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幻想即興曲

作者: 寿祷 郁也

この物語はあくまでフィクションで、なおかつ即興で書かれたものです。よって誤字・脱字、矛盾があったり、読みにくかったりする場合があります。ですが、精一杯努力していくので、良ければお付き合いください。

 高校1年の夏休みの始まりのころのことだった。俺はある女の子に恋をしたんだ。俺が、病気で少しの間入院していた頃にその子に出会ったんだ。彼女は生まれつき心臓に病気を抱えて、小さいころからずっと入院生活をしていて、外のことなどほとんど知らなかった。彼女は少し調子がいいときはロビーで雑誌を読んだりテレビを見たりすることは出来るものの、一時帰宅などは一切出来なかった。

 俺の病気はそもそも軽いもので、折角の夏休みでもう退院したくて仕方がなかった。だから、ロビーに下りて時間を潰していることなんてざらだった。そんな時、ロビーで彼女をはじめて見かけた。この病院で、同年代の人なんてほとんど、というか見たこともなかった俺は彼女に興味をもった。そのとき、彼女は偶然にも音楽雑誌を読んでいた。それをネタに話しかけたのが、俺と彼女の出会いだった。

 彼女がそのとき開いていたページに載っていたのは、俺の最も尊敬している盲目の、日本人ピアニストだった。彼は目が見えないにもかかわらず、有名な賞をいくつも受賞していた。俺なんて足元にも及ばない。

「音楽好きなの?」

そういって俺は彼女に話しかけた。すると彼女はゆっくりと顔を上げた。長い髪に隠れていてよく見えていなかったが、近くで見ると綺麗な顔立ちをしていることが分かった。彼女は俺がいきなり話しかけたものだから、少し驚いたような顔をしていた。しかし少し笑顔を見せながらこう言った。

「うん、音楽は私が趣味として持てる、数少ないことだから」

そのときは、それがどう意味なのかはわからなかった。でも彼女の病気を知ってから、その意味を理解したのだった。

「何か楽器をやってるの?」

俺は音楽が趣味と聞いてこう聞いた。すると彼女はこう言った。

「唄うのが好きなの。こうやって病院にずっといても、唄うことなら出来るから」

「そっか。君は何の病気で入院してるの?」

「心臓の病気。物心ついたころからずっと病院でくらしてるの」

俺は自分が無神経だったのではないかと一瞬思った。申し訳なくも思った。でもそれは態度には出さなかった。きっともうそんな態度をとられるのはうんざりしているだろうと思ったから。

「そうなんだ。俺は、そんなに入院する予定はないんだけど、良かったら友達になってくれない?」

彼女は俺の態度に少し驚きながらも、少し、はにかんでうなずいた。

「うん、いいよ。私は、大井 明日菜っていうの。よろしくね」

「あっ、ごめん、名乗ってなかったね。風音 響っていうんだ。よろしくな」


 それから何回か彼女の病室に行ったり、ロビーであったりして幾度も話をした。出会った日からほぼ1週間が経とうとしていたある日、彼女は急に俺のピアノが聞きたいと言い出した。俺は彼女についてきてといわれ、どこに向かうかも分からないままについていった。たどり着いたのは子供のためのプレイルームだった。もう夕方で空は真っ赤だ。その夕日が差し込んで、室内はとても幻想的な雰囲気だった。部屋に入るとそこには、一台の古いピアノがあった。アップライトピアノという、グランドピアノに比べ場所をとらないタイプのものだった。

「何か、弾いてみて」

彼女にそう言われ、俺はいすに座って、少しの間、何を弾こうか迷ったが、自分のもっとも好きな曲、『月の光』を弾くことにした。この曲は今までで、一番練習した曲で、もう体にしみついている。うろ覚えとか、そういうことは一切ない。

 大きく一回深呼吸をして俺はピアノを弾き始めた。もう楽譜は頭の中にあるのだ。あとは、この曲をどれだけ丁寧に、大切に弾けるかだ。俺は指に神経を集中させ、思いを乗せるように鍵盤を叩いた。流れるようにそこから曲は進んでいく。久しぶりに弾いたにもかかわらず、自分でも上達しているのがわかった。

 弾き終えると彼女は拍手をしてくれた。

「すごいじゃん!いつからピアノやってるの?こんなに上手にピアノ弾く人はじめて見たよ!」

「たぶん、3歳か4歳くらいのときから」

彼女が余りに褒めるものだから、俺は少し照れながら答えた。

「ねぇ、『奇跡』って曲弾ける?」

「『奇跡』?それってあの若手アーティストが作った?」

「うん、それ。弾ける?」

その曲はある若手アーティストがつくった歌で、伴奏がピアノの曲だ。

「わかんないけど、たぶん」

俺もその曲が好きで何度も聞いているし、ふざけて弾いたことがある。だからたぶん弾けるだろう。

「じゃあ、弾いてみて」

彼女に頼まれ、再び鍵盤に手を置く。そしてもう1度大きく息を吸い、弾き始める。前奏を弾いてるうちに、弾けるかどうか分からないという不安は消えていた。そして前奏部分が終わると同時に、とてもきれいな旋律が俺の伴奏に交じってきた。驚いて振り返る。もちろんその間も手を動かしているわけだが。

 思ったとおり、その旋律は彼女の唄だった。透き通るようなその声はこの部屋を満たしていた。そして夕日の光を浴びる彼女もまた、普段とはちがった美しさを放っていた。そして、いつの間にか手が止まってしまっていた。すると同時に彼女は唄うのをやめてしまった。

「どうしたの?」

彼女にそう聞かれ俺は我にかえった。

「あ、ごめん。あまりにもきれいな歌声だったからさ」

「そんなことないよ、響のピアノに比べたら」

彼女は少し照れたように言った。そして俺は急にあることを思いついた。

「なあ、歌詞を考えたりってえ出来るか?」

「え、うん。一応出来るけど・・・」

「じゃあさ、今から俺が即興で曲を弾くから、あわせて歌ってみてよ」

「ええっ!即興で!?さすがに無理だよ~」

「いいから一回やってみようよ!」

そういうとすぐに即興曲を弾き始めた。彼女は戸惑っておろおろしていたが、やってみようと決心したのか、唄い始めた。彼女の考えた唄はとても勇気をくれるような歌だった。そして俺の即興曲にあった歌詞だった。そして曲が終わると彼女は半分怒ったような笑顔でこう言った。

「もう、いきなりはじめるんだもん。でも楽しかったよ」

「なあ、お前絶対才能あると思うよ?普通はいきなりじゃ絶対あんなうまくは唄えないぜ?」

俺は思ったままのことを言った。そしてまた思いついたことを言った。

「そうだ!今度、入院してる子供たちの前でコンサートしようぜ!きっと病気の子供たちに夢を与えられると思うんだ!」

「また突然だね・・・。でも、それいいかもしれない。病気の子供たちの中には、もう夢をあきらめちゃってる子とかもいるの。そういう子たちに夢を与えられるなら・・・」

「じゃあ、明日やろう!子供たちを集めて!」

「あ、明日!?そんなすぐには無理だよ。ちゃんと練習もしないといけないし・・・」

「大丈夫だよ!それに、明日もやっぱり即興でやろう!」

「なんで!?ちゃんと練習したほうがいいに決まってるじゃん!」

「練習するのはお前の体力的に無理だろ。それに唄っていうのは、そのときの感情も影響するものだから、即興のほうが気持ちが乗りやすいんだって」

「そういうもの?」

「そういうもんなの!それじゃあ、明日ね!」

そういって俺は部屋に戻った。


翌日、俺と明日菜は看護師長に話を聞いてもらった。すると、なんとすぐに許可をもらえたのだ。今日の午後は検査の子供がいないので大丈夫ということだった。

時間が過ぎ、午後に近づくにつれて、明日菜は急にソワソワし始めた。

「どうしたんだよ?」

「やっぱり緊張するよ~。大丈夫かな?」

「大丈夫だって。少しは自信を持て」

「・・・うん。でもやっぱり緊張する!」

「別に大人数の前で披露するわけじゃない。子供たちだけにだ。そう思えば少しはマシだろ?」

「うん、うん、そうだよね。子供たちにだけだもんね!」

「そうだ、その意気だ」

このとき、なぜか自分の初めての発表会を思い出していた。


 そして午後。俺たちのプチコンサート開始まであと5分。俺まで緊張してきていた。でも、大丈夫。感じるままに弾くだけだ。きっと明日菜ならうまく唄ってくれるはずだ。

 プレイルームでは、看護師長が子供たちに説明してくれてえいる。彼女が手招きしてきたときが俺たちが入場するときだ。そう思った瞬間には合図の手招きが見えた。俺は明日菜と一緒に部屋に入り、子供たちの騒いでいる声を聞きながらピアノのところに行った。そして俺は席に座り、彼女は子供たちのほうを見る。俺と彼女は、頷き合って演奏を始めた。今回の流れるように、やさしくピアノを弾く。そして彼女の歌がすぅーっと入ってくる。彼女の今回の唄のテーマは『夢』だった。あきらめない心が夢をつかむ。要約すればこういうことになる。どこにでも転がっているようなフレーズだが、彼女の唄には魅力があった。伴奏者である、自分でさえ引き付けられてしまいそうな魅力が。途中からは 、彼女が俺の演奏に合わせるのではなく、俺が彼女の唄に合わせて演奏するようになっていた。そして、なんのミスをすることもなく、予想以上の出来で演奏を終えた。振り返り礼をしようとすると、そこには思わぬ光景が広がっていたのだ。通りかかった看護師や患者、医師までもが足を止めこちらを見ていたのだ。俺たちがお辞儀をすると同時に、場はすごい拍手の音に飲まれた。


 その日の夜。俺たちは屋上にいた。

「今日のプチコンサート、うまくいってよかったね」

彼女はいつもより上機嫌でとても幸せそうな顔をしていた。そんな彼女を見ていると、こっちまで幸せな気分になった。そのときに気づいた。俺は彼女を好きになってしまったんじゃないかということに。

「ああ、そうだな。子供たち以外にも絶賛だったしな」

「あはは、そうだね」

彼女は無邪気に笑った。その笑顔を見て、俺はもうすぐ退院するけれどもっと彼女と一緒にいたいと思った。そしてまた俺は思いつきを口にしていた。

「なあ、これからは、定期的にプレイルームを借りて今日みたいなことをしないか?俺はもうすぐ退院するけどさ、それからも、定期的に来るようにするからさ」

「うん、いいよ。今日の子供たちの笑顔見たでしょ?みんなに、きっと私たちの思いは伝わってる。だから、もっと子供たちのために自分のできることをやっていきたい」

彼女の大人すぎる意見に俺は一瞬驚いたが頷いてこう言った。

「ああ。自分たちに出来ることがあるならやらなきゃな」



 それから俺たちは定期的にプチコンサートをやった。そしてそれはこれからも続けていくつもりだ。俺と彼女の即興曲。幻想のように、1度通り過ぎたらもう聞くことの出来ないメロディ。そんな幻想のような即興曲をこれからも奏でていく。そしていつか、俺の思いも音楽に乗せて彼女に伝えたい。それが今の人生の1番最初の目標だった。彼女の心臓の病気は心配だけど、今の所目立った異常はない。そんな不安を抱えていても、俺たちは生きている。そしてこれからも精一杯生きていく。



fin.

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― 新着の感想 ―
[一言] 『半分の月がのぼる空』みたいな設定ですね。個人的には好きな雰囲気。
2014/05/06 15:52 退会済み
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