第8章2
お待たせしました。
ゼロは自らも短剣を手に取ると、ローレライに先ず持ち方を教え始めた。
「大きく分けて持ち方は3つだ。順手に持ち親指もナイフも握るハンマーグリップ」
ローレライはゼロの手元をじっと見て、懸命にその形を真似てみる。
「こう?」
「もう少し親指と人差し指だけで持つ。後は添える」
「ちがう!」
「これが一番簡単な持ち方だぞ」
形は同じように出来ているように見えるのに、微妙に持ち方に角度があるらしく、その添え方一つで握った時の力の入り方と言うものも違うらしい。指の位置も少しずつ修正されながら、溜息をつかれた。
「ごめんなさい……」
「謝るな!」
少し気まずくなった気がして謝れば、また罵声を浴びせられ、そこで昨日忠告された事を思い出し、ローレライは慌てて言葉を訂正した。
「っ、頑張ります!」
「よし」
ゼロからしてみれば少し呆れている状況かもしれないが、こうやって教えて貰える間は、精一杯頑張って行こうとローレライは心に決めていた。
ゼロは叱りながらも面倒見は良く、時折手を添えたりしながら、ローレライが如何すれば理解しやすいのかを考えながらきちんと指導していた。
嫌いな女相手でも、一旦引き受けた以上は、半端な教え方はしない。
そこはゼロの責任感の強さの現れなのだろう。
一つ教えるのに他の者の何倍もの時間を要するにも関わらず、他の順手に持ち親指を伸ばして背や鍔にかけるセイバー・グリップ、親指を柄頭に乗せて握るリバース・グリップもしっかり握りの型を、一つ一つ一生懸命教えている。
「こう?」
「リバースだけはサマになっている。もしかして知っている型なのか?」
「この逆手持ち、ランドンが良くしてるのを見ていたから……。勝手に覚えたのかしら?」
「ほう……」
「使い方も分かるか?」
「何となくだけど……。お兄様がランドンに教えて貰うのをいつも見ていたから。見様見真似でいいのなら……」
「型を確認する。やってみろ」
いきなりゼロに軽く構えられ、まだ何も分かっていない段階で、実践練習をする等考えられないと、ローレライは大きく首を振った。
「そんなの、いきなり最初から無理に決まっているわ」
「またかッ。それは私が判断するべき事だ。やりもせずに最初から無理だと決めつけるのならば、私が教える必要はない! 向上心の無い奴に教える程、私は暇では無いからな。剣を置いて、とっとと立ち去れッ」
射抜くような真剣の眼差しでそう告げられて、ローレライは身がすくむ思いだった。
だが、それと同時に言われて己の浅はかさに気付いた。
ローレライは首を大きく振ると、剣を置こうとはせず、ゆっくりと身構えた。
「やらせて頂きます……。私、絶対にあきらめませんッ」
震える手で、ゼロを目掛けて懸命に剣を繰り出した。
「甘い! 」
鈍く剣と剣がぶつかり合う音がし、瞬時にかわされる。
「そんな事……、分かってますッ!」
「腕だけで叩くな! 腰をふにゃふにゃすなッ。痛めるぞ!」
「はいッ」
「上半身を固定しろ。腋をしめて繰り出す!」
「はい!」
「全体重をかけろ!」
「はいッ!」
ローレライは、とにかく言われたことはだけは忠実に守ろうと、必死にゼロに向けて剣を繰り出し続けた。
ゼロはローレライの繰り出す剣に、ただ合わせていると言う状態だった。
ローレライの額からは汗が流れ始め呼吸も上がっているが、ゼロは全く平然としたまま、汗どころか表情一つ変わらない。
猫でもあしらっている……、そんな感じだ。
ゼロからしてみれば、ローレライの繰り出す剣など、止まっているようにしか見えないのかもしれない。
剣を交えている内にローレライの心の中にも少しずつ変化が表れはじめていた。
今までのようにずっと守られているだけでは駄目なのだ。少しでも上達して、皆に安心して貰えるようにならなければ。これは全て自分が皆を巻き込んだ事なのだからと……。
(強くなりたい……)
(弱い自分は、もう嫌だッ)
(悔しいッ!)
そう思った瞬間、ローレライは剣に何か強い力が籠った気がした。
だが、繰り出した剣は、瞬時にゼロに勢いよく振り落されてしまった。
「ぃッ……」
剣を振り落された右手を押さえながら、ローレライの顔が歪む。
ゆっくりとしゃがみ込み、再び剣を拾い上げると、悔しいと言う気持ちがそうさせたのか、ローレライはゼロに向けて睨みつけるような強い視線を向けていた。
「良い目だ」
ゼロが初めてローレライに、微笑を浮かべ瞬間だった。




