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第6章7

氷を貰い、戻って来たローレライはゼロの傍で相変わらずジュリアスの治療を手伝っていた。


ゼロはジュリアスの足首を触り頷く。


「貼り薬を作る」


「はいッ。何を用意すれば良い?」


「布・イモ・ビネガー・小麦……無ければパンでも良いぞ」


「聞いてきます」


ゼロが紡ぎ出す憮然とした言葉に、機敏に反応をしローレライはまたパタパタと笑顔で馬屋を出て行き、後をサビエルが追う。

その行為が既に何度も繰り返されていた。

ローレライのその様はまるで物語に出て来る小間使いのよに甲斐甲斐しく、それを嫌と言うよりむしろ楽しんでいる様にも見受けられる。


シドとフリードルは『役に立つ』と言う先程のゼロの言葉を思い出し『確かに……』と何処か納得していた。


傍から見ていると憮然とした表情に加え命令口調の男に、何の戸惑いも見せずに素直に受け入れ、告げられた事を必死で熟そうとしている健気な娘と言った所だろうか。

ローレライには苦手な者などいないのではないかとさえ思わせてしまう何かがそこにはあった。


子供の頃から人間も動物も生き物全て同じと言う感覚で捉えているローレライには、男のぶっきら棒な態度等、そう大した問題では無いのかもしれない。


「分かっているのかいないのか分らんが、ある意味あの娘……凄くないか?」


シドがその様子を見ていてボソリと呟いた。


ローレライような考えを持つ者ならば、確かに知らず知らずのうちに、ゼロの女性観をも変え得ることもが出来るかもしれない。

シドは何か計画を練ると言っていたが、事はそう簡単には行かないだろう。

きっと主は馬との関わりが無ければ、ローレライを自らの側へと近付く事も許さないかもしれない。

だが彼女の持つ何かが、それだけでは語る事の出来ない何か期待させた。


「それにしても良いコンビだな」


「こうして見ていると、今日初めてであったようには見えませんね」


「このコンビ続けさせるぞ」


「えっ? どうやって!?」


「まぁ、見てろ」


シドには何か考えがあるようだ。

フリードルは再びシドに強制的に連れて行かれた。



ローレライは宿の者に聞いてジャガイモ、ビネガー、小麦は何とか揃える事が出来た。

ただ布と言われても流石にそれは直ぐに用意できなかったので、自分の胸巻き用に持ってきている布は使えないだろうかと思い立ち、部屋へと戻っていた。

予備に持って来ていたものを荷物から取り出すと、今着けているものは外してベッドの柵に引っ掛けた。

先程からバタバタ行ったり来たりして暑かったし、かなり汗臭かったので不快で早く外したいと思っていたのだ。


(どうせ今は何の危険も無さそうだし、別にいいわよね?)


言われて着けるようになった経緯を思い出し、一瞬だけ躊躇したが状況的に問題無いと判断すると、何とか言われた物を揃えることが出来た事に安心し、再び馬屋へと戻っていった。


「布はどんなものか分らなかったから、とりあえずこれを持って来たのだけれど、良かったかしら?」


「ああ良い。これを剥け」


ゼロは腰に差していた短剣を取り出すとジャガイモと一緒にローレライへ手渡した。ローレライは皮を剥く係りのようだ。

自身はと言えば、布の端を軽く噛むと慣れた手付きで同じ幅に裂き始めた。

それを3枚程作ると1枚を折り畳んだ。


「貸せ」


そう言われて剥き終わったジャガイモを渡すと、ローレライが居ない間に見つけて来たのか粗目の石を持ち出し桶にすり下ろす。

小麦とビネガーをそこへ混ぜ合わせると短剣で折り畳んだ布に均等に薄く延ばして行った。


「足、押さえていろ」


痛めたジュリアスの足を少し持ち上げると、ゼロが患部に薬を塗った布を押し当て残りの布で後は巻いて行く。


「暫く繰り返せば治りも早い」

 

ローレライは感嘆した。


「凄いわ!」


手を叩き無邪気に喜びを表すと、満面の笑みを浮かべてゼロに抱き付いた。

それは感謝の意を表していつもするローレライの大らかな表現だったのだが、ゼロはそれに対し少し難しそうな表情をしていた。


ゼロは自分の胃の辺りに何か柔らかいものを感じ、眉を顰めた。


「…………」


ふにゃりとした柔らかな感触と、先程告げられた言葉。

それが何だったのかは直ぐに気付いたようだった。


「……お前、本当に女だったんだな」

「ありが……、えっ!?」


抱き付き、ローレライがお礼の言葉を口にしかけると同時に重ねられたゼロの声。

告げられた言葉があまりにも突拍子のないものだったので、一瞬固まってしまった。


そして冷静になろうと発せられた突然の言葉を大急ぎで整理する。

するとある事を思い至り、ハッとして顔をあげた。

ゼロは依然として無表情のままだったが、ローレライは真っ赤になりながら直ぐに手を離すと、一歩二歩と後退をはじめた。

今は縛ってあった布も外していて胸に何の枷も無くなっている。


「……あ、あの……、ごめんなさいッ」


蚊の鳴くようなちいさな声で呟くと、ローレライは顔を上げることもままならず、そのまま後ろを向くと一目散に馬屋から飛び出して行った。

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