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第11章6

お待たせしました。

部屋の中は見知った者だけとなり、ローレライも少しだけ落ち着きを取り戻して来ているように感じられる。

ゼロは椅子に座らせると、ゆっくりと自らの二の腕を必死に掴んでいるローレライの指を剝がそうとした。

けれど、ローレライがその指に再び力をこめた。


「駄目っ……」


「もう大丈夫だ。怖い者は誰も居ない」


ローレライは潤んだ瞳で必死に首を横に振る。


「では、ルシオンに傍に居て貰おう。それなら安心できるだろ?」


それでもローレライは駄々を捏ねる子供のように縋り付くような瞳でゼロを見上げると、首を横に振り続けた。


「お兄様は、強くないから……」


ゼロが困った様にルシオンに目を向けると、ルシオンは肩を竦め苦笑いを漏らしていた。


「そっか。年頃の妹を持つ兄の身としては、少しは守れる男にならなきゃ、やっぱりマズいよね。レライに見放されない為にも、今後はもう少し鍛錬に身を入れるよっかな。うん」


「お兄さま……」


ローレライは兄を見上げほほ笑む。


「それでも、お兄様はいつでも私の大好きなお兄様だわ……、とっても優しくて大切なお兄様よ」


「ありがと」


ルシオンはゼロとは対側に位置するローレライの片側に回り込み寄り添うと、肩を抱いてローレライの額にそっとキスを落とす。

誰が見ても、それは微笑ましい兄妹愛の姿で、シドも見守るように優しい眼差しでそれを眺めていたのだが、ただ一人異なる視線を向けている者がいる事に気付いた。


「お前、この麗しい兄妹愛の姿を見て、何でそんな険しい顔をしているんだ? 眉間にシワ、寄っているぞ」


「っ!!……」


ゼロはシドに言われて、初めて自らの中にここしばらく蠢いていた感情に気付いた。


(私が……、よもやこの兄に対し、嫉妬めいた感情を!? ……まさか……、この私がか? )


ゼロは、自分で自分の中に芽生えた感情を、信じられずにいた。




部屋の一角に置かれた応接セットの椅子に腰を下ろし、面々は今後の方針を確認し合っていた。


「しかし、どうするか? とりあえず、明日の茶会はそのまま開いて貰うとして、ランドンとニックもここへ呼ぶか?」


「そうだな。その方が話は早い」


「では、私が連絡を」


配下の者達がまだ誰も戻って来ていなかった為、フリードルが伝令を名乗り出、そのまま部屋を退出した。


「さてと、このままここにいても仕方ないし、俺は一旦部屋へ戻るとするか」


「そうだな」


シドが言いながらソファーから立ち上がれば、ゼロも席を立とうと腰を浮かせる。

すると、またもローレライの腕がゼロへと伸びる。

少し潤み、縋り付くような何処か不安げな眼差しで、必死にその腕を掴んでいる。


「おい……」


困った様にゼロがローレライを再び見つめ返した。


「……傍にいてやって。今日はやっぱりその方が落ち着けるみたいだから」

 

ルシオンはそう告げ苦笑いを浮かべると、シドを追いかけ、二人はそのまま部屋を出て行ってしまった……。


「嘘だろう……」




ゼロは困惑していた。

このような状況に置かれたローレライに、自分はどのように接すれば良いのか?

慰めれば良いのか?

だが、どうやって慰めてやるものなのか?

どのような言葉をかけてやれば、ローレライの緊張がほぐれ、ゆったりと過ごす事が出来るのか?

これが普段の状況ならば肩を抱き寄せ、慰めの言葉をかけるのも良いだろう。

だが、起こってしまった現実を思えば、今ローレライに自分から露骨に触れること自体が戸惑われた。

先程まで程ではないが、ローレライの肩にはまだ随分と力が入っているようにゼロには感じられた。


(如何したものか……)


困惑していると、部屋の扉を叩く音が2度聞こえた。

ローレライがビクリッと肩を震わせ、腕を握る指に力が加わる。

ゼロはその指に手を重ねると言葉を紡いだ。


「大丈夫だ。私が傍にいる」


ローレライはゼロを見上げるとゆっくりと頷いた。


「入れ」


「失礼致します」


言葉と共に開かれた扉の外には、侯爵家の執事が侍女を二人携え立っていた。

その姿に、何処か緊張の糸が解れたのか、ゼロは小さく胸を撫ぜ下していた。


「上の階に別の部屋をご用意させて頂きましたので、お嬢様はそちらに移られて下さい」


執事曰く、あのような事があった部屋では嫌だろうからと、主から別室を用意するようにと言われて来たらしい。

一礼すると、侍女に言いつけ、執事は即刻ローレライの荷物を持ち出そうとする。

当然の措置だと、ゼロも思ったのだっだが……。


「止めて……ッ、ここから離れるのは嫌ッ!」


ローレライが、何処か怯えたような眼差しで、必死にゼロに縋り付く。


「如何した? 叔父上の心遣いだ。遠慮はいらない」


「わっ、私……」


「お嬢様のお部屋には護衛もお付けせよと申し使っておりますので、ご安心なさって下さい」


執事が安心させようと言葉を紡ぐが、それでもローレライは首を縦に振ろうとはしなかった。


「ちがうの……。私、皆の傍に居たいッ……」


「!!」


ゼロはローレライの言葉の意味を理解すると、機転をきかせた。


「今、隣の部屋を私が使わせて貰っている。私がこちらに移るから荷物を入れ替えて貰う事は可能か?」


ゼロの言葉に、ローレライは驚いたように瞳を見開く。


「勿論、可能ではございますが……」


これなら良いか?とゼロに尋ねられ、ローレライはコクリと小さく頷いた。


「では、その様に頼む」


「畏まりました」


そう告げ、深々と執事は頭を下げると、急いで執事は更に数人の侍女を呼び寄せた。

てきぱきと荷は纏められ、あっと言う間に荷物が入れ替えられて行く。


「良いの?」


「何の問題も無い。私も今まで以上に気にかけておくから」


ローレライはゼロの言葉に、ゆっくりと頷いた。




「では、お嬢様はこちらに。お湯も用意致しましたから、少し寛がれてお着替え致しましょう。侍女は私とこの者が必ず二人で付きますので、一人の判断でお嬢様を如何するとか……、そう言う事は決してありませんので……」


ローレライは少し考えると、ゼロを見上げた。


「行って来い。ずっとここに居てやるから。用があれば直ぐに行く。侍女に呼びに来させろ」


ゼロがそう告げると、ローレライは小さく頷き、湯場へと足を向けた。


真相へと突き進んでいく状況下で、気付き始めた二人の思いがゆっくりと動き始めました。

これからもお楽しみいただければ幸いです。

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