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Fantasy with O3  作者: 砂海
2/18

二人目と三人目のおっさん

 ケンタッキーが言うには、魔法使いを捕らえて欲しいとの事。

 魔法なんつーもんは、消えたって言ってたのにも関わらず、魔法使いなんつー言葉が出てきた。術ってのも魔法にしか見えないけどね。

 術の説明は、さっぱり分からなかった。理解したのは、人間が持っているものに対してしか働きかけられないという事。でも、それなら、あたしをここに運ぶ事が出来なさそうなのに…それも説明してもらったけど……理解不能。とりあえず、存在も人間の中にあるらしい…さっぱりだ。

 んで、本題。

 突然現れたと思われる、その魔法使いのせいで、ありえない時期に雪がふったり(作物が全滅したせいで、お百姓さんが泣いて訴えに来たとか)、山の一部が焼失したり(その山は、山菜が豊富だったらしい…当然ダメになったのだろう)、突然の突風が吹き荒れたり(家や田畑が悲惨な目に)、激しい雷が数日に渡り落ちたり……天変地異のオンパレードを引き起こした。

 確かに国を治める王様としては、ほっておけないだろう。国土が荒地になったら洒落にならない。でも、魔法使いが居るからと言って、軍が動いたら、折角今の所平和な日々をすごしているのに、戦争なんつー非生産的なものが始まりかねない。軍は、絶対動けない。

 なぜなら、この国は、隣の国と仲が悪い。んで、魔法使いが居座っているのが、隣との国境近くの山ん中。誰もその魔法使いは、見た事が無いので、もしかしたら魔法使いは、自国の者じゃないかもしれない。

 ケンタッキーは優しげな表情を曇らせて、魔法使いは隣国が戦争をしたいが為の布石だと考えたら、一層手を出せなくなったと……なるほどと、感心をした。この王様は一応戦争がしたくないらしい。良い事だと思う……思う……思うけど、それで勇者を召還したってどうよ?しかも、その勇者ってのがあたしだよ。まったくもって一般市民。平均的な外見、平均的な頭、ついでに運動神経も平均的……激しく使えない。

 ファンタジー小説を愛好し、ファンタジー系RPGを嬉々としてやるあたしとしては、完璧な人選ミスとしかいい様が無い。あれか?結構終盤戦で、レベル1のあそび人を入れた風味?一応よくあるネタの一つ、魔法を覚えちゃうという王道な技を考えて、ローランさんに聞いたんだけど……才能というか、もって生まれたモノがゼロだそうで……情けないよ、あたし。役立たずだ。

 

「勇者殿…」

 

 もう、ケンタッキーは居ない。

 さっき掌を重ねてしまった理由と同じ。頼まれたら断れない根性なしの性格が災いして、魔法使いとやらに会う事を承諾しちゃいました……ケンタッキーは、それだけ聞いて、ほくほくと自分の仕事に帰っていっちゃったヨ。

 今現在あたしは、自業自得という言葉をかみ締めている最中である。

 

「えっとですねー……あたし、使えないですよ」

 

 なんと、三百年前の書物に、同じ制服を着た女の子の絵と、その子の詳細、そして召喚術の内容が書かれていた。術なんか、さっぱり分からないけど、名前、学校名、そして趣味の項目を読むに至って泣きそうになった。何がどうなって、ここに書かれているんだか分からないけど……間違いなく……これあたしだよ……何で?しかも勇者サミって書いてあるし……何やったんだ?あたし…らしきやつ??

 

「頭も並、運動神経も並……足引っ張るんだったら、保障出来ますけど~…」

 

 ローランさんを見れない。無責任に何でも引き受ければいいってもんじゃないよねぇ…あたし。

 

「……行きます……頑張ります……でも………ごめんなさい」

 

 俯いたあたしの視線の中に、あの固そうな手が現れて、あたしの手を握った。

 

「勇者殿、貴方だけではありません。私と他に二人、この国の騎士がご一緒致します」

 

 顔が、あげられない。

 

「勇者殿、私共の我侭な願いを聞いて頂けた事に、心からの感謝を。本来であるなら、私達がしなければならぬ事。どうか、ご負担に思わないで下さい」

 

 無理だ。

 

「ちょっとした旅行だと、思って下さいませんか?」

 

 その少し、笑みを含んだ声に顔があがった。

 目の前には、おっさん。どう転んでも、すっげー年上のおっさんが、こんな子供のあたしに丁寧に丁寧に言葉を紡いでくれる。うん、そうだね。せめて足を引っ張らないよう、迷惑だけはかけないようにすると言いかけ開いた口が…豪快な音をたて、突然開いた扉に開きっぱなしになった。

 おっさんが、増殖したヨ!

 

「よぉ、邪魔しちまったかぁ?」

 

 ニヤニヤしたおっさんが一人。琥珀色の瞳、緋色より暗めのぼさぼさの髪の毛、同じ色の髭が口元と顎を覆っている。ローランさんに比べて細身だけど、ちゃんと剣士だって分かる装備をしたおっさんが、だらだら入ってきた。

 

「勇者は?」

 

 入ってきたおっさんに対し、非常~に機嫌の悪そうなおっさんが、もう一人。碧眼、ざく切りの短い金髪、顎に無精髭、上半身は鎧を装備せずに、下着?を着て下半身は、がっちり装備、槍を担いだままのおっさんが、入り口で冷ややかな視線を送っていた。

 

「お嬢ちゃん、ローランは、まぁ悪かねぇけどよぉ面白くねぇぞ。真面目なやつに飽きたら俺ん所に来な。両手広げて待ってるぜぇ」

 

 お、お、頤に手を添えられたなんつー漫画の中のような状況に、すっごいなと思いながらも、硬直。これが、ナンパっていう行為ですか?ってか、普通おっさんが、ナンパするか?おっさん年齢で、そんな軽くてどうする?と…あたしの歳で言うのは、失礼…だろうなぁ……。年長者には、尊敬をと教育したおかーさん、この相手にも当てはまりますか?

 

「ってぇっ!ディック、何しやがるっ!」

 

 不機嫌なおっさんが、槍でナンパなおっさんの頭を掃った。そして、ナンパなおっさんと槍のおっさんの戦いが始まった。何で?

 

「勇者は?」

「ディック、お前の頭も殴れ」

 

 突然ぞんざいな口調に変わったローランさんは、剣を抜き槍のおっさんに切りかかる。

 

「何だ?」

 

 剣×2と槍を交えての会話。傍目には、戦っているようにしか見えない。なんつー物騒なおっさん達だ。というより、大人気ない…おかーさん、本当に尊敬するべき??

 

「あの~」

「お嬢ちゃん、これからデートにでも行くか?」

「馬鹿者っ!その方が勇者殿だっ!」

 

 ローランさんの剣が、ナンパなおっさんの横っ面を叩いた…んだと思う。ナンパなおっさんは、まじまじとあたしを見ながら吹っ飛んだ。器用だ。

 そして……不機嫌なおっさんから、激しく痛い視線を感じる。生まれて初めて、視線って痛く感じるんだって知った本日。チクチク刺さってるヨ。もんのすごぉ~く値踏みをされてる?

 

「え~、不束者ではありますが、せめて皆さんの足を引っ張らないよう頑張りますので、すみません……ごめんなさい。よろしくお願い致します」

 

 こちらで通るか分からないが、とりあえず日本人らしく深々と一礼。そして恐々と顔をあげた。

 

「ローラン」

「何だ?」

 

 うわっ、返事するローランさんの目つきが怖いヨ。

 

「どこに行く?」

「ヴァートとの国境、ラルム山」

「へ~、魔法使い退治って訳か」

「退治じゃない。捕らえるだけだ」

 

 仲良しなのかな?おっさん同士で仲良しって、妙に似合わない形容詞な気がするけど…、ローランさん、非常に言葉がざっくばらん。態度もざっくばらん。感情駄々漏れ。さっきまでの落ち着いた物腰はどこへ行った?

 

「勇者は、建前か?」

 

 ローランさんの眉間に、大量の皺がよる。建前?

 

「相変わらずの腹黒さだな」

「だがよぉ、俺達は言い逃れ出来ねぇよな?」

「ものは言い様だろ」

 

 不機嫌なおっさんがそう言った瞬間、ローランさんが剣を抜き再び戦いが始まった。会話で話を進める気ゼロ……でも、見ごたえはある。間近での剣技。豪華特等席まん前。あたしは、床に体育座り。まるでテレビを見るがごとく眺めていた。とりあえず直前の会話の内容は保留。腹黒…非常にいやぁ~んな感じ。

 

「お嬢ちゃん?」

「馬鹿者っ!勇者殿だと言っただろうがっ!」

「や、でもお嬢ちゃんじゃねぇか」

 

 何であんなに剣を振り回していて、こんなのんびり?とした会話が出来るんだろう?

 

「なぁ、ディック」

「俺を巻き込むな」

 

 また、この不機嫌なおっさんが凄いんだ。この人、二人と違って非常にやる気が無い。二人が攻撃してくるから、仕方がなく対応しているという風情。素人目には、二人がそれなりの勢いで攻撃しているように見えるのに、このおっさんときたら、面倒だという態度を一切崩さず適当にかわしているようにしか見えない。

 

「早く説明しろ。準備が要るだろ?」

 

 不機嫌なおっさんは、戦いながら視線だけであたしを指す。そうだねぇ。制服で長旅は出来ないだろうねぇ。交通機関は、どうなってんだろ?魔法で一瞬に運びますなんつー便利なもんがあればいいんだけど……大抵、最初は徒歩だよなぁ。馬車か人を運ぶ動物があれば、少しは楽なんだけど……一応王様に頼まれたんだから、有料って事は……腹黒って…だ、大丈夫だよねぇ?

 

「ローランっ!!」

 

 またもや派手な音を立てて、扉が開いた。でも、おっさんは増殖しなかった。

 眼福。すっごい美貌。まるで月の精霊のような女の人が、もの凄い勢いで入ってきた。

 

「うわぁ~ボン・キュッ・スラリ……」

 

 そう、思わず呟いてしまうほど、スタイルのはっきり分かる、防御力としてはいまいちそうな簡易?の装備をした女性。淡い金色の髪が綺麗に背後に真っ直ぐ流れている…まるでシャンプーのCMのよう…、そして怒っている空色の瞳、腰には剣?女剣士さん?でも、そんな無骨なもん全然似合わない。箸より重いものなんか持ったことなんかないのですわという、まるで月の精霊のような儚げなさかげん。あ、竪琴とか持たせたら非常に似合うと思う!

 

「ナデージュ姫」

 

 楽しげ?に剣を振り回していた態度を再び一変させて、ローランさんが胸に手をあて頭を下げている。

 姫って事は、あのケンタッキーの血を分けた娘さん…………よっぽどケンタッキーの奥さんは、美人さんに違いない。

 

「うざいっ!それ止めろって、何回言えば分かりやがるっ!」

 

 は?……………い?こ、この、こ汚い言葉使いは?何?何?何で、いわゆる鈴のやうな音声で聞こえるのっ?!

 

「それより、何でこいつらなんだっ!私を入れろと言っただろっ!!」

「以前より無理だと、何度も申し上げました」

「年功序列だよなぁ?」

「腕の序列だ」

 

 お姫様が、ギンッとローランさんの背後の二人を睨み付ける。美人が怒ると迫力あるって、本当なんだねぇ~。激しく怖い。

 

「という事ですので」

 

 ローランさんが、お姫様に、何かを手渡す。

 

「……ローラン」

 

 歯ギシリ音が聞こえたような…。

 

「どうか、勇者殿の為にもお願い致します」

 

 お姫様は、少しの間ローランさんを睨んだ後、「けっ!」と、信じられない返答をし、座り込んでいる私の前に来て跪いた。

 

「勇者殿」

「は、はいっ」

「すまない…」

「は?」

「勇者殿の手を煩わせる事になってしまい、本当にすまない」

 

 真摯な瞳が、まっすぐあたしを見ている。

 

「ここに居る奴等の人間性は、……まったく保障できない。というより最悪。いや、最悪なんてもんじゃないほど、最低で……」

 

 ま、また、歯軋り…。

 

「………………だが、腕だけは保障致します。いざとなったら、こいつ等を盾にして逃げて下さい」

「あの…」

「本当なら、私が同行しなければならないのだが……くそっ!ローランの馬鹿野郎っ!」

「現状で、隠し通せるものではないという事を、ご存知のはずですが」

「分かってる!チッ!!」

 

 あぁっ、また似合わない言葉がっ!語尾がっ!…なんか激しく悲しい。

 

「どうか勇者殿、そなたの命を最優先にし、無理をなさらぬよう。私は、何かあったら真っ先に駆けつけます。決して、そなたを捨石になぞしない。勇者殿の騎士として、ここに誓う」

 

 桜の花びらのような唇が、抜いた剣に口付けを施し、あたしに捧げられる。……困った、いくつかの本で読んだものは、それぞれ作法が違った気がする…ど、どれを実行すればいいんだ?

 

「お嬢ちゃん、受け取ってやれや。それだけでいい」

「嫌なら、無視しろ」

 

 おっさん二人の助言に助けられた。不機嫌なおっさんも、親切さん?

 とりあえず、捧げられた剣を受け取る。

 

「あの、ありがとうございます。

 でも…、あたしに、そんな価値ないですよ。だから、いつでも取り消していいですから。あの…今すぐにでも取り消し可能です」

 

 お姫様に不似合いな、かなり重量のある剣を返す。

 そして目の前に、それはそれは美しい綺麗な笑顔があった。

 

「勇者殿、ありが…っ!!」

 

 お姫様は、物凄い早さでローランさんに拘束されました。何で?

 

「ロ~~ランっ!」

「そこまでです」

「剣を受け取ってもらえた者として、当然の展開があるだろうがっ!」

 

 なんつーか、これ見よがしのため息?何で?

 

「これと、口付けをしたいか?」

「は?」

 

 不機嫌なおっさんの言葉、意味不明。

 

「この姫さんは、俺の上をいく女ったらしだぜぇ~」

「てめぇと、一緒にすんなっ!」

「いいえ、同じです」

 

 えっと、この話の流れは……、自然と足が後ろに出る。一番まともそうな不機嫌なおっさんの後ろへ、そろそろっと移動した。

 

「勇者殿ぉ~」

 

 あんなに綺麗なのに…。

 

「ナデージュ姫、用事は終わりましたね。どうか、ご自身の部屋に帰られるよう。

 潔さは、立派な騎士に求められる資質ですよ」

 

 またまたまた、すっごい歯軋り音。なんつーか、真珠のように可愛い歯が、ダメになっちゃいますよぉ~。

 

「勇者殿、今夜はこの城に泊まられるのであろう?

 ぜひ、私の部屋で、勇者殿の世界の話をお聞かせ下さい」

「勇者殿は忙しい故、それは不可能だと申し上げさせて頂きます」

「ローラン、お前なんかに聞いちゃいねぇよっ!けっ!いつかみてやがれっ!私がこの城の主になったら、一生こき使ってやるっ!」

 

 ローランさんにガンを盛大に飛ばして、あたしに麗しいとしか言いようの無い笑顔を振りまいて、優雅にお姫様は扉から消えていった。最後に、目礼した姿がまたすっごく綺麗だったヨ!……なんて、落差の激しい人なんだ。

 

「勇者殿、大変失礼しました。

 姫に悪気はないのですが……」

「あぁ、確かに無ぇなぁ。ただよぉ、あの女の子大好きって性格がなぁ…」

「お前と、同じだ」

 

 ローランさんの顔は、不機嫌なおっさんの暴言?に困った顔をしても否定はしない。…なんつーか、すっごく変なお姫様なんだねぇ。でもおっさん二人の口調は、あの王様を語るような感じじゃなくて、もっと親しげ。きっと、いいお姫様なんだろうなと思った。

 

 

ん~二話目投稿したはずなんだけど…どこに消えたのやら(´・ω・`)

おっさん増えました!

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