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土曜日


「キィキィー!!!」


「ドン!!」


 今日もまた交通事故により尊い命が天へと召された。


 その命がどこぞの見知らぬおっさんの命だったらいつものようにニュースの一コマとして見逃していただろう。でも、今回はそうもいかない。その尊い命とは俺の命だったからだ。


「あーあ、ひかれちゃった。俺死ぬのかな?まぁ、いいか。今まで大した人生じゃなかったし。未来に対した希望もないし……」


 そんなことを考えながら次第に薄れゆく意識の中、俺の耳にしゃがれ声が聞こえてきた。


「死とは何だ?」


 いつもの変なじいさんの声だ。


「死とは……恐怖? 醜いもの? 逃避? やすらぎ? 生を続けるために必要不可欠なもの? 選択肢の一つ? 愛情表現の一つ? 価値のないもの?」


 次から次へと出てくる言葉にはすべてクエスチョンマークが付いていて何度呟いてみてもそのクエスチョンマークを消すことができなかった。


「わかりません」


 結局、この一週間死について考えてみたものの、何一つわかっていなかった。


「そうか、そうか。わからんか」


 じいさんはそう言うと静かにほほ笑んだ。

 じいさんのほほえみ顔に少しムカっとした俺はふと、自分が車にひかれ、今さっき死んだことを思い出した。


「死について知るためには実際に死ぬ以外ありません。俺はたった今車にひかれて、今まさに死んでいる最中です。もう少し待ってもらえれば死についてわかると思います」


「死んだら死についてわかる? お前は本当にそう思っているのか?」


 俺は頷いた。だってそうだろ? これだけ考えても何一つわからないんだ。もう、死ぬしかないだろ。


「ばぁかもん!! 死んだところで死について何一つわかりはせん。生きることでしか死に何かを見出すことはできない。青年よ、生きよ! 生きて、生きて、生き抜いて、一生を賭けて死を抱くのだ!」


 俺はじいさんの気迫に気押され思わず頷いた。心では「このまま死ぬのもいいが……生きるのもわるくない」そんなことを思っていた。




 気がつくとベッドの上。父の声、母の声、友の声が聞こえた……あと看護婦さんの色っぽい声も♡。


 この一週間で俺の何が変わっただろう? きっと何一つ変わってはいないのだろう。唯一つ、生きることだけが答えに続いている、ということだけ、それだけが俺の心に刻まれた。


 

 目を開くといったいどんな未来が待ち受けているのだろうか?俺は多少恐れながら、その裏で少しウキウキしながら静かに瞼を開けた。


              ~完~


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