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第6章4

フリードルは宿屋内のシド部屋を訪れていた。

理由は言うに及ばず、主ゼロの胸中を話す為だ。

切々とシドに主の想いを語ったフリードルは、とりあえは皆で協力し合い全面的に擁護すると言うで形で一時的にと言う事だったが主の同行を容認してくれた。

主からしてみれば、それでは不満かもしれないが、とりあえずはそれでしばらくは一緒に行動できる。

後の事はまた状況に応じて考えて行けばいいと判断した。


「これ以上我等に守られるなんて、ゼロ様は嫌がられるでしょうけれどね……」


「あいつに簡単に剣を抜かせる訳にはいかない。分かるだろう?」


「勿論です」


出来る限り我等の行動に主ゼロが関わっていると言う事を知らせてはならないと言う意向は上層部全員の認める所だ。

主ゼロの主な行動については主を含む上層部5名にその決定権がある。

メンバーはこの他に後2名。

今回の場合、主の希望がある為我等2人の了承が得られれば過半数となる為この提案は認められるものとなる。

我等は今まで、主の掲げる目的に賛同をし、共に行動をして来た。

勿論全てが我等の願い道理にとはいかないが、我等が主にこの先も、何があってもついて行くと言う思いだけは変わる事は無いだろう。


「本当に書状を手にした途端簡単に『サトランゼに行くぞ!』だろう? 参った。全く寝耳に水の話だったからな」


「すみません。まさか私もこれ程までに大掛かりなものになるとは当初思ってもおりませんでしたので……」


「いや、お前は悪くない。ようはあいつの自覚の無さが問題なんだ。アイツは自分の存在が、どれだけ周囲に大きな影響を与えるか全く分かっていないからな。我々の背後に今あいつがいる事が公になれば、宰相殿やザビーネ様も無事では済まされないだろう事をあいつは全く考えていない。考える必要が無いとまで言っている。だが、そう言う訳には行かない。おまけにあいつ、自分が王位継承権保有者である事すら殆ど自覚していないんだぞ」


「3位なんて無いに等しいと言うのが昔からの口癖でしたからね」


「俺にその地位があれば、今頃自らが率先して我王を叩きに行っていたがな」


「シドならやりそうですね。後始末だけ周りに任せて」


「だろう?」


二人は笑い合って、その場は何とか和やかに話を終えた。




その後、フリードルは部屋へ戻ると今後の計画を配下の者と詰めていた。

そこへ再びシドも自らの配下の者を引き連れて現れた。

どうやら今後の計画を練っているようだ。


「市の方はこちらで探りを入れよう。おらく何も出てこないと思うが、もしもと言う事もある」


「お願い致します」


「では一番怪しいのは門閥貴族になりますか?」


「希少価値の高い血統馬を欲しがっている連中が、山ほどいるのは確かだな」


「そちらは私達が。城中で馬の飼料を扱っていた者を良く知っておりますので、そちらから探りをかけてみます。他の屋敷の者とも交流があったようですから」


「頼む」


「ミゲルは血統馬を持つ王室と縁のある屋敷の調査を頼む。他に額に三日月の白斑を持つ1歳未満の仔馬がいる屋敷を探し出してくれ。最悪の場合囮に使わせて貰う」


「承知致しました」


使命が決まると黒衣の男たちは各々部屋から去って行った。


店に居た3人の黒衣の男達。

後で呼び出された2人はシドが正騎士団の団長をしていた時の配下の者で、ミゲルと呼ばれていた男は先にフリードルと店から出て行った男だ。フリードルが近衛騎士隊の総隊長をしていた時にサビエルと共に配下に加わっていた者だった。


我王に異議を唱え王城から去って行った多くの中級以下の騎士たちは、絶対なる指揮官と共に在る為に、自分の信頼できる各々の上級騎士の下に集まっていた。




ローレライはサビエルに護衛されながらルシオン、ランドンと共に宿の前まで帰って来た。


「私ジュリアスの様子を見て来るわ。お兄様たちはお部屋で休んでいて。サビエル、良いかしら?」


「お供致します」


そう告げるとローレライを伴いサビエルは馬屋へと向かった。



早くに着いた事だし、最近語らう事もままならなかったから今日はジュリアスの世話をしてあげたいとローレライは意気揚々としていた。


ジュリアスの姿を見つけ、声を掛けようとしたその時、ローレライの目に黒い外套を引っ掛けた男の姿が映った。


「……誰!?」


ローレライは少し目を細め、怪訝そうな面持ちでその男を見つめている。


(知らない男だわ。如何しよう……)


フリードルが言った注意事項が何だったのかを必死に思い出し、仕草にも気を付けようと心掛ける。


(男のふり、男のふりよ、ローレライ!)


心の中でそう唱え、大きく息を吸い込み言葉を口にした。


「何をしている!」


少し声のトーンを低めて話してみた。緊張しすぎて紅茶を飲んだばかりだと言うのに喉がカラカラだ。


「これは、お前の馬なのか?」


「そうだ」


「本当に良い馬になった……」


目を細め、ジュリアスに手を伸ばしている姿に声を荒げた。


「ジュリアスから離れて! サビエル、この者をッ」


そう叫びながらサビエルを振り返ると、その場で傅いて頭を垂れていた。


「サビ……エル!?」


辺りを見渡せば、先程フリードルから馬屋を任された者も同じように頭を垂れていた。


どう考えても周囲の様子が尋常でない状況はローレライにでも理解できる。

訳が分からず当初神経をとがらせていたが、どうやらこの者は……敵視するべき人ではなさそうだ。

少し冷静になりジュリアスを見てみても、見知らぬ男に触られる事を全く嫌がるでもなく、それ所かむしろ、自ら親しげに擦り寄っているようにさえ見受けられる。

ジュリアスが自分以外の者にここまで懐いている姿を、ローレライは未だかつて目にした事が無かった。


「あなた……誰なの?」


もう心の中で唱え続けた言葉は忘れていた。

大きな瞳を見開き、素に戻ったローレライは不思議そうに首を傾げる。

男は振り向くとフッと鼻で笑った。


「ゼロ。エルの友人」


「エルの……友人?」


かすかに微笑を浮かべた端正な顔立ちの見知らぬ男。年にして20代後半だろうか?


ローレライは向けられた漆黒の髪に彩られた薄紫の瞳の中に、一瞬にして引き込まれそうになった。

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