第3章2
婚約者が、分からない?
いやいやいや、そんな馬鹿な事って……。
大きく首を振り考え込む様子のローレライを再び見つめると、ザビーネは先程よりもハッキリとした口調で告げた。
「あら、聞こえなかったのかしら? あのね、私にはワ・カ・ラ・ナ・イ・のよ」
それがまるで当然の事の様に、ザビーネは平然とした態度で落ち着きはらっている。
目が合えばニッコリ微笑んでもくれている様子から、故意に教えてくれないと言う訳ではなく、本当に分からない事らしい。
だが告げられた当人にしてみれば、それ程の難題は無く、ローレライはザビーネの返答に途方に暮れてしまった……。
「そんなっ、分らない方だなんて……」
考える余裕もなく口が勝手にそう動いていた。
「普通に考えれば当然そう思えるわね。けれど、その婚約者を探し出す事こそがパウリンの導きの許にある貴女に課せられた使命なのです」
分からない婚約者を探し出す事が使命?
と言う事はローレライだけがその相手を探す事が出来ると言う事になる。
「でも……、私にはザビーネ様のような力はありません。パウリンを覘いても何も見えないのです」
同じパウリンを持っているからと言っても、ローレライにはまだ何も出来ないのだ。
告げられた事実にローレライは不安の波に押し流されてしまいそうな気分になっていた。けれど必死にそれを押さえ込もうとしてる。
瞳の奥から潤んでくる涙を、奥歯を噛みしめ必死に耐えようとしていた。
「ああ、そんな顔をなさらないで……。自分を追いつめてはダメよ。今見えないのは当然な事なのだから……。私の言葉が足りなかったわ。パウリンの力は持つ者に課せられたその時々の使命によって変わるものなのです。ですから貴女の使命については私のパウリンでも覘く事が出来ないの。ただ貴女を導く役目である今の私には先程も申しましたが、あの仔馬の姿が覘けるのです。ですからきっとあの仔馬が貴女の使命を導く鍵となるはずです。今は何も覘けないかもしれませんが、時が来ればきっと貴女にも見える筈。私もそうでした。ですから焦る必要は何もないのですよ」
「……本当……に?」
「ええ。時が満ちれば、パウリンは必ず貴女の婚約者を映し出し、きっとその方の許へ導いてくれる筈です」
「時が満ちれば……。それは何時なのでしょうか?」
知らされればされる程に次から次へと疑問が生まれて来る。
「それは貴女の次第と言う事かしら? けれど、そうねぇ。待っているだけでは何も始まらないと言う事だけは言っておきましょうか。……そして、その婚約者こそが、唯一この国を救う事が出来る者だと言う事も」
「!!…………」
ローレライは自らに課せられた運命の大きさに驚愕し衝撃に打ち震え、暫く口を開く事が出来なかった。