勇者沙美を召還した理由
「美味しいねー」
現在、素敵野宿の夕食中。昼間に立ち寄った、農家のおばさんから買ったなんかのお肉と、牛乳っぽい液体と、ほうれん草っぽい野菜と大根っぽい野菜のごった煮を食べている最中。
「っぽい」が多いのは、名前を聞くと脳内変換がされないから。きっと、あたのしの中で該当する物が無いと思われる。流石異界だよ。食べ物の名前が、ことごとく変換されない。もしかしたら地球上のどっかの言葉には、該当するのかもしれないけど、なにせ英語でさえほにゃらららなあたしの知識では対処不可能。結局、「っぽい」を使う事になる。
「なんか、ローラン……と、ディックさんのお嫁さんになる人って、すっごく幸せもの」
「えー俺はぁ?」
「だってファビさんは、原料は取ってきてくれるけど、料理はしないでしょ?」
「サミ殿」
ローランさんが楽しそうに笑っている。ディックさんの肩が震えている。
「ファビさん作の料理を、食べた事があるの?」
ファビさんは、むくれていた。おっさん、おっさん、年齢を考えて表情を作ろうよ。
「すっごい……どうだったの?」
「ご想像通りですよ」
「あーー不味かったんだ」
「あいつの部下が、どれだけ泣いたか」
「部下さん達に押し付けたんだ」
「自分から言い出したそうですから、ファビも食べたと思いますよ」
ファビさんを見る。あのファビさんが、眉間に皺を寄せて舌を出していた。そんなに不味かったんだ。でも、食べたんだ。偉いと言っていいんだろうか?それとも、部下さん達に迷惑をかけるなと怒った方がいいんだろうか?
「私は、突然大量に沸いた吐き気治療に、不眠労働を強いられました」
「ファビさんは……放置?」
「当然です」
あぁ~原因だもんねぇ。そりゃぁ仕方が無い。ローランさんの苦労の代価だ。
「あ、術士さん達ってお医者様なんだよね?」
「そうです」
「じゃぁ、魔法使いさん達は?」
「天候管理者です」
「は?」
「何だそりゃぁ?」
「そうなのか?」
ローランさんの言葉に、三人の返答が重なった。術士さんじゃないと、知らない事なのか?
「何で、ファビさんとディックさんも知らないの?」
「それは、故意的に伝えられなかったからですよ」
「えっと、言っていいの?」
「だからサミ殿、秘密ですよ」
や、言わないけど。ついでみたいに、おっさん二人が聞いているんですけど、もしかしてあたしの方がついでなのかな?
「具体的には、何をしてたんだ?」
うんうん、ディックさん、あたしも聞きたいヨ。
「農村に必ず一人は、魔法使いが居たと伝えられています。
日照りの時には雨を呼び、寒い夏には暖かい風を呼んでいたそうです」
「それって、魔法の力で雨を降らせたり、風を吹かせたりしていたって事?」
「そうです。天候管理以外だと、来年の為に畑を燃やしたり、害虫駆除ですね」
凄いぞこの世界の魔法使い!魔法使いっていうイメージから、ものすごぉく離れているぞ!!天変地異を起こすんじゃなくて、お百姓さんと一緒に畑仕事?
「そんな、アットホームな魔法使いさん達が、何で消えちゃったの?」
「消えたのではありません。ある時を境に魔法が使えなくなり、術だけが残ったそうです」
あ、魔法は無いって言っていたから、魔法使いさん達がいなくなったんだと思ってた。使えなくなったのか……でも、何で?
「えっと、術も昔からあるもの?」
「その頃にようやく確立され始め、研究が進んだ時期だと伝えられています」
「術士が、魔法使いを嫌って消したのか?」
物凄く物騒な話をディックさんは、さらりと言う。
「ディック、術士がそんな事出来る訳ないだろう?人間に害を及ぼす事は、不可能だ」
「なら、なぜ魔法が消えた?」
「流石に、そこまでは俺も知らん」
何が、あったんだろう?あれ?でも、あたし達の目的は魔法使い退治だよねぇ?突然発生しちゃった魔法使い。いったい、どういう事なんだろう?
「あれ?なんで、魔法使いさんは秘密なの?」
「魔法は、人間に害を及ぼせますから」
あ、あぁ~、天候を操ったり、火を起こしたり……それは、間違いなく危険だ。
「だが、腹黒は知っていたなぁ?」
「あぁ、漏れていたな」
ファビさんの言葉に、ローランさんが舌打ちをした。うっわ、ローランさんの舌打ち。物凄く珍しい。それぐらい、怒っているって事だ。
「えっと、術士さんなら誰でも知ってるお話?」
「いいえ、代々の術士長と副長以外、伝えられません」
……スパイですか?
「お嬢ちゃん、あらゆる文官職内部になぁ、腹黒の息がかかってやがる、出世欲バリバリのいやぁんな連中が混ざってるんだぜぇ」
ため息が出ちゃったヨ。
「嫌な環境だねぇ…」
「だろぉ~」
「ローラン……、そんな環境で……大変だねぇ」
もー、これしか言えない。
「あ、デュカス卿も、ご苦労が多いんだろうなぁ」
「それは、どうだかな」
「え?」
「あの、デュカス卿だぜぇ」
「えぇ、あの、デュカス卿ですから」
ディックさんと、ファビさんと、ローランさんが、三人して楽しそうに笑っている。
「あ~、楽しんでいらっしゃるのですね……デュカス卿さん…」
怖い、なんかすっごい怖いぞ。嬉々として嫌味を言って、言葉の剣をぐさぐさ刺している光景が思い浮かんじゃった。なんか、デュカス卿の優雅さが加わって怖さ倍増。
「ローラン、お前も見習え」
ローランさんが、あのデュカス卿にぃ?
「ローラン……が、冷たぁい視線で嫌味とか言っちゃう?ダメダメ、ダメだよぉ~。そんなのローラン……じゃなぁい」
「だよなぁ」
「サミ殿、私にはそんな事する余裕がありませんから。
ディック、これ以上仕事を増やすな」
「だが、デュカス卿はやってるだろ」
何を?
「お嬢ちゃん、この国は、腹黒とナデージュの勢力争い中なの。
んで、城ん中でローランとデュカス卿は、ナデージュの持ち駒な」
「おお~。なるほど」
「んで、持ち駒は相手の揚げ足を拾う事と、手駒を増やすのが使命って訳だ」
「なるほど、なるほどぉ。あ、ディックさんとファビさんも、お姫様側なんだよねぇ?」
「腹黒につく気はねぇなぁ」
「当然だ」
二人に嫌ぁんな顔されちゃったヨ。そんなに、王様って腹黒なんだ。
「ラグエル卿は?」
「姫の武術の師匠ですから」
あ、そうだった。うん、安心だ。今まで会った人達は、お姫様側なんだね。良かった。お姫様は、素敵だったもん。だから、いい人で居て欲しいなぁと思ってしまう。外見で判断しちゃぁいけないんだろうけど、あたしの知っているお姫様の行動は、非常に突飛なんで仕方が無いと……あはは。
「城では、デュカス卿。外では、ラグエル卿が目を光らせています」
うー、なんか、陰険そうなお仕事だなぁ。デュカス卿はお似合いだけど、ローランさんは大変そうだよ。あ、でも、外って一くくりしているけど、一番大変なのはラグエル卿だ。
「デュカス卿は、日々の業務と監視と勢力拡大と言葉の攻撃と剣の鍛錬と、非常ぉ~に忙しい毎日だよなぁ」
「すっご。寝る時間ないヨ、それ」
「だよなぁ。俺にゃぁカケラも真似出来ねぇ」
うんうん、そういう陰険な場所って、ファビさんに似合わないもんねぇ。
「だいたい、ディックがやればいいだろう」
ローランさんは、恨みがましい視線をディックさんに向けている。
「俺には、肩書きが無いからな」
うっわ~、肩書きがない事を楽しそうに……。
そういえば、ディックさんはファビさんがデュカス卿と並べてた御方でしたよねぇ?酷い作戦を投げつけたとか。その時、ローランさんも、素直に酷いだろうなとか感想を言ってた人。
ディックさんをまじまじぃ~っと見る。
「サミ?」
「優しいおっさんに見えていた、あたしの目は濁り放題っ?」
あー、ローランさんとファビさんが、ものすごぉく頷いている。
「お嬢ちゃん、優しいおっさんじゃぁ、将軍なんつー肩書きは貰えねぇだろ?」
「あー、そ、そっか……?」
「一癖も二癖もある、荒くれどもを束ねるんだぜぇ」
「えっと、ファビさんも将軍様だったよねぇ?」
「俺は、皆で楽しく訓練して酒飲んで騒いでるだけー。
それに、俺って不敗の赤い刃でぇ~、英雄さんだからぁ」
うっわぁ~自分で言っちゃったヨ。でも、言えるだけの実績持ち。すっごい強いみたいだし。精霊さんだか、魔法使いさんだかの奇跡を具現しているお姫様より強い一位様だし。でもなぁ、それだけじゃ下が従わないんじゃないのかなぁ?分からないけど。あの出発日に涙流してお見送りしていた人達、沢山いたよせねぇ?ファビさん、人気あったよねぇ?
「お嬢ちゃん、頼むからディックと同列にしねぇで。お願い。俺、そんな悪辣非道じゃねぇからさぁ」
「そうなの?」
あー、ディックさんが、ニンマリと……。すっごく悪人風味の笑み。う、うん、同列にはしない。確かに、こんな笑みのファビさんを見たことが無いヨ。ってか、して欲しくない。でもねぇ、あたしの目が曇っている以上、ファビさんがどうだかは、不明だよねぇ?
「何で、お前に術の才が無い?少しは、俺に楽をさせろ」
「ローラン、剣を振る時間を増やしたいからって、駄々をこねるな」
駄々って。だいたい、剣の稽古って楽?ものすっごい朝練だったヨ?!ローランさんって、術士長なのに、文官なのに、体育会系だよねぇ。
「ローラン……って、騎士になりたかったの?」
「騎士になりたい訳ではないのですが……こいつらより、強くなりたいとは思っています」
あたしは、ファビさんと、ディックさんを指差す。ローランさんは、頷く。
「うーんと……が、頑張ってね……」
とても大変そうな課題だ。毎日術士長のお仕事して、合間に訓練をして……毎日訓練だけしている人に勝とうと……ん?あれ?改めてローランさんを見る。
「あのさー、魔法使いさんの事とか、あたしを召還した魔法とかって、何で王様が知ってるの?」
だって、陣取り合戦中なら、情報駄々漏れってまずくない?
「王の息がかかっている者が、誰か分からなかったのです」
えっと、それは術士さんのうちの誰が?って事だよねぇ?それが??
「お嬢ちゃん、最初にナデージュが謝っていただろ?」
ファビさんの言葉に、うんうんと頷く。
「まさか、勇者がお嬢ちゃんだとは思わなかったんだよ」
「俺達は、書物に書いてあった情報だけで、お前を成人した男性だと思っていた」
「は?」
えっと、名前情報と学校名、それから外見が書いてあったとか言っていたよね?まぁ、学校名は、学校名だと思わなかったと。この世界、沙美って名前は、男性でもありなのか?
「ローラン……、あたしの外見って文字?それとも絵?」
「絵…です」
「スカート、描かれてたんだよねぇ?」
「は、い」
「お前の肩書きが悪すぎた」
「ん?」
スカート着ている成人男性なんかいるかい。自然目つきが悪くなる。
「勇者って書いてあったんだぜぇ。しかも異世界のだ。スカート着てる成人男性が居ても、いいだろって事になった」
……それでも無理があると思う。だって、あの制服着た成人男性?どこの異世界覗いても居ないと思うぞ。いたら、悲しすぎる!
「すみません、サミ殿。
副術士長の誰に王の息がかかっているか、どうしても特定出来なかったので、勇者を召還する術をエサにしました」
頭を下げているローランさん。
「勇者なら、多少迷惑をかけてもいっかなーって判断してなぁ」
頭を掻いたファビさん。目ぇ泳ぎ中。
「悪かった」
ディックさんの一言が、皆の心情を代弁する。
二人が、あたしを見て勇者だとは思わなかったってのは、外見を見てだけじゃなかったんだ。
そして、お姫様が必死になって謝っていたのは、こういう事だったんだ。
「そんなのは、いいんだけどさ。
んで、誰か分かった?」
「おかげで特定出来ました。ありがとうございます」
「良かったー。あたしも、こっちに来たかいがあったってもんだね」
うんうん、こんな平凡な一般市民を呼び出して、成果が無かったら悲しすぎるもんなぁ。
かなりホッとした。だって、役立たずで終わらずにすんだって事だもんね。安心、安心だ。
「うわっ、った、って、な、何?」
ディックさんとファビさんに、頭を撫でられているんだか、グリグリされているんだから分からない状態。いつもなら、それを止めるローランさんが、「サミ殿、ありがとうございます」とか言って、にっこり笑っている。
「あ、うんうん、特定出来て良かったねーって、頭ぐしゃぐしゃだよぉ~!」
なんか、ローランさんに返事したら、一層頭をぐしゃぐしゃにされた。何なんだぁ~?!!
「うしっ、食後の運動をしようぜぇ~」
なんか、楽しげにウィンク一つしたファビさんが、立ち上がる。何で、ウィンク?
「サミ、今日も頑張れよ」
最後だとばかりに、頭を2回ポンポンと叩いて、ディックさんが片づけを始める。髪の毛がわしゃわしゃな上に叩きますか?
「サミ殿」
「あ、うん、ご馳走様」
慌てて、片付けに加わろうとしたら、ローランさんが、珍しく頭を撫でてきた。
「勇者がサミ殿だった事を、世界に心から感謝します」
ローランさんに、一瞬見とれちゃったヨ。あれ?何で、そんな嬉しそうな顔してるんだ?
「そ、そか、うん……その言葉を撤回されないように頑張るね」
「大丈夫ですよ」
「はは……」
なんか照れくさい。
あたしこそ、この世界に感謝しなくちゃいけないよね。おっさん達に出会えるようにしてくれた、この世界に感謝だ!
当時いきあたりばったりで(私の場合全部そうですがw)書いたものですが、現在、かなり最終のお話(3部どころか、その後も妄想は進んでいるw)まできていると、かなりの齟齬が発覚するもんだwww
かといって、行き当たりばったり以外で書ける訳もなくw仕方が無いんですがねwプロット書ける人尊敬しますw
そのせいで、今久しぶりに一部見ている訳で、書きかけの3部に間違い発覚w昨日は、3部直していましたーwww
通常は、こっちを直すんですがねwwww名前間違いは洒落にならないw思い込みすぎてましたーw
そんな一部を修正しながらの日々です。
一部は、あと3話で終わります。