もっと親しい呼び方をしよう!
「まだ、ラグエル卿の領地?」
「いや、もう過ぎました」
「フィノ卿の所だ」
「魔法使いの居る山の手前一帯が、フィノ卿の領地です」
なるほど、ゴールは近いぞ!
「お嬢ちゃん、このフィノ卿ん所は結構でけぇからな、山裾までまだまだだぜ」
あ…遠くなった。
ただ今慣れた野宿の支度も終わり、現在楽しい食事中。
「今度こそ、何事もなければいいな」
あー、言っちゃった。そんな事言ったら、絶対逆の現実がスキップして近寄ってきちゃう。そんな不幸な予感。きっと、また…ここでも何かあるんだろうなぁ…。
「んで、体は大丈夫かぁ?」
首を横に振ると、体がギシギシ言った。全然ダメダメ。
「あのおっさんは、すっげぇ強ぇだろ?」
初心者は、強さの上下を図れません。朝練についていくのがやっとだった。
「ローランさんとフレデリクさんは、ラグエル卿に剣を教わったんだよね?」
「はい」
横で、フレデリクさんも頷いている。
「強いはずだぁ」
体育会系の領地には、朝練があった。
にこやかに笑うラグエル卿さんに引きづられ、あたしも参加するはめに。あれですか?昨日の仕返しですか?あたし、いい事したよね?悪い事してないよね?
「デュカス卿も、凄かったな」
「あれは、日々の鍛錬なくては出来ん」
ラグエル卿のお弟子さん二人は、しみじみと頷いている。
「うんうん。リゼットさんと、やっているのを見た。カッコ良かった~」
なぜか、デュカス卿も朝練に来ていた。でも、あれは自主的に来たんだと思う。だって、楽しそうだったもん。文官でも、もんのすごぉ~く体育会系な人だった。
「お嬢ちゃぁ~ん、俺はぁ~?」
ファビオさんを見る。
「叔父様と言うに相応しい優雅な叔父様が、強いってあたりがカッコいいの」
「え~、俺だって、叔父様じゃん」
「叔父様は、じゃん言わない」
目の前でぶーぶー言ってるあたりが、叔父様から激しく遠のく。
「まさか……デュカス卿の十年前あたりって……」
縋るようにローランさんを見上げる。あたしの指は、震えながらもファビオさんを指しています。
「安心して下さい。デュカス卿は、昔と変わりません」
安心した。ものすごぉく安心した。
「ただ…」
あぁっ…なんか接続詞がっ!
「あの武勇伝は、デュカス卿だったな?」
何それ?
「フレデリクさんっ!」
「何だ?」
「言わないでぇ~。ものすごぉく、お願いっ!あたしの夢を壊さないでぇ~~~」
ファビオさんが、聞く気満々で、続きを待っている。でも、親切なフレデリクさんは、「分かった」と一言言って食事を続ける。ありがとう、あぁりぃがぁとぉ~。
「なぁ、お嬢ちゃん」
「ん?」
「そろそろ、ファビでいいんじゃねぇの?」
「ファビ…さん?」
「ついでに『さん』も取っちゃえ」
「あーーーー、それは無理。
うん、ファビさんだね」
横でフレデリクさんが、自分を指差している。
「ディックさん?」
食べながら、頷いてくれた。そして、ローランさんが、期待するような瞳で見ている。えっとぉ…。
「あの~、ローランさんって、普段どう呼ばれているの?」
「ローラン」
「ローランだ」
今まで聞いていたとおり。
「ローさんだと、変ですよねぇ」
「ラン、でどうだ?」
「ローランでいいだろ」
あーなんか、寂しげだ。捨てられた子犬だ。
「あ、あの、ローランさんって、もっと長い名前があるんですよね?」
「……ローラン・フィノ」
「フィノ…ちゃん?」
あー、あたしの意見は、ダメだったみたい。
「フィンは、どだ?」
少し考えている?!
「可愛いすぎだ」
フレ…じゃない、ディックさんが、ばっさり切っちゃった。
確かに、フィって音が付く様な雰囲気の体をしていない。なんだろ?フィって、可愛らしい感じがする…から?
「サミ殿、呼び捨てで」
ずいっと、顔が寄って来る。必死だよ。何で?
「えー、それは、最年少者として絶対ダメだと思うなー」
「言葉使いも、普段のままなのですから大丈夫です!」
何が、大丈夫なのっ?!
「ローラン………さん」
「ダメです」
一応ファビさんと、ディックさんに視線だけで助けを求める。即効、無理という表情が返ってきた。役立たず!
「分かりました……ローラン……で、いいですか?」
心の中で『さん』を付ける。
「その間は?」
うわっ、なんか鋭いヨ。何で?
「が、頑張ります…」
「えー、俺も、呼び捨てでいいのになー」
「やっ!」
助けてくれなかったくせにっ!きっとあたしの目は、恨みがましい視線がバリバリ出ているヨ。
「さっさと食べろ。訓練時間がなくなる」
さっきから、要所要所突込みを入れるだけで、黙々と食べていたディックさんは、もう片付け始めている。あたしは、慌ててお皿とスプーンを持って食べ始めた。
「ディックさん」
全部食べ終えて食器を片付けたあたしは、さっさと棒を振り回しているディックさんの背中を叩く。
「何だ?」
「ありがとうって気持ちとか、さようならとか、こんにちわとか、あたしの国だと、こんな風にお辞儀をするの」
ディックさんに一礼。
「ここでは、どういう風にしたらいいの?」
魔のラジオ体操をする前に、前からどうしていいか分からなかった事を、忘れる前に解消!
「左胸に右拳を当て、頭を下げる」
「こんな感じ?」
ディックさんが、目の前でやってくれるのを真似てみる。
「お嬢ちゃん、腰曲げちゃぁダメだろ」
お尻を叩かれた。
その後、ファビさんがローランに殴られた。あたしのやる事は、それを眺めているだけ。まぁ、攻撃してもどうせ当たらないけどさ。
「これは?」
「いいだろ」
「どれぐらいの間、下げていたらいい?」
「気分だ」
なるほど。
「お嬢ちゃぁん、何で俺に聞かねぇんだ?」
「そりゃぁ、ディックさんなら、ちゃんと教えてくれるもん」
「えーーー、俺だって手取り足取りちゃんと教えてやるぜぇ~」
教えるのの前がいらん。
「サミ殿、私は?」
あ~……、なんか恨めしい視線が…。
「えーーっと、なんか、すっごいの教えてくれそうだった……から、かなぁ?」
笑って誤魔化せ日本人。
「お前の事だ、正装したナデージュがやりそうな事を教えるだろ?」
ディックさんの言葉にあたしも頷く。あれは、ドレスじゃないと格好がつかない気がしますよ~。
「女性なのだから、あれが正解だろう?」
「この格好でか?」
力強く頷かれても…ローランさん。
「えー、ラジオ体操しましょう。うん、しましょう!」
無理やり話題転換だ!
「なぁ、お嬢ちゃん」
「はい?」
「ラジオタイソウって他にもねぇの」
「うん、第二、っ、な、無いからっ!!」
口が滑った。チラリとファビさんを見ると、ニンマリと笑っている。
話題転換失敗。もっと悪くなったヨ!
「もう一つあるんだな。教えやがれぇ~」
「絶対、嫌ぁぁぁぁっ!!
さぁ~ラジオ体操だぁ~、ばんばんやるぞぉ~」
後半台詞棒読みだけど気にしない。のびの運動をさっさと始める。
なんつーか、君達は日本人か?と問いたい。何で曲も無いのに、同じ動きを始めるんだ?別に一緒にやらなくてもいいのに。ってか、一緒にやりたくないんだよぉぉぉ~~~。
とにかく、ファビさんの方は見ない。一生懸命、体を動かす。
絶対に、第二体操は教えない!最初のあれ。腕と足を曲げのばす運動を騎士様達がやってるのなんか、絶対、絶対、絶対見たくないよ!!
少々中途半端ですが、全部のせるのは長すぎるので、ここで切断!
ファンタジーでラジオ体操第二だけはやっちゃいけないよねぇ……まぁ、第一もやっちゃいけないけどさw