表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Fantasy with O3  作者: 砂海
1/18

一人目のおっさん

 眠いっ!とにかく眠いっ!!激しく眠い!!!

 当然だ。なにせ徹夜明け。ついでに試験なんつーもんまであったし。爆睡したいのを堪えて、シャーペンを必死になって動かしていた反動が、今現在。

 鞄を抱えて、ふらふらと歩く。行き先は、愛する重たい布団様の中。ほら、目の前に布団の幻まで見えてきたヨ。

 

「ぁ……だめかも……」

 

 慣れない徹夜は、体中に睡眠欲をしみ込ませ…「ごめん…かーさん」、電信柱の影にしゃがみ込んだ。

 うんうん、大丈夫大丈夫。電信柱の影だから、とりあえず、そんなには目立たないはず。

 家まであと5分程度。この辺は自分を知っている人ばかりだから、苦笑して通り過ぎてくれるだろう…たぶん。とにかく、かーさんにだけは、見つからないよう、困った時専用の神様に祈る。見つかったら、間違いなく徹底的に怒られる。

 

「……ん?」

 

 足元が、やけに頼りない。まるで、ずぶずぶと底なし沼に沈んでいくみたい…って、底なし沼に沈んだ経験ないけど。あ、もしかして行き先は、眠りの底ってやつ?と安心して夢の中に入る扉を開こうとしたら……「はぁっ?!!」、 即効、目が覚めた。現実に体が沈んでる。というより、地面の下に落ちている。

「はいぃぃ~~っ?!!」

 誰が、こんな落とし穴を作りやがった?と叫びたかったが、急激に意識がかすんで、何も言えなくなった。

 もしかしたら、これは夢?

 

 

 

 

 夢の中にまで、英語がやってきた。やっぱり、徹夜ってのがいけなかったんだろう。ボブやメアリーが、囁いているよ……は?……あ、違う、おっさんだ。いつからボブは、おっさんになったんだ?

 

「"$(&◆%#?)▼%#)%#&○#」

 

 無駄だよ、おっさん。現在、日本の教育課程程度の学習なんかで、流暢な英語を理解出来るような生徒は出来上がらないのだよ。……ってか、英語じゃ…ない?

 

「$%’$&#”*+●」

 

 目の前におっさん。私の目は、見開いてその人を見ている。

 だけど、間違いないぐらい、夢!

 なにせ、こんな石造りの部屋なんか、日本には絶対ないヨ!

 目の前に、風変わりな衣装を着た、K―1風味のがたい、琥珀色の瞳、無精髭、無造作に一つに束ねられた中途半端な長さの黒い髪、腰にはお似合いの剣、右手には似合わない魔法使い風味の杖を持ったおっさん。あぁ、風変わりじゃなくて、ファンタジー風味の衣装だよ。だったら、装備が間違っているね。おっさんの体形と風貌なら、間違いなく剣士!鎧を着て欲しい。杖は持つな。某ゲームの剣士みたいに、巨大な剣を背中に背負ってほしい!

 そして、そのおっさんの後ろには、ケンタッキーフライドチキンが、高そうな服を着て、高そうな装飾品を付けて、高そうな椅子に偉そうに座っている。この家具がほとんど無い殺風景な部屋に、あまりにも似合わない。

 ……あ!ケンタのおっさん、王様コスだ!

 

「すっご…」

 

 中々に珍しい夢だ。

 確かにファンタジー系の小説もゲームも大好きだが、こんな夢は見た事が無いヨ。なにせ、夢も見ずにさっさと眠っちゃっている昨今。万年睡眠欠乏症。じゃないって、久々すぎる夢、しかも相手が日本語じゃなく、外国語を喋っている。成績、並みの並みを行くあたしの夢で。何事?なんか悪いもん食べた?

 

「(’&サミ&%$」

「へ?」

 

 自分の名前を聞いた気がして、相手をぼんやりと見上げる。現在自分は、大量のクッションの上。立っている相手とは目線が違う。

 目の前のおっさんが、小さく頷き、口元に笑みを浮かべた。その笑顔をまじまじと見ている間、おっさんはまるで魔法使いのように杖を床に打ちつけ、不可思議な言葉を謡い始めた。うん、謡っている。

 渋い落ち着いた声が、部屋に響き渡った。

 

「うわっ!」

 

 頭の中に、何かが入ってくるっ!

 痛い…痛い…痛い痛い痛い痛い…………「痛いっ!!」

 

「大丈夫ですか?勇者殿」

「大丈夫じゃないっ!」

「すみません。どうしても、頭痛が伴ってしまう術なものですから」

 

 深々と、おっさんが頭を下げていた。

 

「私は、ローラン・フィノ。術士です。

 ようこそギュールズ城に。勇者サミ殿」

 

 耳から入ってくるのは、相変わらずの不可思議な言葉。なのに、理解しちゃってる。ついでに、自分の口からそれが出てきた。……目の前で跪いているおっさんと、会話が成立してしまった。

 

「……魔法?ほんやく●んにゃく?テレパシー?」

「勇者殿、魔法はこの世界からは消えてしまいました。他のモノは、……ほん……?」

「いや、いい……です。けど、今の何……ですか?」

 

 目の前に手が差し出されている。それを、ぼんやり見つめている。

 

「術、我らと世界の意思を繋げるものです。

 今の術で、私の中にある言語部分を、サミ殿にお渡ししました。

 その無礼をお許し下さい。そして、どうか、勇者殿、我が王の話を聞いて下さい」

 

 術…さっぱり説明になっていない。世界に、意思なんつーもんがあるっていう設定?まぁ、ファンタジーの王道?ありげかも…。

 目の前で、未だ手を差し出したままのおっさん。おっさん、丁寧な物言いのおっさん。だんだん困った顔になっていく。流石にほっとけなくて、躊躇いながらもあたしの手を重ねた。まるで、本の中のお姫様みたいだヨ。激しく、恥かしい。

 おっさんに立たせてもらって、初めて気づいた。左手に鞄を持ったまま。この夢は、寝る前の自分のまんまだよ。さすが夢だね!

 

「王、勇者サミ殿です」

 

 ケンタッキーが立ち上がり、優雅に一礼した。

 

「ようこそ、勇者サミ殿。我が城に貴殿を迎えられた事を誇りに思うぞ」

「はぁ……確かにあたしは、サミって名前ですけど…勇者っていうのは、なんかの間違いだと思います……」

 

 夢に異論を唱えても仕方が無いと思うが、ついつい訂正は入れてしまう。夢の中とは言え、面倒事はごめんこうむりたい。竜やら、魔王やらと戦うなんつー事を、期末試験後にする女子高生はいない。

 

「術士長」

「勇者殿、貴方様を召還した私の術は、三百年前の術をアレンジしたもの。そこに書かれている勇者殿の外見は、間違いありません。

 勇者殿、『トウキョウ』という言葉、『ムカイガオカコウコウ』という言葉は、勇者殿に関係があるのではありませんか?」

 

 東京は、あたしが住んでいる所。向ヶ丘は今日まで期末試験を実施しやがった、あたしの行っている高校。

 

「夢ってのは、結構便利?」

「勇者殿、これは夢ではありません」

「や、夢以外のなにもんでもないでしょ」

 

 悪夢じゃない。けれども、いい夢とも思えない。なにせ、若者っていう年代の人が出てこない。やっぱりファンタジーなら、美形の若者が大量に出てこないとだめだろ?

 おっさんとケンタッキー…激しく間違ってる。

 

「勇者殿、少しの間、これを持っていて頂けますでしょうか?」

 

 おっさんが、腰に下げていた剣を鞘ごとあたしに渡す。結構重い。

 そしておっさんは、また謡い始めた。

 

『世界よ

 重なる世界よ

 全ての世界に手を広げ、全ての世界を抱かれよ

 世界よ

 我が愛の全てを貴方に捧ぐ

 世界よ

 我が心をご存知なれ

 トウキョウに

 貴方の愛し児の一人を彼の地に』

 

「……はぁ?」

 

 さっきは、言葉が分からなかったが、今やバイリンガル?な私の頭に、渋い声が意味を持って響き渡る。まるで恋人に対する囁きみたいだよと思った瞬間、360度、上下左右、目の前に突然現れたのは見慣れた町並み、寝ようとしていた電柱の影。

 

「ふぇ?」

 

 石造りの建物も、おっさんも、ケンタッキーも消えた。

 

「あ?…は、白昼夢って……やつ?……」

 

 手を動かそうとしたら、ガチャリと金属の音。白昼夢の線は消えた。証拠品は手の中の剣。周りを見ても、いつもの風景。ちょっと遠くを見れば、自分の住んでいるマンション。大通りからは車の走る音、少し遠くに電車の音、そして街行く人の声、間違いなく自分の住んでいる街。けれど、剣の重みは消えない。

 頬をつねってみた……痛い……。気合入れてつねってみたのを、後悔していたら、めの前の風景に異物が沸いた。沸いたとしか言えない……掌、掌が目の前に浮いている。

 

「げっ……」

 

 浮いている…はっきり言ってホラー。でも、自分はその掌を知っていた。無骨で大きな掌、さっき、まじまじと見ていた掌。ついでに、困ったような顔まで思い出してしまった。

 

「~~~~~っ……」

 

 ため息一つ。ったく、どうしてあたしって、こんな性格してんだろう?目の前の掌を無視して家に帰れば日常が待っている。ついでに、明後日の終業式を終えれば夏休みがお出迎えなんつー眩しい日々が待っているというのに………もう一つため息。

 のろのろと上がった自分の手は、空中に浮かんだ掌の上に重なった。

o3は、アルファベットのオーと数字の3。続けて「おっさん」と読んで下さい。

という事で、オリジナルのへたれ、おっさんハーレムファンタジーでございます。

どうか、ごゆるりとm(__)m

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ