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第9章6

お待たせ致しました。

開催詰所が開く1時間前からランドンは市に赴き詰所に一番近い角の露店商の店番に扮していた。

店主には昨日の市終了後に当日の売上金を聞き出し、日に売上金の倍額の場所代で手を打たないかと話しを通した。

事前契約期間は3日間。それも借りる期間が1日で終わろうと、3日になろうと事が解決次第店は直ぐに明け渡すし払い戻しも要求しないと言う好条件までつけた所、店主は二つ返事で承諾してくれた。

それに加えて売り上げ金も自分の手元に入るのだ。店主はその間店を空けて自由に過ごせばいいだけ。これだけ美味しい話は他にない。


ランドンの両側には監視と称しフリードルとサビエルが置かれていた。

少しでも見知った者を傍に置いたのは、ゼロの配慮だったのかもしれない。

他にも離れた所に配下の者達が置かれており、何があろうと何処からザクソンが現れようと対策は万全だった。

しかし、一日目にはそれらしき人物は姿を見せず、二日目になってもそれは変わらずだった。

そんな中でその日の夕刻、バラサインに送られていたミゲルが帰って来た。

調べの結果、ランドンの供述がほぼ事実であった事が知らされ、ランドンは晴れて自由の身となった。


「悪かったな」


「いえ。あの状況では当然の事ですから」


ランドンは気にする様子も全くなく、寛大な言葉を残すと最終日の計画にそのまま加わった。


そしてランドンの表情が揺らぐ事になったのは、3日目の午後。


「……今詰所に入って行った者、ザクソンではありませんでしたが、見知った者に面差しがとても良く似て……」


ランドンのその者を見つめる眼差しが、少しだけ泳いでいた。

驚きに満ちた、我が目を疑っていると表情だ。


(でも、まさか……)


ランドンは大きく首を横に振った。


「誰か……見知った者なのか?」


「……ニクソン・グレイブ……。姉の婚約者……だった男です」


「報告によるとニクソンは既に亡くなった事になっていますが」


フリードルが補足する。


「ええ。私もそう聞いていました。しかし、髪の色こそ違いますが、本当に良く似ている人物なのです」


ランドンは何か幻でも見ているかのように、何度も瞬きを繰り返しながらもう一度その、かつての姉の婚約者と思える男を姿を目で追っていた。


「よし。とにかくあの男も要注意人物だ。後を追わせろ。ランドンは引き続きザクソンを探してくれ」


「はい。分かりました」


しかし結局、この日もランドンは、ついにザクソンの姿を見つける事が出来なかった。


「申し訳ありません。何のお役にも立てずに……」


「いや。あのニクソンに似ていると言う男、何かあるかもしれんぞ」


「話によると今バラサインの方角に向かっているそうです」


「バラサイン……、に?」


「とにかく今は報告を待ちましょう」


フリードルがそう付け加えた。



数日後、帰って来た者の報告でニクソンに良く似たと言う男は、バラサインのプリムナド牧場に3年前から雇われているニックと呼ばれている農夫である事が分かった。

流れ者で過去の素性は誰も知らず、3年前に急にバラサインに訪れて、そのまま農夫として移り住んでいる者らしい。


「!! ニクソンの愛称はニックでした……。姉も、私も、彼の事はニックと呼んでいました」


「偶然とは思えませんね。如何されますか?」


フリードルがゼロに問う。


「やはり行ってみるか、バラサインへ。でも、その前にランドンを先行させよう」


「ニックって農夫と会わせるのか!?」


シドも何か裏があるように感じているらしい。


「ああ。関係無ければそれでいい。しかし、もし本当にその者が本物のニクソンならば、是非こちらに引き入れたい。可能性は十分あると思う。奴は今ザクソンの信頼も厚いようだし、農場で作られた飼料はザンゾール公の屋敷で使われている。上手くいけば厩舎にも潜り込めるかもしれんしな」


「危険はないのか!? ランドンにこれ以上変な真似はさせられない!」


今回の件で、ランドンには今までにない負担をかけてしまったとルシオンは思っている。


「大丈夫です。そう心配なさらないで下さい。何かあっても私の周りには戦いのプロの皆さんが付いて下さっていますから。それに私もそう易々とはやられませんよ」


ランドンが柔らかな笑みを零して、そう告げた。


「私が同行しても宜しいでしょうか? 何かあればランドンは私が必ず守ります。ルシオンもその方が安心できるでしょう」


子供の頃から知っている自分がランドンを守ると言えば、ルシオンも一番安心できるであろうとフリードルは考えていた。


「お前が直々にか……。よし、良いだろう」


「有難うございます。後のことは私に任せておけ」


ゼロの了解を得ると、フリードルはルシオンの方に向き直りそう告げた。


「ランドンを頼む……」


ルシオンがフリードルに深々と頭を下げる。

その姿に、フリードルはそっとその肩を叩いた。

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