目指せ武術大会一等賞!ペンなんか握りつぶしちゃえ!ゴーゴー命をはろうぜ!!
目の前の広ぉい道の一端に整然と並んだ、騎士様達の列。
「な、何か…な?」
って振り返ったら、額に手をあて呻いているローランさんと、「あ"~」と声を出しながら、微妙な笑顔を浮かべているファビオさんと、明後日の方向遠く見ているフレデリクさんが居た。
「お待ちもうしておりました」
なんつーか予行演習があったとしか思えないような、統一感のある動き。
「ぜひ、我らの領地にてご指南をお願い申し上げたく」
「大剣一位のローラン殿」
「片手剣一位のファビオ殿」
「槍一位のフレデリク殿」
「よろしくお願い致します!!!」
現在、噂のラグエル卿の領地内をヒヨで闊歩中。
あ~、流石目指せ剣術大会一等賞な領地だよ。どこから聞きつけてきたか知らないけど、あ、今までだって、しっかり見つかっちゃっていたから情報だだ漏れ?今回は、剣術指南ですか?
「よぉ~お前ら、まさか俺に黙って通り過ぎようなんて、ふてぇ事考えてねぇよな?」
うわぁ~ファビオさんの上を行く、がらの悪いおっさん……これって、まさかラグエル卿さんじゃないよね?
「ラグエル卿、私達は、急ぎの旅なのですが…」
あぁっ、噂のラグエル卿だったヨ。偉い人なのに…あ”~、お姫様もそうだったっけ……でも、でも、デュカス卿が偉い人らしい人だったから、すっかり忘れていたヨ。こういう感じの人って、ここの国の風潮?どっちが主流?
「盗賊を捕らえるよか、手間ぁかからねぇよ。
おっさんより、盗賊の方がウン万倍も可愛いだろうが」
ファビオさんが、ぼそっと呟く。
おっさんに、おっさんって言われちゃっているよ~。幾つぐらいなんだろう?筋骨隆々、短髪の白髪混じりの黒髪、黒髭覆われたお顔…熊みたいだよ、しっかり鎧を纏って立派なヒヨに乗っている。というか、ヒヨは良く分からないんだけど、ヒヨってだけで可愛いくて、筋骨隆々が台無し状態で……、でも、あたし達が乗ってるヒヨより大きいから、立派な感じ?
「あ”~何か言ったかぁ~?てめぇら、まさか逃げようなんて考えてねぇよなぁ?」
「サミ殿…」
「…はい」
「勝てない事になってる…」
「あ~、分かります…」
「後で、慰めてぇ~」
「はいはい」
そして、目の前に悪夢が現れた。
何で?何でなのよぉぉぉぉぉぉぉっ!!と、誰かに問いたい。問い先不明だけどぉぉぉぉぉ!!
いぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!
どうしてっ!どうしてなのっ?!どうして、ここでもラジオ体操が繰り広げられちゃうのよぉぉぉっ!?
ガチャガチャと鎧の音を立てながらのラジオ体操。もうファンタジーとは、絶対言えない。カケラも思えない。なんだか変なコスプレした団体が、日曜日の朝にラジオ体操のパフォーマンスだヨ。目の前が涙で霞んでいるように感じるのは、気のせいじゃないはずだ……神様、あの時のあたしに戻して下さい。絶対ラジオ体操なんかしませんから…しくしく。
ここは、とーても広い空き地?突貫工事が入ったと思われる広場の少々高い場所に作られたテントの前。ラグエル卿とあたしは、目の前に繰り広げられる、あつっくるしい男の戦いってやつを観戦中。
あ~、おっさん達すっげぇ楽しそうだよ。あれだけ渋っていたのは、嘘?
「娘御」
「は?はははい」
「お主は、棒をやるのかね?」
うっわ、ちゃんと卿って付く人の言葉遣いだ。あれは、対おっさん達用?
「あ、沙美といいます。棒は、ただ今勉強中の超初心者です」
「そうか。旅をしている女性は、危険にあう事も多いだろう。強くなるにこしたことはない。
ほら、あそこを見てみなさい」
ラグエル卿が指差した先は、槍を棒に持ち替えたフレデリクさんと、ぼこぼこに訓練されている、皆さん。
「すっごく綺麗!」
「そうだろ?あやつの動きは、無駄が無い。確かに腕力も並以上にあるのだが、それ以上に価値があるのは、あの動きだ」
「すっごいですね」
ラグエル卿が、楽しそうに笑う。
「もっと凄いのが、傍に居ただろう?」
「はい?」
「ほら」
今度ラグエル卿が指した先には、ファビオさんが居た。
「小さい頃から、きっちり訓練された動きだ」
「そうなんだ…」
いつも、棒を教えてもらっているから、あまりに間近すぎて気づかなかった。棒と剣では動きが違うし、あたしは素人で目なんか全然肥えようがない日数しかやってなくて、だけどファビオさんの動きは別格だって分かる。それぐらい、他とは違ってた。まるで踊っているようだヨ。
「体質なのだろう。ローランのような筋肉は付かんらしい。だから、あいつは、敏捷さと培ってきた剣さばきで、ああいう動きをするのだろうな」
ローランさんを見る。うん、叩き伏せるという言葉が似合う戦い方。あ~、白魔道士様じゃなかった、術士様が、あんな豪快に戦うのは違うと思うよ~。
「ローランはなぁ……、もっと早く教える機会があれば良かったのだが、まさか術士が剣を学ぶと思わなかったもんでなぁ」
「皆さん、ラグエル卿さんに教えてもらったのですね」
「ファビオ以外はな」
あぁ、ファビオさんは傭兵あがりで、この国の人じゃないって言ってたっけ。
「しっかし…あいつら、鍛え方が足りねぇようだな……明日からしごきを増やすか」
あぁっ…、言葉使いが戻っていらっしゃいますよぉ~。明日からの皆さんの不幸が忍ばれるなぁ。
とにかく勉強だと、フレデリクさんの戦いを見つめる。って言っても、目で見たものをどうやって自分の動きに変換していいか分からない。分からないぐらいの超初心者。とりあえず、ファビオさんに言われた事を反芻しながら、一生懸命見る。きっと少しは脳内に残って、いつか役立つ……と思う…いや、役立てたいなぁ~。
フレデリクさんの棒が、相手の棒を絡め、弾く。それに気を取られた男の人は、続けて来た攻撃に対処する事が出来ずに、強か打たれ倒れた。
「ちっ」
すっごい舌打ちが横から。
「エロワ!」
その大声に操られるかのように、フレデリクさんに倒された男の人が、よろよろと立ち上がる。
「来いや」
え~と……フレデリクさん、止めているよね?遠目からなんで、声聞こえないけど…、フレデリクさんの相手だった人が、こちらへ歩いて来る。なんか、フレデリクさんの顔の眉間の皺が増えているような…。
「…父上」
「エロワ、何で呼ばれたか、分かってるな」
「…はい」
「今日から、全ての時間を訓練に使え」
「しかし」
「お前は、まだ強くなれるだろう。だが、その努力を怠っている。そうだな?」
「…はい。しかし、私は、全ての時間を使ったとしても、父上のようにはなれません。文官になる事は、どうしてもいけませんか?」
あ~…なんつーか、まずいパターン…。
「えっと、文官さんも大切な仕事だと思いますが…」
余計な口出しを…でも…。
「私も、それが国の中で重要な職務なのは分かっている。だが、いざという時に、ペンでは何も守れん」
「いえ、決してそんな事はありません。いざという時を、作らなくする事も大切ではないでしょうか?」
「お前は、十年前を覚えているだろうが」
「……しかし」
十年前に何があった?
「お前を敵に渡す気はないっ!」
ラグエル卿が、脇に置いてあった剣を掴む。
「だめっ!!」
無意識に体が動いちゃったよ。気が付いたら、エロワさんの前に立って棒を構えていた。けどね…けどね、もっと凄い動きをした人達が居たりするんだ。
あたしが前に立った瞬間、目の前を横切る重量物。その後にドスッと重たい音。ゆ~っくりそっちを見ると、横の崖に、槍が突き刺さっていたヨ。あ~…、フレデリクさんだ…きっと。
そして、いつの間にか現れたその1のファビオさんの手が、ラグエル卿の手を押さえ、いつの前に現れたその2のローランさんが、ラグエル卿の首筋に剣を当てていた。そんな光景を確認し終わった頃、フレデリクさんが現れた。
なんつーか、おっさん達は、凄かった。今まで、そうかなぁ?とは思っていたけど、魔法テレポ(瞬間移動)が、使えるに違いないと確信したね。
「ラグエル卿」
「お前ら…俺とやるってぇのかぁ~?あぁ~、小僧どもが、随分と偉くなったじゃねぇか」
あぁっ!なんつーか、突然、趣旨が変わった気がするヨ。どうして、ここの人達ってこうなの?ってか、あたしが会う人が例外?…例外多すぎっ!!
「ちょ、…止めっ!止め止めっ!!」
「初心者は、邪魔すんじゃねぇよ」
「邪魔なんか出来るかっ!じゃないっ、ローランさんっ!!」
さっさと剣を引いて、あたしの所に来るローランさん。ラグエル卿が、非常に不満顔。……おっさんって、おっさんって…、内容には、ちょっと文句言いたいけど、さっきまで一応父親というか大人の表情してたのにっ!幾つになったら人間って、立派な大人になるのっ?だめでしょ、大人がそんな顔をしちゃぁ~っ!!
「ローランさん、大急ぎでドワへ戻って、夕方までにデュカス卿連れてきてっ!ついでに、あそこの領地に居る剣を持つのが好き~って言う、変わりもんが居たら、自力でここに来いって言って。
とにかく、デュカス卿を、大至急かっさらって来てっ!」
「はい、サミ殿」
楽しげにローランさんが、出て行く。あたし…人選誤った?
「フレデリクさん…」
「あぁ、大丈夫だ」
聞く人間違えた?ファビオさんを見る。
「まぁ…大丈夫じゃねぇの?…たぶんな」
「あぁっ。叔父様と呼ぶに相応しい立派な叔父様に、冷たい目で見られるのは嫌ぁ~っ!」
沙美ちゃん、頑張ってます!
現在:叔父様2人、おっさん3人、若者3人
叔父様、増殖しましたVv(若者も増殖したけどね……ちっ)