてもやっかいで、会う毎により深いものになって行く事をゼロ自身に知らしめていた。
だが今は、自らの感情を解き放つ時ではないとゼロは思っていた。
だからルシオンが傍に居てくれる事で自らの気持ちに、自然と制御が掛けられるようにとゼロは彼の同行を望んでいた。その方が自らの感情に制御がかけられて好都合だと思っていたからだ。
もし今、変に二人きりに等なってしまったら、次に自分がどのような行動を取ってしまうのかすら、はっきり言ってゼロには自信が無かった。
昨夜、ローレライが寝ているのを良い事に、自らが身勝手な欲望に勝てずについ行動を起こしてしまったのが良い例だ。
それは、ある意味ではライサンドのした事と同類で、その事に対しゼロは自らを嫌悪していた。
ただ奴と自分に違う点があるとすれば、そけは相手を思いやれるかやれないかの違いと、己の欲望を何処まで押さえる事が出来るかと言う点でだけだ。
勿論間違ってもゼロは相手の気持ちを考えずに、とてもライサンドのやった様な真似までは出来ないし、複数の者に愛情や欲望を注げるほど器用な人間でも無い。
きっとローレライに出会えなければ、このような感情を抱く事も無かっただろう。
だからこそ、自分の気持ちが揺るぎないものと自覚した今、本来ならば直ぐにでも告白するべきだとゼロは思っていたのだが、今のローレライの気持ちを考えると、直ぐに想いを伝える事は自分を満足させる為だけのエゴではないかと思えてしまい、それを躊躇してしまっている。
ライサンドがどのようにローレライを口説き言葉をかけたのか知る由も無いが、自分の掛けた言葉でライサンドとの辛い出来事を思い出させ増幅させてしまうのは得策ではない。より恐怖を募らせてしまうような状況に事になる事だけは避けたいと思った。
大切にしたいからこそ、今は告げるべきではない。そう結論付けた。
そう思う事で、ゼロは自らの思いに制御をかけてたのかもしれない。
ローレライの気持ちがもう少し落ち着いて、せめて一人でも部屋に居られる様になったら……。
そうなった時、自分は剣の師としてではなく、一人の男としてずっと共に傍に居たいと思っている事をローレライに告げらると思っていた。
今の状況からして、少なくとも彼女に嫌われていないのは確かだ。
ローレライが自分に感じてくれている感情は、師弟愛か、友愛か、情愛か?
どのような結果になろうと、その時になり後悔だけはしたくないと、ゼロは思っていた。
先々週、無事、PCが戻ってきました。
その後PCの修理中に旧PCで書き溜めていた、初の短編(現代物)をムーン様にUPさせて頂きました。
こちらは以前多くのなろう&ムーンライトノベルズ(プロを含む)が集まり、フリーペーパーを配布させて頂いた『嘘』に掲載していたものを、大幅に加筆しR入りとした作品です。
ご興味を持たれました方は、ムーンライトノベルズの方の風波のマイページよりご覧いただけます。
なお、ムーンライトノベルズは18歳未満の方はご覧いただけません。ご了承ください。
※見直し300文字ほど加筆しました。本編に大きな違いはありません。




