第11章1
お待たせしました。
ライサンドは昼の散歩にサンドラがやっと応じてくれる事になり、かなり上機嫌だった。
「では兄君、サンドラ嬢をお借りいたします」
上辺だけの丁寧な言葉を並べ立て、上機嫌で去って行こうとするライサンドの言葉の端に、シドが賺さず待ったをかける。
「やはり私も一緒について行こう。サンドラはこう見えて、かなりこう言う事には不慣れだ。公爵家の若君に粗相があっては申し訳ないし、サンドラもその方が安心できるだろう」
「有難うお兄様! 実は私、とっても心もとなく思っていたの。ライサンド様、宜しいかしら?」
間髪入れずに続けられた兄妹の会話に、ライサンドは一瞬、口ごもる。
表情は、少々引きつって見えるが、やっと手に入れた好機を、ここで失う事も考えられないのか、かすかに苦笑いを浮かべるだけで、憤慨することなく二人の申し出を素直に受け入れた。
「……勿論です」
見え見えの作り笑いを浮かべ、話を合わせてようとしているライサンドの姿は、シドには滑稽に見えて仕方ない。
(心にも無い事を……)
そう思え、鼻で笑いたくなるのを、シドは必死で抑えた。
二人の邪魔はしないからと笑顔で告げると、シドは少し距離を取りながら後をその日から欠かさず付いて行った。
しかしその状況に、日を追う毎にライサンドの視線は苛立ちを募らせて行く。
次第にその事が手に取るように感じられるようになって行き、シドは少しだけ譲歩を見せる。
ライサンドの辛抱の限界を感じたシドは、今度は二人の後ろからついて行く事を止める事にした。
園庭の一角に身を置きながら、遠目から二人の様子を警戒しながら見守る事にしたのだ。遠目からでも監視していれば尻尾は出さないかもしれないが、離れていれば死角と言う場所も発生しうる。その点を視野に入れながら何時尻尾を出して来るか分からない相手との根競べだ。仕留めるには、現行犯として現場を押さえる必要がある為、僅かなチャンスでも逃すつもりは無かった。
そこに庭師に扮して潜入中のミゲルが、さりげなく近づき声を掛けて来る。
「上手く行きました。侍女だった娘が証言してくれるそうです。それと、ランドンがニックの助手として一緒に厩舎に入れたようです。仔馬とも会い、ドレアスと確認した模様です」
「そうか! ライサンドの所行についての調べも先が見えて来た事だし、近日中に奪還の手筈を整えるようゼロ様にお願いしよう」
「いえ、その点はお急ぎでお願い致します!」
「如何かしたのか?」
「それが……あまり時間が無いのです。明日の正午過ぎにはライサンドと一緒に仔馬は王宮に向けて発つそうで……」
「明日だと!? 急だな」
「もしや、こちらの動きに感づいたのかもしれません……。申し訳ありません」
「いや、お前たちはこの短期間に本当に良くやってくれている。ゼロ様も感心していた」
「恐れ入ります」
事が急展開し、シドにもゆっくりと余裕をかましている時間も無くなってきた。
(手筈もあるし、今夜急にと言うのは無理か。とにかくゼロに早急に連絡を取らなければ!)
「詳しい事はゼロ様と話して、後でサビエルに連絡させる」
「招致致しました」
状況が目まぐるしく動き始める。
こうなってはシドもおちおちと二人の散歩に付き合って等いられなくなって来る。
この辺りが潮時だと判断し、早々にローレライを撤収させる事に決めた。
「サンドラ 戻るぞ!」
「はい、お兄様。では、ライサンド様、本日はこの辺りで失礼させて頂きます」
「……ああ、ではまた今度」
ローレライはライサンドに向けて丁寧に頭を下げると、シドの許へとゆっくりと歩き出した。
そのローレライの後姿をしっと目で追うライサンドの姿。
シドはこの時、ライサンドが小さく舌打ちをしながら一瞬顔を歪め、こちらを睨むような視線を落としたのを見逃さなかった。
ファンタジー大賞、応援有り難うございました。
結局、開催期間中、1話しか更新できなかったので、1話更新しておきます。




