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第5章6

翌朝、宿屋の息子サビエルは、馬の背に各々が手にしていた荷物を括りつけると、元上司エルとその友人達へ引き渡した。


「では、私はこれで。計画通り事が進みますように今から彼のお方の所へ赴き、今回の事案についてご指示を仰いで参ります。トランゼでお待ちしておりますのでお気をつけていらしてください」


「ああ。お前も気をつけて行けよ」


「有難うございます」


そう告げ栗毛の馬に騎乗すると、サビエルは瞬く間に去って行った。




4人はその後宿の主人に見送られ、本日滞在予定のナグラへ向かって出立した。


今回は皆に迷惑をかけないようにとローレライは喉の渇きを覚えたら早めの小休憩を取る様に心がけていた。昼食までに二度程水分補給の為の小休憩を取らせて貰い、昼食の為の休憩場に着いた時刻は予定よりも少し下がったが、昨日ほど身体を休めなくても今日は大丈夫そうな気がした。


「そうだな。ローレライの体調が良いのであれば途中で軽い休息もしているし、早めに出立しよう。ただ、午後からも無理はくれぐれもするなよ。要所要所ポイントは押さえてあるからきつくなる前に言えよ。手ごろな影場で休むから」


「有難うフリー……、エル……」


「ああ」


「ねえ、ここでも……、4人だけの時もエルって呼ばなきゃダメなの?」


「トランゼの街に着いたらエルの呼び名が横行する。もう日が無い。少しでも慣れておかないと咄嗟には呼べないだろ?」


確かに……。


でも、何だかとっても変だ。

フリードルは何故名前を隠さなければならない事を仲間としているのだろうか?

如何言う目的があるのだろう?

父からの書状を預けられる人物も知っていた。

聞きたいことは山のようにあるけれど、今はまだ聞いてはいけないと言う事だけは分かる。


時折表情を変えながら難しい顔をしているローレライを見て、フリードルが付け加える。


「今は色々考えなくて良いから。エルは愛称とでも思ってくれればいいし。唯、分かっていると思うが、私をフリードルと見知って名を呼ぶ者にまで、エルとだけは呼ばないでくれよ。その時々で使い分けてくれ」


「えーッ、そうなの?」


「『そうなの』って、お前……」


「何だかややっこしいなぁ。面倒くさッ」


「大丈夫です、エル様。言うだけで、本当は分かっていらっしゃいますから」


「……確かに。ルシオンはそう言うタイプだよな」


フリードルがルシオンにとりあえず『すまん』と苦笑いした。




今日滞在するナグラはとても小さな町で、きちんとした宿屋は存在しない。


周辺の町にも宿は無く、辛うじてこの町が自宅の一角を間貸ししているような民家が点在しているのが救いだった。

馬は家主の家畜小屋の一角を貸してもらい置かせて貰うことになった。


「この部屋で4人はかなり狭いぞ」


ルシオンが呟く。


一人がやっと寝られるようなソファーのようなベッドが両脇の壁際にあるだけで後は人が通れるスペースがあるだけだ。

毛布は人数分貸して貰えるから残りの者は床に寝る事になる。


「私は良い。小屋で馬の監視をするから後は皆で決めてくれ」


そう言うとフリードルは毛布を持って出て行った。


「ベッドはお二方でお使いください。私は何処でも寝られますから」


当然のようにランドンか申し出ると、ローレライが申し訳無さそうな顔をする。


「私のせいでこう言う事になっているのに、その私がベッドに寝る訳にはいかないわ。それに私は厩舎でだって平気で寝れるのよ。床でだってきっと大丈夫だわ」


「そう言えば子供の頃何度か遊び疲れてレライとそのまま厩舎で寝ちゃった事あったよね。懐かしいなぁ。たまにはそう言うのも楽しいかもな。うん」


ローレライがそう言えば、ルシオンも色々と昔の事を思い出したようで、明らかに声が弾んでいる。


「お嬢様、お願いですからそのような事は言われないで下さい。この流れで行くと昔を懐かしんで床か小屋にでもご自分も寝られるとルシオン様は言い出しかねません」


昔話を熱弁するルシオンを見つめながら耳打ち際でこっそりとランドンがローレライにそう告げる。

確かにルシオンならば言い出しそうだ。


「あっ、そうだ。俺達も一緒に小屋で寝る?」


来た来た来たーっ。


「お二人が床や小屋で寝て私が一人でこの部屋で? 有り得ません!」


「違うよ。フリードルを呼び戻せばいい。俺はレライと小屋で……」


「エル様です! それから馬鹿を言わないで下さい! 何の為にエル様が小屋にいらしたと思っておられるのですか?! それにルシオン様を差し置いて何故私がここなのですか?」


「そっかぁ。駄目かぁ……。なら、俺と……ランドン?」


「無理です。私は夜盗に再び襲われたとして、五月蠅く騒ぎまわるルシオン様と恐れをなして嘶く馬達を守りながら戦う自信はありません。それに兄妹同然と言われましても婚姻関係が成立する年齢の若い男女が二人で一つの同じ部屋と言うのは不味いでしょう? お願いですからこれ以上事を大きくしないで下さい。昔を懐かしむのは構いませんが、ならばそれはこの部屋の中でして下さい!」


「……では、俺が床?」


「違うでしょう! 馴れないベッドで今朝も背中が痛い等と仰っていたのにルシオン様が床になど寝られますか?!」


「でも、レライにだけ床に寝せる訳には……」


「はぁ――っ……」


頭を抱え、ランドンが大きく息を吐き出した。


「……ローレライ様。お願いですから私を助けると思って速やかにベッドをお使いください。ルシオン様が治まらなければ私は今夜、床ですら休めません!」


ローレライは単に自分の周りで起こった事が原因でこうなった訳だから心苦しく思い、床で寝ると言い出しただけなのだったが、別に絶対にベッドで寝るのが嫌と言う訳では勿論無かった。

まさか『床で寝ます』の一言で、話がこんなに膨らみランドンを悩ませる結果になるとは夢にも思っていなかったのだ。


「……ごめんなさい。私の我儘でした……。お兄様、一緒に今夜は昔話でも楽しみましょうね?」


「あっ、うん。レライがそれで良いなら……」


「有難うございます」


安心したようにホッと息を吐き出し深々と頭を下げるランドンに、ローレライは大きく首を横に振った。

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