表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東京ぼっち  作者: kuga
1/5

始まりのファンファーレ

 スーツケースを引き摺るのは僕。地下鉄の地図をポケットに入れて、僕は迷宮からの脱出を試みる。おろしたてのスニーカー。あれだけ高価なモノを買ったのに、早くも靴擦れを起こした。頼りない。やはり値段と実用性は必ずしもイコール関係にあるわけではない。


 思い出す――積み重なった段ボール。この世には捨てがたいものが多すぎる。そしてまた、後には引けないことも同じようにたくさん。サヨナラをタダイマに変えたくはない。だからこそ僕は歩くのだ。蜂の巣のような街――それは東京。スーツ姿の彼らが働き蜂だとしたら、この僕はいったい何になるのだろう。いや――僕はまだ成虫ですらないのかもしれない。


 柔らかで一人じゃ何も出来ない。それが僕。そうだ、幼虫とでも言っておこうか。甘くて美味しい餌に食らいつくことしか出来ない僕。何とも情けない。


 けれどもう、僕は提供される側にはいない。自らの足でここまでやってきたのだ。しかしどうすればいい。荒れ狂う人の波。希望と絶望が同時に顔を出すおかしな世界。僕は右を見たつもりでもその実は左を見ていて、這い上がっても引き摺り下ろされる。矛盾が街中を闊歩している。そうだとしたら僕は、何をどうすればいいというのか。臭い物に蓋をする法則は通用しない。いや、もしかしたら臭い物はこの僕のことを指すのかもしれない。


 ああ、困った。僕はどちらに行けばいい。夢が悪夢へと変わる東京。どこもかしこも美味しそうな匂いが漂っている。世間知らずを誘い、そして罠にかける。蜘蛛の巣よりも複雑で、けれども絡まった毛糸よりも単純。「そんなに甘くはない」と、どうして誰も言ってくれなかった。僕は僕に問いかける。もしそう言われたとしても、僕は恐らく「そんなに厳しくはない」と言い返していたはず。だとしたら悪いのは僕の方だ。


 トウキョウ――僕は君を一生愛す。

 トウキョウ――僕は君を一生恨む。

 トウキョウ――僕は君を、一生羨むだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ