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Fantasy with O3  作者: 砂海
7/18

ラジオ体操第一

 一応、少々の寝坊で済んだかもしれない……嘘です。ごめんなさい、ごめんなさい。んで、今は昼近くで、ヒヨの上。

 

「なぁ、お嬢ちゃん、もう筋肉痛は、落ち着いたかい?」

「ぐっ…そ、そこそこ大丈夫です」

 

 そこそこも、大丈夫じゃない。筋肉痛に筋肉痛を重ねていって、体が復調してんだか悪化してんだか、さっぱり分からない。

 

「あのよー、次の町を出た後辺りが、やべぇんだと。そろそろ訓練を始めといた方方がいいと思うぜ」

「その情報は、どこからだ?」

「そりゃぁ~、ひ・み・つ」

 

 おっさん、人差し指を口元につけて、首を傾げるな!

 

「どうせ、昨日の女からだろ。分かってて聞くな」

 

 あぁ、なるほど。流石だ、エッチぃ事だけじゃなく、情報までゲット!まるで映画に出てくる某諜報部のおっさんみたいだ…って言うと、カッコよさげだが、首を傾げてひ・み・つと来ると……やっぱり、カッコいい人というのは、映画の中だけなんだろうかと思ってしまう…嫌だなぁ。

 

「サミ殿、体が楽になってからで、十分ですから」

「ローラン、魔法使いの所為で、山から山賊達が各地に引越しやがったらしい。少しでもやっとかねぇと、マジやべぇって」

 

 ローランさんが何か言う前に、あたしは頷いた。また、筋肉痛が増えるんだろうなぁ。頑張れ、あたしっ!

 

 

 

 

 

 

 本日の野宿は、結構広い空き地。他の旅人さん達も、そこかしこに、自分の場所を作っている。

 

「さぁて、食後の運動を始めるぜぇ」

「体を解しておけ」

 

 フレデリクさんの言葉に一つ頷いて、ラジオ体操を始める。日本の学生の基本だね。小学生の夏休みに洗脳される、あれ。未だ、第二体操まで、しっかり体が覚えているヨ。

 

「…それ、何だ?」

「ん~?あたしの国では、誰でも知ってる体操」

 

 腕を回す運動。

 

「へぇ~」

 

 げっ、マネすんなっ!!ファンタジーな格好したおっさん達が、ラジオ体操をしているとこなんか見たくないっ!

 

「街で、流行っているのですか?」

 

 あぁっ!旅商人風味のおっさんまでっ!

 

「僕もまぜてぇ~」

「あたしもぉ~」

 

 はうっ!!家族旅行者までっ!!

 夏休みのラジオ体操に、どんどん近づいて……、ファンタジーから、どんどん遠ざかっていく。頭の中には、綺麗な発音の●HKアナウンサーの声と例の曲。あ~、カードとスタンプは、用意しなくちゃいけませんか?

 

「お嬢ちゃん、これいいな」

 

 前に三回、後ろに大きくぅ~。

 

「毎日やるか」

 

 腕を上下に伸ばす運動…もう、ファンタジーは消えたヨ。

 

「サミ殿、城の者に教えても構いませんか?」

 

 腕を振って、足を曲げ伸ばす運動…城ん中でラジオ体操?

 

「曲……付いてるよ……これ…」

 

 大きく深呼吸。せめて、お姫様だけはやめて下さい。

 

「歌えるか?」

「歌詞は…ないです…」

「鼻歌でいいんじゃねぇの?あいつらなら、それでなんとかすっだろ」

 

 ファンタジー世界に、ラジオ体操進出。しくしく、考えなしの行動は、ろくな事が無い…って、これだ。絶対これだ。自分で、好きな世界観壊してどうする?

 これで、終わりだと告げると、ラジオ体操参加者は、ばらばらと自分達の場所に戻って行った。なかなか好評なのが、かなり悲しい。準備運動で精神力を根こそぎ奪われて、この後大丈夫だろうか?

 

 

 

 

 

 

「持て」


 手に渡されたのは、結構長めの棒。両端に、金属なモチーフ付き。

 

「持ち方は、こうだ」

「えー、何でディックぅ~?どう考えても、お嬢ちゃんのタイプは、俺方面だろうがぁ~」

「ローラン」

 

 駄々こねている、そうとしか見えないファビオさんを無視して、フレデリクさんはローランさんを見る。

 

「確かにそうだが…」

「俺達が、監視すればいい」

「……仕方が無い。

 ファビ、サミ殿に失礼な事をしたら、即座に切り捨てる」

「へーへー、安心しろ~」

「出来ん」

 

 ファビオさんの言葉を、無条件で切って捨てたよ。うん、まぁ、普段の行いが悪すぎるんだろうなぁ。

 

「じゃぁ、適当にやるぞ~」

 

 気合なんか、一切入らない台詞。

 

「お願いします」

 

 でも、一礼。

 

「最初に、持ち方な」

 

 ニンマリ笑った笑みに、覚悟を決めるべきだった。えぇ、片手剣部門優勝者という肩書きは、戦いに気合の入った愛があるという事だと気づかなかった、あたしはお馬鹿です。はい…。

 持ち方から始まり、各種構え、基本動作、そして、それを繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、……。

 それだけで、すっげぇ時間が過ぎた…と思う。こっちの時間の流れは分からないけど、あたしの腕時計は、3時間近くの経過を示していた。

 

「生きているかぁ~?」

 

 声が出ない。手を横に辛うじて振った。

 

「サミ殿」

 

 目の前に出された水に、のろのろと手を伸ばし、ゆっくりと飲む。誰か、酸素下さい………。

 

「腕力を付けろ」

 

 あー、確かに。ないよねぇ、あたしの腕に筋肉…。

 

「当分、毎日これだけな」

 

 一瞬恨みがましい視線を上げそうになったけど、うん、それは出来ない。とりあえずコクコク頷いた。

 

「……読める…か…な…」

 

 キャンプみたいに、真ん中に明かり用の火が焚かれていて、野宿にしては、結構明るい環境。

 ここは、一応野外。物騒なんで、こういう人が集まる場所には、一晩中火が絶えないんだそうだ。使った木は、ちゃんと使った人が集めて端っこに集めておく。いい感じの習慣だと思った。

 ついでに、本ぐらいは読めそうな所が、もっといい。普通の野宿じゃ、暗くて読めないからね。

 あたしは、間違いなく活字中毒患者で、物凄い愛が本にあったりする。だから、ローランさんに我侭を言いまして、文字も読めるようにしてもらってしまった。そして、城にあった図書室で本を漁った。すっごい楽しかったぁ~。そして、そして、一冊だけ本を借りてきました。

 

「サミ殿、本を読まれるのは、宿に泊まった時だけにした方がいいと思いますよ」

「続きが…気になって…」

「何だ?本って?」

「お城から、小説を借りたの」

「タイトルは?」

「パームルのティジェ!」

 

 すっごく美人でカッコいいおねぇさんが、主人公。城の騎士様の筆頭で、なんくせ付けて攻めてくる敵をばったばった!今日もらった武器が、主人公ティジェさんと同じ棒だったのが、すっげく嬉しい。

 

「あー、俺もそれ読んだ。あれよぉ~、ぐっとくるよな~。最後の…」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!黙れぇぇぇぇぇぇっ!

 あんたは、図書館の推理小説本の中扉に犯人の名前を書く、嫌がらせ小僧かっ!」

 

 ボカスカ叩きたいのに、棒をひょいひょい避けやがる。

 

「逃ぃげるなっ!」

「当たったら、いてぇじゃねぇか」

「当てたいのっ!」

「俺、痛いのやだもん」

「もんじゃないっ!

 むぅ~、ローランさんだって、酔ったフレデリクさんだって、親切に殴られてくれたよっ!」

 

 うん、こんなへっぽこ初心者に、いくら喧嘩最中だからといって殴られる訳が無い。今日あたしがやった地味な基本訓練を毎日毎日、何十年もやってきた人に、それは失礼ってもんだ。

 

「親切だろぉがぁ~」

「どこがっ!」

「いい訓練じゃねぇか」

「むかつくぅ~~っ!!」

「げっ!ローランっ!」

 

 親切なローランさんは、なんとファビオさんを拘束してくれた。ありがとうございます。一礼。

 

「ずっりぃ~」

「大丈夫!あたし、腕力ないから、全然痛くなぁい!」

 

 棒を持った手を振り上げる。基本動作には、忠実に。

 

「んで、続きを絶対言わないと誓えば殴らないけど、どうする?」

「ん~~52点」

 

 拘束されたまま、手首だけ捻って、あたしを指差す

 

「手首ぐらついてる」

「今、持ってるだけで精一杯!それ、考慮して」

 

 立ってるのも、しんどいぞ。

 

「仕方ねぇなぁ。じゃぁ、読み終わったらな」

「うん」

 

 体の力が抜けた。膝が抜けた。あぁ~っ、お風呂にゆっくり浸かりた…い。そうすれば、筋肉痛も、少しは和らぐのになぁ。

 

パムールのティジェ。昔あたしが書いた、オリジの話を読んだという稀有な方は、ニヤニヤして下さい。


ラジオ体操って、今、学校でやらない所多いようです。

ううむ(´・ω・`)でも日本人なら知ってるよね?だめ?

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