プロローグ
「死とは、何だ?」
ふいに誰かに尋ねられた。俺の手には何故か辞書があった。俺は辞書を引いてみた。
「①命がなくなること。②活動しなくなること。また、役に立たないこと。③命にかかわる危険なこと」
俺は得意げに答えた。
「ふむ、そりゃそうじゃな」
顎にある白くて長い髭をかまいながら老人はしっくりこない様子で2,3回頷いた。
変なじいさんだな。仙人みたいに髭なんか伸ばして。白いマントなんか着てるし。そんなのいまどきはやんねーだろ。それに、頭に変なワッカ着いてるし。背中には白い羽が生えてる。最近のじじいはやけにパーツが多いな。
このときの俺はじじいの変な格好を不思議には思わなかった。そういう姿が当たり前なんだと何故か思っていた。
「では、お前にとって死とはなんだ?」
再び老人に尋ねられた。さっきよりも鋭い声で。
「…………」
すぐに言葉はでてこなかった。当然だ、死についてまともに考えたことなんてないんだ。
俺は生まれて初めて真剣に死について考えてみた。まず、真っ先に『怖い』という感情が浮かんできた。胸がそわそわしたんだ。俺はさらに考えた。
「…………」
1時間、いやもっとかかっていたかもしれない。俺が考え込んでいる間、じいさんは急かすこともなくただじっと待っていた。まるで、こんなにも長い時間悩むことがさも普通のことであるかのように。
「なんかよくわかんないですけど…………怖い……です」
俺は散々悩んだ結果、結局一番最初に思い浮かんだ『怖い』という言葉を発した。
「そうか、そうか。怖いか。でも、何で怖いんだ?」
そう言うとじじいは髭を何度もかまいながら微えんだ。
「…………」
俺は答えられなかった。答えられない自分に無性に腹が立って、俺は手に持っていた辞書を思いっきり地面に叩きつけた。
そこで目が覚めた。今日は日曜日、ここから俺の一週間が始まる。