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第8章5

生まれた時からジュリアスが、王家と関わりのある何れかの貴族の家に贈られるかもしれな事を、ゼロは承知していた。

その為、当初から手放す覚悟はしていたが、幸いにしてその頃新たに血統馬を与えられるに該当する者が居なかった為、親馬の所有者である母ザビーネに今後の処遇を決めることが許される事になり安堵していた。

だがそんな矢先、王城から帰宅するなり母より衝撃的な言葉が突き付けられたのだ。


『パウリンに見えたの。ジュリアスは私の後を継ぐ事になる娘に贈る事にするわ』


出来る事ならば手放したくは無いと思いながらも、母の持つ力を認めて来ていた自分にとって、パウリンの定めに抗えるはずも無く、結局は言われるがままにジュリアスを手放す事になったのは7年前の事。

当時10歳だといっていた娘が、このローレライであると言う事は現状況とエルの話からして疑う余地は無かった。

手放せばきっと、もう一生会う事は叶わないだろうと思っていたのだが、ジュリアスとの思いがけぬ再会に心は躍った。

不思議な運命の巡り合わせは嬉しい誤算だったが、その為にやりたくもない世話まで焼かなければならない状況にもなってしまったが、現状況下では致し方ない面もある。

最初は鬱陶しい事この上ないと思っていたこのローレライとの関わりも、最近では不思議とその状況にも慣れて来たのか左程気にならなくなって来ていた。

今までは女と言う存在を認識しただけで口を利く事すら煩わしく思え、反吐を吐きたくなる程の嫌悪感を抱いていたと言うのに、如何言う訳かこの娘にだけは、それ程強い煙たさを感じる事が無かった。

その事に最初は戸惑いすら覚えていたが、異質としか言いようのない娘の持つ感性と周囲の状況に気付いた時、ゼロはローレライの内に秘めたる力、おそらくはパウリンを手にする者と言う事に何らかの関係があるのかもしれないと漠然と思うようになっていた。

やっとの事で自らの中に納得が出来る要素を見つける事が出来てからは、ローレライとの関係性も柔軟になって来ていると最近では思っていたのだが、急に俯き言葉少なになってしまったローレライの姿に、やはり女は難しいものだと感じていた。


「如何かしたのか?」


「いえ、大した事は……」


俯いたまま籠るように言葉を口にするローレライとの、この何処か気まずい雰囲気を何とか打破できないものかと、ゼロは己の中で言葉を探した。

だが頭を過ったのは、やはり母であるザビーネの事だけだった。


「伯母と会ったことは?」


「はい。一度だけ。ドレアスが……、仔馬が生まれた日に丁度いらしていて、1日だけお泊り頂いて、色々お話を伺いました」


「それは、伯母の持つパウリンと関係があるのだな?」


続く言葉に、依然俯いたまま言葉を口にしていたローレライだったが、パウリンの名を口にされ、驚いたように顔を擡げた。


ローレライは、まさかゼロの口からパウリンの存在を示唆する発言が出て来るとは夢にも思っていなかった。


「……パウリンの事を、知って!?」


「ああ、少しだけだが……。何やら使命があるらしいな」


「使命と言うよりも、課せられた……ッ」


ローレライは、慌てたように口を押えると、辺りを見渡した。


なんて事だろう。他人に……、それも出会って間もない、おまけに素性もはっきりとは分っていない者に、パウリンの……、それも自らの使命の断片をうかつにも口にしてしまうなんて……。


浅はかな己の言葉を慌てたように心の内で叱咤すると、ローレライ少し怯えるような眼差しでゼロを見つめた。


ローレライの何処か挙動不審とも思える態度に、ゼロは苦笑いを浮かべながら慌てて続く言葉を口にした。


「怯えるな、隠さなくても良い。お前も持っているんだな? パウリンを」


「あの……、それは……」


「伯母より話は聞いている。ジュリアスを自分の後継者に授けると言っていた。それがお前なのだろう?」


そこまで知られているのならば、最早隠す事は無意味だと認識すると、ローレライは小さく頷いた。


「……はい……」


しかし、ゼロは何処までパウリンの事を知っているのだろうか?

今まで自分のパウリンの存在は家族とザビーネ様、そして侍女のメイテル以外誰も知らないと認識していた。

知られてはならないものだと思っていた。

それをまさか自分とは今まで全く関わりすら無かった者が知っているだなんて……。


「お前の運命は何だ? それは今後の王政に関わってくることか?!」


「!!……」


ローレライはあまりにも的を得ている言葉に、大きく瞳を見開くとゼロを凝視した。


「ふっ、……言える訳が無いか……」


鼻で小さく笑うと、自嘲気味にゼロが言葉を吐き捨てた。


「ごめんなさい……」


「やはり口止めしたのだな? 伯母が。私も詳しい事は知らん。だから憶測の範囲だ。だが、私はそう確信している。お前の持つ使命が過酷なものであろう事もな」


ゼロの表情が少しずつ緩んでいく。


「今まで一人で抱えていたのか? 話せる事があるのならば聞くぞ。私は伯母の事もあるし、誰にも言わん。そこは信用してくれていい」


「!! そっ……」


『そんな事出来る筈無い!』と言いかけて、ローレライは口をつぐんだ。

でも、まさか自分を嫌っているであろうゼロから、こういう話を向けられるとは夢にも思っていなかった。

いつも険しかった表情が今日は少し優しく感じられ、今まで蓋をしていた心が少しずつ解放されていくのをローレライは感じていた。

パウリンの事はいつも自分の心の中心にあり、今回のドレアスの件にしてもパウリンの事もあったから無謀とも思える行動に出た。


(パウリンに秘められた事についての明確な事は何一つ話せないけれど、それでもゼロは分かってくれる?)


この運命を背負ってしまった事で、ここ数日間、自分がどれだけ悩み苦しんで来た事か……。

そう思ったら何だかじんわりと涙が溢れてきた。

泣きたい訳では無いのに溢れてくる涙が止まらない……。

今はただ、そう言ってくれるゼロの気持ちがとても嬉しく思えた。


ゼロは隣に座り顔を覆いひたすら泣きじゃくるローレライの頭を優しく軽く叩くと、何も言わずにただ横に座りずっと頭を撫ぜていた。

何がそうさせたのかは分らない。

ただ自然と身体が動き、それに従っただけだった。


感情が掴みきれないままの自らの不思議な行動に少しだけ戸惑いを覚えたものの、ゼロは何故だかその事に不自然さを感じてはいなかった。

そしてローレライにとってもそれは、とても心地よく安心できるものだった。

丁度良い所で?、今年の更新はこれまでとなります。

色々あったけど、何とか更新出来て良かった(ホッ)

明日より私は旦那の実家で年越しです。


皆様、良いお年をお過ごしくださいませ。


風波 涼音

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