また会えるその時まで
僕は目が覚めたらすぐに、ある場所を目指していた。こちらにやってきて初めて感動した、あのオブジェを目指したのだ。都会の街中にたたずむそのオブジェは、酷く目立っていた。どうしてあんなところに設置したのかは知らない。けれど、全ての物事に理由があるわけではない。いや、恐らく確固たる目的はあるのだろう。何かの記念碑とか。そういう意味はあるのかもしれない。だが僕からすればどうでもいい。そんな上辺だけの存在理由は、友人だけでうんざりである。
時間にしておよそ三十分後。僕はオブジェの前に立っていた。通行人はまるでこのオブジェを、邪魔者のように扱い、そして避ける。奇妙なオブジェだと僕は思う。同時に可哀想だとも思った。冷たい――僕はオブジェに手を添える。誰かに触れてもらうためのものではない。しかし、それでも僕は手を添えてあげるべきだと思ったのだ。
オブジェは――彼は、唯一無二の存在。僕が保証する。彼には代わりがきかない。だからもっと堂々としてくれ。彼は僕とは違う。世間がオリンピックで騒いでいようが、テロリストが国内で暴れ出そうが、彼だけは依然としてそこに居続ける。下らないとか楽しそうとか、そんな感情は彼にはない。
だから僕とは違うのだ。いや――もしかしたら彼は既に、時代の流れからおりてしまったのかもしれない。そうか――彼は可哀想なんかじゃない。悠悠自適に街を、山を、海を、渡り歩いているのだろう。だとしたら彼は、素敵じゃないか。
僕は彼にそっと口づけをして、その場から立ち去る。もう二度と僕は、彼に会いに来ることはないだろう。理由は簡単だ。何故なら彼はもう、ここにはいないのだから。
また、会おう。ここではないどこかで、また会おう。




