第12章2
お待たせ致しました
公爵は子息ライサンドを領地からの追放と罷免を陛下に進言した上で、今後の刑的処遇についても王に一任するつもりだと告げた。
領地の者はそれで納得する者も多かったが、ランドンとニックはそう言う訳にはいかない。
現王政の状況を厳粛に受け止めていた。
「王が良識ある判断を下す事を望みたい所ですが、おそらくそれは無理でしょう。それにご子息が王に近しい有力者と繋がっているのは必須。となれば利用価値がある者をそう簡単に手放すとは思えません。もみ消されて……、おそらくそれで終わりです」
「……もみ消される?」
ランドンの言葉に、公爵は驚きに満ちた表情を隠せない。
当然だ。前王弟の書状を、蔑ろにする者が早々に居るとは到底思えない。
だが、それは前王の時代までの話だ。
我王とその背後に連なる者達に、それを求めるはおそらく無理な事だろう。
「そうだな。あの我王ならば丸め込む事など造作も無い事だろうし、そこまでせずとも内通者が秘かに裏に手をまわし処分することも考えられる。現情勢下では王の手元所か法的機関に公爵の告白文が届くとも思えない」
続くニックの言葉に、公爵は呆然とした様子だった。
今ライサンドは公爵家の地下牢にいる。
公爵は罪が確定するまで留めておくつもりのようだが、この状況下ではそれもどうなるか無事に届く事すら怪しい状況だ。
よって王の返答を待って領地から正式に追放すると言う話も、時間の経過と共にうやむやになって行く事が推察される。
前王の時代ならば常識的に処理されていたことが、現在ままならないと言う話は、往々にして良く耳にする話だ。
それにライサンドを抱え込んでいる者が国の重鎮の一人で、尚且つ私腹を肥やそうとする輩であれば、それはおそらく絶望的だ。
ライサンドはまかりなりにも王位継承権を次に持つ前王弟の嫡男。どのように利用されても可笑しくは無い人物の一人と言える。
恩を着せた所で損益になること自体考えにくい為、背後に居る人物如何によっては無罪放免。それも有り得る話だ。
それ程に今この国は、本当に今、腐りきっている状況なのだ。
「だとすればそれは叔父上が全面的に信用を寄せる者、その中に裏切り者が存在するという事です」
「!! ……」
ゼロの言葉に絶句し、公爵が大きく息を呑む。
「叔父上、貴方は今ご自身が創設された護衛集団キールに絶対的な信頼を寄せている。違いますか?」
「当然だ。キールは我がバラサインの要だ」
「という事は……、公爵が書状を託したのがキールの者という事ですね? ……だとすれば、仔馬の輸送にもキールの者が携わっている可能性がありますよね?」
「まさか……、いや、しかし……」
「キールの者なのですね?」
フリードルが詰め寄ると、公爵がゆっくりと頷いた。
「……不味いな」
ゼロの言葉を聞くなり、ミゲルが慌てて厩舎へと走り出す。
続いてシドが地下牢に足を向けた。
そして、数分後――。
「やられました……」
厩舎には既に仔馬の姿は無く、ミゲルが悔しそうに呟いた。
「調べはついているのか?」
「裏で手を引いているとすれば、恐らくソイドと言う者だと思います。イシュラルの厩屋を襲ったのは、ソイドとそのとりまき連中ですから」
キールの情報は、この中で誰よりもニックが一番の頼りだ。
「その者の事は、良く知っているのか?」
「私が抜けた後に入った者ですから、面識は数度。後は厩舎に出入りしている時に、何度か姿を見ました」
「では、キールが既にライサンドの私兵集団に成り下がっているという事は、考え難いか?」
「それは無いと思います。ゴードン殿を慕っていた者達も多くおりましたから。団長が変わって抜けた者もおりますが、公のお人柄を慕って残っている者もまだ多くおりますから、内部分裂はあり得ても、その者達がライサンド側に就くとは、到底考えられません」
「そうか……。ならばキールの中で、お前が信頼できると思える者の名を、何人でもいい。教えてはくれないか?」
「はい」
ゼロは1枚の用紙をニックに手渡すと、記入を求めた。
それは現キールのメンバーリスト。
事前にフリードルが調べ用意してくれたものだった。
ニックはゆっくりとリストに目を通す。
そしてチェックが終わると、それを再びゼロに戻した。
「108名中……2人……。たった、これだけなのか?」
「申し訳ありません……。私が居た頃とはかなり様変わりしている上に、信頼できる者となれば、容易に記を付ける訳にも……」
ゆっくりと大きく頷くと、ゼロは踵を返す。
「エル!」
「はっ!」
「この両名と至急連絡を取り、ソイドの行方を追え! 公爵には私から話は付けておく」
「承知致しました!」
フリードルはその場にいたミゲルを引き連れると邸を早々に後にする。
一方ゼロは、ランドン、ニックを伴うと、薄暗い地下牢へと直ちに向かった。
すみません、最後お話が被ってコピー貼ってましたね^^;
訂正しました。




